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バイト初日(晃成編)

「よし、頑張るぞ!」


バイト初日の晃成は気合を入れて店の扉を開けた。

店の中には数人の客がおりマスターが接客していた。常連なのか会話を挟む余裕すらうかがえる。

晃成はマスターの手が空くのを待って声を掛ける。


「こんにちは、マスター。今日からよろしくお願いします」

「こんにちは晃成君。それじゃあ、ちょっとこっちに来てもらえる?」


マスターとともに店の奥にある更衣室に入ると制服を渡される。

更衣室は大きくなく整頓こそされているものの、日常感があふれ出ていた。


「これが制服ね。サイズは合ってると思うけど、着てみて違和感があったら教えて」

「ありがとうございます。エプロンも着けるんですね」

「そうだよ。そのうちデザートの盛り付けなんかも任せるかもしれないし、シャツが汚れると働き辛いだろ?」


確かに、と思いながらもマスターの言葉をひとつひとつ真剣に聞いていく。


「そうだ、これは伝えておかないといけなかった。ウチは家族経営の喫茶店でね。元々そんなに人を雇うつもりは無かった。だから、この更衣室は共用なんだ。使う時はこの札をドアノブに掛けておいてね」


マスターが手に取った札には『使用中』と書かれており一目で分かるようになっていた。


「もちろん、札が掛かってる時に入ったりしたらダメだよ」

「もちろん分かってます!」


とはいうものの、同じスペースで葵が着替えるのかと考えると、少し変な気持ちになってしまう。


「……お父さん、こんな所に居た。……晃成、もう来てたんだ。あとは私が教えておくからお父さんは表に戻ったほうが良い……」


今帰って来たのであろう、そこには制服姿の葵の姿があった。

マスターは葵にあとを任せると表に戻っていった。


「葵先輩、今日からよろしくお願いします!」

「……よろしく。優希からも晃成のこと頼まれた……」

「兄ちゃんが……。心配させちゃってるなー」


あちゃー、といった感じで、その時の優希の様子を想像すると晃成はついつい笑ってしまった。


「……先に準備してしまうから少し待ってて……」


そう言って葵は一人更衣室に入っていく。もちろん先程言われていた札はドアノブに掛けられている。

しかし音までは消せるわけもなく、微かにだが衣擦れの音が中から聞こえてくる。そんな状況で葵の着替え姿を想像してしまうのは、男子高校生としては仕方のないことだった。


「……お待たせ。……何だか顔が赤い?」

「いえ、何でもないですよ」


そういってごまかすと


「とりあえず俺も着替えてきますね。何か間違ってたら教えてください」

「……うん、待ってる……」


晃成は更衣室で制服へ着替える。

渡された制服は七分丈の白いカラーシャツに黒いパンツ、首から掛けるタイプの黒いエプロンだった。

確認するようにしながら着替え終わると葵を更衣室の中に呼ぶ。


「葵先輩、こんな感じでどうでしょう?」


葵は晃成の制服姿を確認していく。


「……大体大丈夫。でも……」


葵は晃成の後ろに回るとエプロンの結びを調整していく。


「……どうせならエプロンも綺麗に結んだ方が印象が良い……」

「ありがとうございます!」


自分では分かり辛い部分だったため気付けなかった。しばらくは誰かに確認してもらおうと考える晃成だった。


「今日は仕事の流れを分かってもらえばいい……」


フロアには友人と会話を楽しむマダムや早めに仕事が終わったであろうスーツ姿のサラリーマンの姿が見受けられた。

葵は実際にやってみせながら晃成に仕事の流れを説明する。

接客、給仕、片付け等様々だが、人数の都合上臨機応変さが求められることは晃成も理解した。

手が空いていれば厨房で食器を洗ったりデザートの盛り付けもするようで、それぞれとの連携が必要なようだった。

初日という緊張感もありバイトの時間はあっという間だった。

営業終了が21時であり、晃成もそれに合わせてバイト終了となる。閉店作業もあるが、それは他のメンバーで事足りていた。


「お疲れ様でした!」


学校から直接来たため再び制服に着替える。

元気よく挨拶をすると、マスター、葵からそれぞれ挨拶が帰って来た。

そのまま店を出ようとしたところで晃成は声を掛けられた。


「……待って。これ……」


何だろうと思い振り返ると、葵が一冊のノートを手に立っていた。


「……これ、お店のメニュー表……、どんな料理なのか分からないと、お客さんからの質問に答えられない……。出来れば早めに覚えておいて……」

「ありがとうございます!でも良いんですか?葵先輩のノートを借りてしまったら、先輩が困るんじゃ……?」

「……それは問題無い。私はもう覚えてる……。それは晃成用に作ったやつ……」


よく見るとそのノートは真新しく最近買ったことが窺えた。


「ありがとうございます!そこまでして頂いてすごく嬉しいです。俺、頑張りますね!」


葵の気遣いがとても嬉しく、晃成はニコニコと笑顔になり葵にそう返すのだった。



晃成は自宅へ帰りつき、就寝の準備もそこそこに葵から貰ったノートを開いてみた。

そこにはメニューの写真、名前、金額のほかに、アレルギー食材など注意すべき点まで記載されていた。


「葵先輩、これ作るの結構手間だっただろうな。バイトが決まったのってほんの二日前なのに」


葵の気持ちを無駄にするまいと葵のノートを読み込み、ネットで敬語の使い方を改めて確認する晃成だった。


「やばっ、勉強もしないと。ここまでしてもらって成績落とすわけにはいかないな」


しばらくすると勉強もしなければならないことを晃成は思い出す。

これからは効率と集中力も考えていかないとな、と考えを改めるのだった。


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