買い物スタート
優希はオムライスを口に運ぶと、そのまま数度食べ進める。
「おお、美味しい。これなら今後も食べに来ても良いかもな」
そんな様子をニコニコと桜が見守っていた。
不思議に思った優希は、その視線を受け止め首をかしげた。
「桜、どうしたんだ?」
「優希君ってオムライス好きなんだなーって思って。カフェ葵でお昼を食べた時もオムライス食べてたでしょ」
「確かに好きだけど、そんな昔のことを良く覚えてるな」
優希は少々驚いたように口にする。
「そんなに昔のことじゃないよ!先週の話でしょ。というか、優希君と知り合ってまだ二週間経ってないんだね」
「言われてみればそうだな。何だか、桜とは昔からずっと友達くらいの感じでいたけど」
「私もだよ。家が隣で学校以外で話す機会が多いからそう感じるのかな?」
「それもあるかもな。ただ海斗も言っていたが、人間は相性だと思うよ。多分俺達は相性が良いんだと思う。俺はこんなペースで仲良くなった人って他に居ないし」
優希は自分の過去を振り返るも、やはり桜程の相手は思い浮かばなかった。
「だから、今後も仲良くしてくれると嬉しいし、もっと仲良くなりたいと思ってるよ」
優希は笑顔でそう言うのだった。
「え、え……。もっとってどういう意味かな……?」
桜は顔を赤くして、小さな声でそう呟く。
「どういう意味だろうね。今は仲良くして欲しいとだけ覚えてくれてたら良いよ」
「うん……」
「さあ、早く食べないと冷めちゃうよ」
そう言って食事を再開する二人だったが、桜は今日のパスタの味はイマイチ分からなかった。
食事を終え店を出る頃には桜も普段通りに戻っており、当初の目的通り買い物がスタートした。
「さて、目的はお父さんの誕生日プレゼントだったな。ハンカチとかネクタイは今まで渡したんだっけ?」
「そうそう。ベタなものはもうプレゼントしてるんだよ」
二人は案内板を見ながら、何か無いかと探していく。
「お父さんの趣味は?」
「読書かな。あとは仕事の付き合いでゴルフとか、お酒もたまにも飲んでるね」
「ふむ。ゴルフ関係はこだわりがあるだろうし、読書関係かお酒関係だね」
「ブックカバーはプレゼントしたことあるんだよね」
「なるほど。あえて本をプレゼントするか、お酒のグラスあたりが良いかな。使わないことは無いだろうし」
案内板には書店、雑貨店、酒屋と該当するであろう店舗がいくつか見つかった。
とりあえず、幅広く置いてあるであろう雑貨店から見て回ることにした。
「この雑貨屋さんならこっちだよ」
桜に案内され施設内を歩きだす。
ショッピングモールの中は土曜日ということもあり、多くの人が歩いている。家族連れやカップルの姿が多く見受けられた。端から見ればおそらく二人もそのように見えているのだろう。
「誕生日と言えば、海斗の誕生日も近いんじゃないか?5月5日だろ?」
「そうだね。プレゼントはまだ買ってないし、あわせて買っちゃおうかな」
桜は少し考えるとそう結論付けた。
「海斗達にはどんなプレゼントを渡してるんだ?」
「海斗君たちにはお菓子の詰め合わせとかマグカップとかのちょっとしたものだよ。お金掛けすぎちゃうとお互い気を使っちゃうからね」
「なるほど。まあ、良いものがあれば買うってことで」
「そうだね!あ、ここだよ」
そこには広い売り場が設けられた雑貨店があった。明るい色調で開放的な空間になっており、利用しやすい作りとなっていた。
「これだけあれば何か見つかるかな。まずはグラスを見てみよう。お父さんはどんなお酒を飲むんだ?」
「量は多くないけど、ビール、ワイン、日本酒って感じで色々だよ」
「うーん、それじゃあビアグラスを重点的に見ていこう」
「何でビールなの?」
「ワインも日本酒もボトルから直接飲むことは無いだろう?もうグラスはあると思って。ビールなら缶から直接飲んでる可能性があるから、一番使ってもらえるんじゃないかってね」
「なるほどー。確かに缶ビールをそのまま飲んでるよ!よっ!名探偵!」
「ふふふ、任せてくれたまえよ」
そんなやりとりをしながら目的のモノを探していく。
「この辺だな」
そこには陶器、ガラス、金属といった様々な種類の食器が並べられていた。
「食器なんて頻繁に買うものじゃないから何だか新鮮だよー。プレゼントじゃなくて個人的に欲しくなっちゃいそう」
桜はキラキラとした瞳で食器類を見回す。料理が得意な桜にとっては食器類は魅力的なものとして映るのだろう。
「食器なら先週買ったぞ。とりあえず最低限は揃えたけど、こうして見ると、まだ買い足しても使えるものがありそうだな」
「えー、いいなー」
本当に羨ましそうに桜が優希の方を見てくる。
「いやいや、モノが足りないだけだから。それよりほら、プレゼントを探すんだろ?」
「そうだった!」
そう言って二人は再びプレゼント探しに戻るのだった。
「結構色々種類があるんだな。お店で使うようなジョッキだと面白くないし……」
「優希君、これとか綺麗じゃない?」
それはどこかの工芸品なのかガラス製であるものの、一部に青い色合いが使われており、お店で見かけるものとは一味違うものだった。
「良いじゃん。お洒落なグラスだね」
「でしょー!」
「値段はどうだ?予算内に収まりそう?」
「三千円くらいだし、問題無いよ。優希君は何か良いものあった?」
「俺はこれかな」
そう言って目を付けていたグラスを棚から取り出す。
「俺は見た目よりも実用性重視ってことで。ジョッキというよりはタンブラーなんだけどな。保温機能付きのものだから、これに移せば冷たいままビールが飲めるはず」
「なるほど。値段も私のやつと同じくらいだね」
桜は二つのグラスを見比べながらどうするかを考えていた。
「ここで決めないといけない訳じゃないんだから、他の店に行ってから決めてもいいんじゃないか?あくまでも今の時点では候補だよ」
「そうだった!何だか決めなきゃって気持ちになってたよ。だけど、ここで決めちゃっても良いくらいかも」
「まあ時間もあるし、もう少し回ってみようぜ。荷物を持って歩き回るのも面倒だしな」
「そうだね。次はどこに行く?さっきの候補だと本屋さんかな?」
桜はグラスを棚に戻すと、そう言って書店の方へと歩き出すのだった。




