文化祭は何をする?
翌日、さっそくLHRの時間が与えられ、文化祭での出し物を決めることになった。
おそらく他のクラスでも同様だろう。
優希と桜は実行委員として教壇に立ち、司会進行していく。
「皆さんには先日の実行委員会で配られた資料と付随する質問事項をまとめたものをお配りしています。まずは各自で一度目を通してください」
少々間を置き、優希は話を進めていく。
「それでは話を続けます。内容を読んだうえで質問がある人いますか?」
いくつか手が挙がる。その質問はこうだ。
・飲食に限らず、商店のように仕入れて売るというのは可能なのか。
・喫茶店等にした際、制服をそれっぽいものへ替えることは出来るのか。
・売上の多いクラスを表彰したりするのか。
それに対する回答はこうだ。
・学生としてふさわしいと判断されれば可能。しかし予算に限りがあるため、単価が高いと数を揃えられず、そもそも店舗として機能しない。
・同様にふさわしくない格好は許可出来ない。また人数分の予算を考えると購入は難しい。作るというのもデザインから考えるという点で時間的に厳しい。
・表彰は無い。商売とアトラクションを比べた時に、アトラクションは入場料がそのまま利益になるため平等ではないため。
「質問も無くなったところで、出し物を決めます。まずは用紙を配るので、それぞれやりたいことを書いて下さい。周りと相談はしないでくださいね」
桜が用紙を配って回る。
各々がやりたいことを記入し、用紙を回収する。
「桜、板書をお願いしていい?」
桜は頷くと、チョークを片手に黒板の前で待機する。
「それでは読み上げていきます」
優希が読み上げていき、一つ一つ桜が書き記していく。内容が同じものは正の字で数を数えていく。
さらにその中から意見を聞きながら三つまで絞る。
残った候補は喫茶店、タピオカ屋、謎解きの三つだった。
「さて、この三つが残ったけど、意見がある人は?」
「喫茶店でタピオカを出したらダメなの?」
女子から当然の質問が飛んでくる。
「大丈夫ですよ。ただ、タピオカを扱うとなると専用のストローやタピオカ自体も仕入れないといけないので原価が上がります。その分、他の商品を圧迫するかと。数を限定すれば可能かと思います」
「なるほど。一応可能という訳ね」
また別の生徒からも質問が飛ぶ。
「謎解きの謎は誰が考えるんだ?」
「当然、クラスの皆で考えます。個人的な意見を言えば、謎を作ってしまえば、当日はほとんどやることが無いのかもとは考えています。謎解きを選ぶのであればここの是非も議論しておきたいですね」
「やっぱりそうだよな」
その後も議論は進み、最終的にはタピオカ屋を含む喫茶店と謎解きの一騎打ちとなった。
決戦投票は喫茶店の勝利で終わり、話は次のステップへ。
「それでは内容が喫茶店に決まったのでこれで一度報告します。もう少し時間があるのでコンセプトも決めましょうか。最初の意見の中にはメイド喫茶なんてものもありましたが……」
その発言を聞き、にわかに教室内がざわつき始める。
最初はネタ枠だと思われていたものが、喫茶店に決まった今、現実味を帯びてしまい良くも悪くも活気付く。
女子のメイド姿を見たいだけの男子とは違い、自身が着ることになるであろう女子は必死だった。衣装が高い、見世物ではない。男子がメイド服を着て給仕をしてはどうか、という意見まで出る始末だった。
女装なんてしても需要が無く、客が入らないということは誰しもが理解しており、議論は膠着状態だった。
そんな中、海斗が唐突に言葉を発する。
「男装じゃダメなのか?俺たちの制服を女子が着れば、それっぽくは見えるだろ」
海斗の意見に『なるほど』『メイド服よりは……』と賛同の声も聞こえてくる。
「それでは多数決を取りましょう。普通の喫茶店と男装喫茶の二択です」
