散策しよう
今日は第二回の文化祭実行委員会が行われていた。
それぞれのクラスが出し物を決めてきており、書記がそれを黒板へとまとめていた。
そこに書かれている出し物は、喫茶店、ドーナツショップ、タピオカ、お化け屋敷、ご当地ショップ、謎解き、テーマパーク等々、そして我らが男装喫茶と様々に並んでいる。
飲食とそれ以外の比率は半々といったところか。調理が出来ないことにより、焼きそば、クレープといった定番のお店が作れないことが災いしたのだろう。喫茶店も多少被りはしたものの、男装喫茶ということもあり完全に被ることは無かったようだ。
板書が終わると、次にそれぞれのクラスが出し物の概要をプレゼンしていた。
分かり辛いものもあったため、この時間は非常に助かるものだった。
ご当地ショップは『地元の商店街や地域のお店から商品を仕入れて販売。アンテナショップのようなもの』、テーマパークは子供がターゲットなのか『輪投げやポーカーなど室内で遊べるものを多数揃えている』ということらしい。
プレゼンが一通り終わると実行委員長である笹原が再度確認を始める。
「ありがとうございます。それぞれが出し物を早々に決めてくれたので非常に助かりました。内容も極端に偏っていないため、このままで問題無さそうです。おそらく勝算があって内容を決めたかと思いますのであまり心配していませんが、仕入れる予定だった先との交渉が上手くいかない等のトラブルが発生した場合には早めにご相談ください」
その言葉を聞いた桜が隣に座って居る優希に小声で話しかける。
「優希君、ウチのクラスってどこから仕入れるんだっけ?」
「いや、実は決まってない。どちらかというと男装がメインだからな。それは今度のLHRで決めるよ」
そのまま会議は進み、笹原の言葉で二度目の実行委員会も終了になる。
「次回は来週金曜日です。仕入れ先との交渉状況などを共有したいと思います。また知ってのとおり、文化祭の前には中間テストもあるので、文化祭のせいで勉強が疎かにならないように、その辺りもクラスの皆には伝えておいてください。それでは解散です。お疲れ様でした」
それぞれが席を立ち、一気に喧騒が広がる。
優希と桜もそのまま帰路に着く。
「しかし、食べ物はどうするかね?」
うーんと優希は考えながら歩き続ける。
「まさかのノープランだったとは驚きだよ!」
「まあまあ、他のクラスの出し物次第って言うのもあったからな。とりあえずドーナツは無しかな」
「そうだ、ちょっと駅前でも見ていく?良いお店が見つかるかもよ」
桜がそう提案してくる。優希もそれは良いかもしれないと思い、その提案に乗っかることにした。
「そうだな。何か参考になるかもしれないし、ちょっと見ていこうか。あ、菫さんには一応連絡しておいてね。そんなに遅くなるつもりは無いけど」
「はーい!」
桜は返事をするとスマホを取り出し、菫にメッセージを送った。
「これで良し!それじゃあ行こう!」
二人は駅前に移動し、歩きながら良さげなお店を探していく。
その様子は端からみれば制服デートなのは一目瞭然なのだが、当の本人たちは気付いていない様子だった。
「喫茶店なんだしケーキは外せないよな。しかし文化祭でそんなに単価は上げられないし……」
「優希君、めちゃめちゃ考えてるね。あくまでも参考なんだし、気軽にね。みんなから良い意見が出るかもしれないんだし」
優希は桜の言葉に気分も軽くなり、とりあえず今の状況を楽しむことにした。
「そうだな。とりあえず色々見て回ろうか」
その言葉通り、ウインドウショッピングさながらに外から商品を眺め、値段を確認して回る。時折飲食とは全く関係のないアクセサリーショップ等に入っていくのはご愛嬌だ。
「こうして改めて見ると、やっぱり文化祭で扱うには高いね」
途中のコンビニで買ったソフトクリームを食べながら二人で歩く。
「俺たちが見てきたのは売値だからな。仕入れ値になるともっと安くなるとは思うけど、そもそも交渉が出来るかも分からないな。いっそのことディスカウントストアで揃えるか?食べ物は原価でも飲み物で利益が取れるだろうし」
「利益が出ても私達には関係ないんじゃない?」
「せっかくやるんだし、こういう楽しみ方もありかなと思ってね。自分ならってちょっと考えてみた」
「優希君がお店を開いたら経営に厳しそうだなー」
優希が店を構えたことを想像しながら桜がそう口にする。
「そうか?それなら経営には厳しいが、従業員には優しい店長っていうのはどうだ?働きやすい職場だな」
「えー、優希君が優しい?ホントかな?」
桜は意地悪くそう言って微笑んだ。
「優しいさ」
そう言うと優希はおもむろに桜の頬へ手を伸ばし、口の端を親指で拭った。
「こうやって、口元に付いてたソフトクリームを拭ってあげるくらいにはね」
優希は特に気にした様子もなく、親指を口元へと持っていき、クリームを舐め取った。
流石に桜は恥ずかしかったのか、顔を真っ赤にして言葉を詰まらせる。
「な、なな……」
「な?」
「何で舐めちゃったの?言ってくれたら自分で取ったのに!」
「おお、何も考えてなかったぜ。ごちそうさま。とっても美味しかったです」
その言葉に桜は一層真っ赤になってしまう。
すると桜は何を思ったのか優希の持っていたソフトクリームにかぶりついた。
「ごちそうさま!とっても美味しかったです!」
顔を赤くしながらも、桜はお返しとばかりに意地悪く笑った。
二人はマンションに戻り、扉の前でいつものように別れようとしたが、そこに優希が待ったを掛けた。
「遅くなっちゃったし、一応菫さんに声を掛けてから帰るよ」
「別にいいのにー」
桜はそう言いながらも一度自宅へ戻り、母を連れてきた。
「あらあら、優希君どうしたの?」
「いえ、大事な娘さんを遅くまで連れ回してしまったので、せめてご挨拶をと思いまして」
「律儀なのね。前にも言ったけど、優希君が一緒なら安心だわ。流石に遅すぎると心配だけど、今日も連絡を貰っていたし、そこまで気にしなくていいのよ」
「そこまで信頼して頂けて光栄です。なるべく遅くならないように気を付けますので」
優希は菫からの信頼に慢心すること無く、そう答えるのだった。
「それじゃあ、あんまり話しこんでも悪いし、そろそろ戻るわ。おやすみ桜。また明日な。菫さんもおやすみなさい」
「うん!また明日ね」
「おやすみなさい」
そう言ってそれぞれ自宅に戻っていくのだった。




