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タルトの味は?

注文が決まったところで、通り掛かった晃成に声を掛ける。


「ご注文がお決まりですか?」

「ああ。ホットサンドと本日のケーキを。ちなみにケーキの種類は何になるんだ?」

「本日のケーキはレアチーズタルトになっております」

「桜はミートドリアで良いんだよな?」

「うん、ありがとう!」


晃成は伝票に書き込みながら注文を復唱する。


「それでは少々お待ちください」


そう言って厨房へと戻っていく。

既に何度かバイトに入っているのか、晃成の働いている姿は思っていた以上に様になっていた。

元々人懐っこい性格もあり、接客に気後れすることも無いようで、意外と向いている仕事なのかもしれなかった。


「晃成君、バイト始めたばっかりでしょう?なんか、もう普通の店員さんみたいだね」

「だな。晃成は人に好かれるタイプだから、接客とか向いてるかもな」


そういって二人は晃成の働く姿を眺めるのだった。


「晃成君はって、優希君は違うの?」

「人に好かれるかどうか、ってことか?俺はそういうタイプじゃないさ。当たり障りなくって感じかな」

「えー!私から見たら、優希君も同じタイプだよ!お母さんも優希君のこと気に入ってるみたいだし」


桜は優希の自己評価に驚く。転校してきたばかりとは思えないくらいクラスの中でもそつなく立ち回っているように見えたからだ。


「クラスの皆だって……?」


そこまで言って桜は気付く。


「俺がクラスの皆から好かれてると思うか?まあ、嫌われては無いだろうが、可もなく不可もなくってところだろう。まあ、昔からハマる奴にはとことんハマるみたいだがな。桜や海斗、茜がそうだと俺は思ってるよ」

