晩御飯は?
プレゼントを買い、適当に目についた店を見て回っていると桜のスマホにメッセージが届いた。
「あ、お母さんからだ。ホントにお父さんと二人で食事に行くみたい。予定通り外で食べてきてね、だって」
「了解。というか、もう晩飯を心配する時間だったか?」
時計を見るとすでに17時を回っていた。
「もうこんな時間か。晩御飯を食べるには早いけど、店を考えるにはちょうど良いかもな。とりあえず、ちょっと座ろうか」
「うん!」
二人は通路に設置してあるベンチへ腰掛ける。ベンチは間隔を開けて数個設置してあり、それぞれに親子連れ、カップルが同様に座っていた。
「いやー、何だかあっという間だったな。もう晩飯の話になるとは」
「だねー。楽しい時間はあっという間だよー!」
「お、楽しいと思ってくれてるんだ?」
優希が少々意地悪く訊いてみると、その意図には全く気付いていないのか桜は当たり前のように答える。
「楽しかったよー?あれ?優希君は楽しくなかった?」
桜は少し困ったように上目遣いで訊いてきた。
その言葉に、優希は自分の発言がとてもしょうもないものだったと恥じ入り、改めて自分の気持ちを素直に言葉にすることにした。
「ううん、凄く楽しいよ。変なこと言って悪かったな」
気持ちを素直に表現すれば、自然と表情も笑顔になる。謝罪の気持ちがそうさせたのか、優希の手が自然と桜の頭をポンポンと撫でていた。
「楽しいなら良かったよ!でも、何で私は撫でられてるのかな……?」
優希の言葉に安心したものの、突然触れられて戸惑ってしまう。その表情は少し赤みがかっているようだった。
「ん、悪い。何だか撫でたくなった。嫌だったか?」
「嫌じゃないけど……、恥ずかしい……」
優希が撫で続けていると、桜はどんどん顔を赤くするも拒否はせずされるがままになっていく。
ひとしきり撫でて優希は満足すると、そっと手を離す。
「ふう、満足だぜ」
優希は良い笑顔でそう言うのとは対照的に、桜は顔を真っ赤にして固まっていた。
手の感触が無くなったことに気付くと、桜はハッとしたように
「とっても恥ずかしかった!優希君はアレかな?人の頭を撫でるのがお好きなのかな?私、前にも頭を撫でられた記憶があるのですが!?」
桜は恥ずかしさを紛らわすかのように早口で捲し立てる。
そんな桜に少々気圧されながらも、優希は過去を思い出しながら桜の疑問に答える。
「うーん、どうだろう?小さな頃に晃成の頭くらいは撫でたかもしれないけど、女の子の頭を撫でた記憶は無いな。こんなことするのは桜だけじゃないか?」
「そ、そうですか……、私だけ……」
桜は急に大人しくなると、小さな声でぶつぶつと呟き始める。優希までその声は届くことは無かったが、あまり気にした様子では無かった。
「そうだ、晃成と言えばバイトしてるんだったな。様子見ついでに食事に行くのも良いかもな」
「そ、そうだね。今から向かえば、良い時間かも……」
桜はそう言いながら、火照った顔を冷ますようにパタパタと手で扇いでいた。
「どうしたんだ?室内は適温だと思うけど」
「誰のせいだと思ってるのさ!もう!」
桜は可愛らしく膨れてみせた。
「はいはい、俺が悪かったよ」
優希はまったく悪びれた様子もなくそう言うと、ベンチを立ち上がり桜を促す。
「そろそろ行こうか。カフェ葵で良かったか?」
「うん!」
ショッピングモールを出て再びバスに乗ると、そのまま駅前に向かう。
バスの中は買い物を終え帰宅する人々で混み合っており、行きの様に座ることは出来なかった。
当然二人も立つことになるが、駅までそんなに長い時間では無いため、あまり気にしていなかった。
しかし、当然その間にもバス停は複数あり駅に向かう人が乗り込んでくる。
「流石にこの時間は混むんだな。桜、大丈夫か?」
「なんとか……」
桜は身長もあまり高くないため、優希と比べてこの人混みは大変そうだった。
立ち位置も悪く、吊り革を掴んでいる優希と違い、桜は椅子や手すりにも上手く手が届いていない様子だった。
当然そんな状況でブレーキを踏まれると
「きゃっ!」
桜がその揺れに耐えられず、優希の方へ倒れ込んでくる。
「おっと」
「ごめんね」
桜は上目遣いでそう言ってくる。
「気にしなくていいよ。それより、掴むところが無いんだろ?俺の腕でも掴んでたら良いよ」
そう言って優希は桜へ腕を差し出す。
少々戸惑いながらも、その腕を掴むのだった。
「やっと着いたな。行きとはえらい違いだ」
「確かに。乗ってるだけで疲れちゃった。早くお店で休みたいよー!」
桜としてはバスに乗っている間、ずっと優希の腕を掴んでいたことで精神的な負担があったのだが、そのことに本人は気付いていなかった。
疲れた体を癒すため、二人は雑談を交わしつつそのままカフェ葵へと向かう。
そしてそのまま二人で扉の中へ入っていくのだった。
「いらっしゃいませ!って兄ちゃんと桜先輩、どうしたの?」
「どうしたのって、食事に決まってるだろ?」
「晃成君こんばんは、お仕事頑張ってるかな?」
慌てたように晃成は二人を席に案内する。
「お席にご案内します。こちらへどうぞ」
席に着くと二人はジッと晃成のことを見つめる。
「えっと、どうかされましたか?」
「いやー、働いてる晃成を見るのは初めてだから新鮮だなーって思って」
桜も同じ気持ちなのかうんうんと頷いていた。
「冷やかしのお客様はお断りしております」
「……コラ、勝手に断らない……」
働き出したばかりの晃成のことを気に掛けているのだろう、その様子を見ていた葵がやってきた。
「……ほら」
葵が視線を送ると
「ご注文がお決まりになりましたらお呼び下さい」
「……うん」
晃成の言葉に満足したのか、葵は頷くと二人は戻っていくのだった。
「さて、とりあえず頼んじゃおうか」
「そうだね!なに食べようかなー」
二人はメニューを開き注文を決めていく。
「昼はご飯を食べたし、夜はパンかな。ホットサンドにするか」
「優希君、それだけで足りるの?」
「あえての少な目だよ。そして俺は、ここに本日のケーキをプラスする!」
その言葉に桜は衝撃を受ける。
「そんな……。昼も外食、夜も外食なのにケーキを食べるなんて……!なんというカロリーオーバー!」
桜の言葉を聞き、優希は改めて桜へと視線を向ける。
「桜はカロリーを気にするような体型じゃないと思うけど?」
「油断は大敵なのですよ!でも、ケーキかー。目の前で食べるのを見てるだけなのも辛い……」
桜はぐぬぬ……、といった様子でメニューへと視線を移す。カロリーが低そうな食べ物を選び、ケーキを付けるか悩んでいる様子だった。
「そんなに食べたいなら半分やるよ。それなら少しはカロリーが減るだろ?」
その言葉に桜は表情をパッと明るくさせる。
「良いの!?あ、でもでも、そこまで気を使わせるわけには……」
悩んではいるようだが、桜は申し出を断ることにした。
「俺から言ってるんだから気にするなよ。一緒に食べようぜ」
再び笑顔でそう言うと、桜も決心がついた様子で
「ありがとう!」
笑顔で返すのだった。




