買い物スタート(しません)
今日は土曜日、以前から約束していた桜との買い物の日でもある。
優希は黒のコーチジャケット、白のTシャツ、黒スキニージーンズという服装で準備を済ませ、家を出る前に改めて髪型を整える。
「そろそろ行くか」
時間を確認すると11時過ぎというところだった。昼前とのいう約束しかしていなかったが大丈夫だろうと思い家を出る。
家は隣のためすぐに到着する。そのまま躊躇うことなく、優希は橋本家のインターホンを押した。
「はーい」
モニターで誰が来たのか確認したのだろう。菫が扉を開け応対する。
「こんにちは菫さん」
「優希君、こんにちは。桜でしょ?今準備してるところだからもう少し待ってあげてね」
「そうでしたか。僕も少し早く来すぎたかな?」
「今日は桜とデートかしら?」
「買い物ですよ。まあ、男女が一緒に出掛けることをデートと言うのであれば、デートなのかもしれませんね」
菫の言葉がどこまで本気なのかは分からないため、優希も少し冗談交じりに話しに乗っかることにした。そうこう話をしていると、玄関から戻ってこない菫が気になったのか、桜が廊下の端から顔を出して様子を伺う。
「お母さん、お客さんだった?って優希君!?え、連絡くれてた?」
そういって慌ててスマホを取り出す。しかし当然そこには何の連絡も入っていなかった。
「あー、先にスマホに連絡すれば良かったな。普通に来ちゃった」
「それは良いんだけど……。ちょっと待ってて、もう少しだから!」
桜は準備が中途半端な自分の姿を思い出し、慌てて準備に戻る。少しすると準備を終えた桜が玄関へとやってきた。
桜は白のフリルブラウス、デニムジャケット、茶系のガウチョパンツにハンドバッグという出で立ちだった。
「おまたせ!ごめんね、待たせちゃって」
「いや、こっちこそ悪いな。早すぎた」
優希はそう言うと、改めて桜の服装をマジマジと眺める。
「桜、今日の服、凄く似合ってる。可愛いな」
「そ、そうかな……」
桜は何でもないように言いながらも、褒められるとやはり嬉しくなってしまう。
そしてそんな様子を菫が黙って眺めているのだった。
その視線に桜が気付くと、顔が赤くなってしまうのだった。
「桜、良かったわね。悩んだ甲斐があって」
菫は桜の耳元でそう囁くと、ニコニコしながら家の中へと戻っていく。
「それじゃあ優希君、桜のことよろしくね。あ、晩御飯は食べてくるの?」
流石にそこまでは分からないと思いながら桜に視線を送る。
「うーん、要らないかな。お母さんも、たまにはお父さんと二人で外食してきたらどうかな?」
「そうね。桜が必要ないのであれば、それも良いかも。それじゃあ準備しないから、ちゃんと食べてくるのよ」
「はーい!それじゃあ行ってくるね、お母さん。行こっ!優希君」
「それじゃあ菫さん、行ってきます」
「いってらっしゃい」
菫はニコニコと笑顔で二人に手を振りながら、その姿を見送るのだった。
マンションを出ると二人は一度立ち止まる。移動手段を考えるためだ。
「さてさて、ショッピングモールまではどうやって行こうか?直接バスで行けるんだっけ?」
「そうだよ。バスの時間が近ければそれが一番早いかも」
「そうか。とりあえず時刻表を確認するか」
最寄りのバス停まで歩き時刻を確認すると、あと五分で目的のバスが来るようだった。
「ラッキーだな。もうすぐ来る見たいだぞ」
「お、私の日頃の行いが良いからだね!」
「こんな所で運を使っていいのかね?」
桜の冗談に相槌を打ちながらバスを待つ。程なくすると目的のバスが着き、それに二人は乗り込む。
席も空いており、二人で並んで座った。
「さっきも言ったけど、桜の今日の服、凄く似合ってるな。そう言えば、私服を見るのって初めてな気がする。いつもは制服か部屋着だったから、何だか新鮮だな」
「そういえば……。私服よりも先に部屋着を見られているとは不覚……!でも、褒められて悪い気はしないかな」
そう言って桜は笑顔を見せる。
「家を出る前に菫さんから何を言われたんだ?最後耳打ちされてただろ?」
「あれは……、秘密!」
「ふむ、それなら仕方ないか」
優希も追及することは無く、そのまま目的地までの移動を雑談しながら楽しく過ごすのだった。
ショッピングモールに到着した二人は早速案内板へと足を向ける。
「俺、ここには初めて来るんだけど、桜はよく来てるのか?」
「そうだね。茜ちゃん達と来ることもあるし、お母さんとも来るかな。結構色んなお店があるから、見てるだけでも楽しいんだよ!」
「ふーむ、福岡には無かった飲食店も入ってるな。テレビで名前だけ聞いてた店だな」
「そうなんだ?そういえば、ちょっと早いけどお昼ご飯食べちゃう?今なら席も空いてるだろうし」
時計を見ると11時半を回ったところであり、確かにちょうどいい時間であった。
「そうだな。そうしようか」
「お店はどうする?せっかくだし、今言ってた福岡には無いお店に行ってみる?」
「良いのか?普通のファミレスなんだけど」
「え、ファミレスってこれ?」
桜が指差した名前は関東では誰でも知っているような、有名チェーンレストランだった。
「そうそう。このファミレス、九州には無いんだよね」
「それじゃあ、ここにしようか。値段も手頃だし、種類も選べるしね」
店の前まで移動し、そのまま店員に案内される形でお店の中に入っていく二人。予想通り店内はまだ空いており、比較的自由に席を選べる状況だった。
一番奥のテーブルに着くとメニューを見ながらそれぞれが注文を決めていく。
「桜、注文は決まった?」
「うん、大丈夫だよ」
テーブルに設置してあるボタンを押し店員を呼ぶとそれぞれが注文を口にする。ちなみに優希がオムライス、桜がカルボナーラであった。
「でも意外。ここのファミレスって九州に無いんだね」
「あ、九州を馬鹿にしたな?」
「違うよ!違うよ!」
「冗談だよ」
優希の冗談に慌てて反応する桜。冗談だと分かると分かりやすく抗議してみせた。
「もう!たちが悪い冗談はダメだよ!ホントに気にしてる人がいるかもしれないんだからね?」
人差し指を立て、子供に教え聞かせるように注意するのであった。
「話を戻すと、九州に無いのは確かだね。逆に九州は違うファミレスが幅を利かせてるから。だから逆にこっちにはあんまり店舗が無いかも」
「へー、それはちょっと気になるかも」
「もし九州に行く機会があれば行ってみると良いよ。といっても普通のファミレスだよ?それよりは焼鳥とか食べて欲しいけど」
「だね。あれ?そういえば、修学旅行で九州に行くよ。福岡行って長崎みたいな感じだったかな?」
「え!そうなの?というか俺は修学旅行に参加できるんだろうか。積立とかしてないけど」
「うーん、私には分からないなー。でも一緒に行けると良いね!」
「そうだな。先生に訊いてみるよ」
話をしていると時間が経つのも早く、注文した料理が届けられた。
「とりあえず、冷めないうちに食べようか」
「そうだね!」
「「いただきます」」