「そうなのかな?私の周りだと皆から好かれてる印象だから意外だよー。あ、お母さんと茜ちゃん達ね」

「俺は付き合いは狭く深くで良いかな、と思ってるから気にしてないけどな。そういう桜はどうなんだ?」

「私?優希君と同じだよー。だから、いつも茜ちゃん達と一緒に居るでしょ?」


あまり気にしていないのか、あっけらかんとした様子で桜は答える。


「言われてみれば。意外だな。桜みたいに可愛ければ、クラスでも人気がありそうなものだけど」

「可愛いとか、そんなこと言ってくるのは優希君だけだよ……、もうっ!」


桜は恥ずかしくなったのか、そう言ってプイッと顔を背けてしまう。


「私は良いの!仲の良い友達と居れたらそれで良いんですー」

「まあ俺としては、その方が桜を独占出来て嬉しいけどな」


優希はそう言って、自然と桜を見つめながら微笑むのだった。


「独占とか……、茜ちゃん達もいるんだから寡占が良いところだし……」


見つめられたことが原因か、それとも優希の言葉が原因なのか、桜は顔を赤くしてモジモジとして俯いてしまう。


「あのー、兄ちゃん達。良い雰囲気のところ悪いんだけど、料理が冷めちゃうから良いかな?」


少し離れたところから晃成が料理を手にこちらを見ていた。晃成の側では、仕事ぶりをチェックすべく葵も控えていた。

声を掛けるタイミングを伺っていたということは、先程のやりとりを見られていたということである。

桜はそれに気付くと一層顔を赤くしてしまう。


「こちらミートドリアとホットサンドになります。ケーキは食後にお持ちしますので、お声掛け下さい。それではごゆっくり」


晃成と葵は二人の席を離れていく。


「ほら、冷めちゃうから食べようぜ」

「恥ずかしいところ見られた―!もう学校行けないよー!」


桜は顔を両手で覆いそう叫ぶ。


「大丈夫だろ。二人とも学年違うし、そんなに高頻度じゃ会わないよ」

「気持ちの問題ですー」


桜は一息つくと、少し落ち着いた様子だった。


「うん、さっきのことは食べて忘れよう」

「それじゃあ」

「「いただきます」」


二人は雑談を交わしながら食事を楽しむのだった。


「ふう、美味かった」


食事を終え、デザートを頼むべく晃成に声を掛ける。


「お呼びでしょうか?」

「食後のデザートを頼む」

「畏まりました。少々お待ちください」


晃成は厨房に戻り、少しするとデザートを手に戻ってきた。


「お待たせいたしました。本日のケーキ、レアチーズタルトでございます」


そう言って桜の方へと皿を置くのだった。


晃成が戻っていくことを確認し、桜が話を切り出した。


「私が食べるって思われちゃったね。はい、優希君」


桜が皿を優希の方へ移動させようとしたところへ声を掛ける。


「先に好きなだけ食べていいよ。フォークも一つしかないし、先に食べちゃいな」

「好きなだけ……」


桜の中で多めに食べるのか葛藤があるのだろう。少々迷った結果、綺麗に半分に切り分けた。


「それじゃあ、先に貰うね!」


切ったタルトを一口大に切り分け、桜は口へ運ぶ。


「んー!美味しー!」


頬に手を当て、満面の笑みで感想を口にする。

その様子を優希は微笑みながら見守るのだった。

桜は視線を感じ何を勘違いしたのか、切り分けたタルトをフォークに刺し、優希の口元へと伸ばした。

優希は意外そうな表情を浮かべる。


「あれ?違った?こっちを見てるから食べたいのかなって」

「ううん、間違ってないよ」


そう言って、差し出されたタルトをそのまま口に運ぶ。


「うん、凄く美味いな」

「でしょ?美味しいよね!」


タルトが優希の口に合ったことが嬉しいのか、桜の表情もニコニコ顔になる。


「やっぱり、一人で食べるよりも誰かと食べるケーキは美味しいよー!」

「それじゃあ、次は俺の番だな。ちょっとお皿とフォークを貸してね」


訳も分からないままフォークを優希へと渡す。


優希はさらに残ったタルトを一口大に切り分けフォークに刺すと、今度は桜の口元へと運ぶ。


「はい、あーん」


優希が笑顔で言うと、桜は自分が先程行ったことに気が付いた。


「うう……」


顔を赤らめ、優希の顔とタルトを交互に見つめる。


「もう要らなかった?」

「食べる……」


「それじゃあ、どうぞ」


優希はニコニコとしながらフォークを差し出し続ける。

桜は意を決した様子で、差し出されたタルトを口にするのだった。


「美味しい?」

「分からなくなっちゃったよ……」


意識してしまえば、このやりとりもとても恥ずかしく感じてしまい、桜はタルトどころではなくなってしまった。


桜にタルトを食べさせると、そのまま優希もタルトを口に運ぶ。


「こんなに美味しいのにもったいない」

「誰のせいだと思ってるんだよー!」


桜はそう抗議してくる。


「それじゃあ、もう食べないの?」

「食べる……」


しかし食欲には勝てなかったようだった。



そんなやりとりを繰り返しながらデザートを終えると、軽く雑談を続けてキリの良いところで会計へと進む。

流石にお金の管理は晃成にはまだ早いのか、葵が対応してくれた。


「ごちそうさまでした」

「葵先輩、ごちそうさまでした!美味しかったです」

「……二人は仲良いね。また来てくれると嬉しいな……」


そう言って葵はそっと微笑むのだった。


会計を終えると、晃成がこちらに気付いたようで声を掛けてきた。


「あ、兄ちゃん!もう帰るの?」

「ああ、料理美味かったぞ。晃成の働いてる姿も見られて満足だよ」

「もう、父さんみたいなこと言うんだから。また来てね!」


二人は店を出ると自宅へ向けて歩き出す。


「優希君、今日は買い物に付き合ってくれてありがとうね!」

「気にしなくていいよ。俺が言い出したんだし」

「それでも言いたかったの!」


そう言って、桜はふふっと笑う。


二人はマンションに着き、エレベーターに乗ろうとすると後ろから声を掛けられた。


「あら、桜と優希君じゃない。いま帰りだったのね」


振り返ると、そこにいるのは一人の男性といつもよりもお洒落な菫の姿だった。

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