多数決の結果は圧倒的多数で男装喫茶が選ばれたのだった。
「それでは男装喫茶に決定です。制服は学校から借りられないか確認してみます。何をどこから仕入れるのか、役割分担などは後日また決めます。それでは時間が来たので、今日はここまで!」
担任である佐藤静香が優希の後を引き継ぐと、そのまま掃除、SHRと一日が終わるのだった。
いつもの四人で教室を出て帰路に着く。
「文化祭の内容は思いのほかあっさり決まったな。もう少し長引くと思ってたが」
海斗が午後の様子を思い出し話題に出してきた。
「そうだな。最終的には海斗の意見が採用されたようなものだし、早く決まったのは海斗のおかげってことで」
「俺は思いつきで言っただけなんだけどな」
「その前のメイド喫茶という単語が悪かったな。あれにさえならなければ良いと思っている人もいたみたいだ」
「個人的にはメイド服見たかったけどな」
「まったくだ。司会でなければ、意見もしたんだがな」
男二人でそんな話をしていれば、女子二人からは呆れたような視線が突き刺さる。
「まったく、どうして男はこんなに馬鹿なのかしら」
「ホントだよ……」
やれやれといった感じでふたりは会話に割り込んでくる。
「二人は反対派だったか」
「当り前よ。誰が好き好んでメイド服なんて着るのよ」
優希が言葉を発すれば、茜からは冷たい視線が飛んでくる。
「俺としては二人のメイド姿が見られないのは残念だな。桜の可愛いメイド姿と茜の綺麗系のメイド姿が見られないのは非常に残念だ」
優希は二人のメイド姿を想像しながらため息をつく。想像の中で、桜はスカート短めの元気系メイド、茜はクラシックスタイルのメイド姿だった。
「あー!また想像してるでしょ!」
桜は少し顔を赤くするとペチペチと優希の腕を叩いてみせた。
「それに海斗だって茜のメイド姿を見たかっただろ?」
桜の攻撃を無視して海斗の問いかける。
「もちろん見たかったさ」
当然と言わんばかりに海斗は答え、茜の身体へ視線を向ける。
「はあっ!?馬鹿じゃないの?あんな誰が見てるか分からないような場所で、そんな服着るわけないじゃない!」
茜は赤くなってしまい、その後も俯き何かを一人呟いていた。
こちらを見ていないことを良いことに優希は海斗に耳打ちする。
その様子を桜は冷ややかな目で見ているのだった。
「それは二人きりなら良いってことか?今度、俺だけに可愛い茜のメイド服姿を見せてよ」
茜の横に並んだ海斗は、茜の腰に手を回し、耳元で囁くように言葉を紡ぐ。
邪魔になるであろう海斗の鞄は優希が預かっているという芸の細かさだ。
しかし、そんな状況も認識していない茜に海斗の言葉は強烈だった。
普段聞いたことのないような声色で紡がれた海斗の言葉と距離の近さに、茜は真っ赤になり言葉を失ってしまう。
「茜、大丈夫か?顔が赤いぞ?」
海斗は茜の頬に手を添え、心配そうに顔を覗き込む。
「だ、だ、大丈夫だから……」
今の状況が呑み込めない茜はそれしか返せず、しばらく真っ赤になっているのだった。
そのままいつものところで別れ、自宅へと歩いていく。
先程の様子を思い出し桜が話題に挙げる。
「さっきの海斗君の言葉は優希君が考えたの?」
悪いものを見たというようにジト目で睨まれる。
「あれ?ダメだった?ちなみに言っておくと、後半の頬に手を添えたところからは海斗の意思だからな」
「それでもだよ!乙女の純情を弄ぶようなこと、許せません!」
桜は両人差し指で×印を作ると、可愛らしく怒ってみせた。
「いやー、明らかに茜は海斗のこと好きでしょ?恨まれるようなことは無いと思うけど。海斗も満更ではないと思うし」
「確かにそうだけど!」
「幼馴染で今まで進展が無いんだから、きっかけになればという親切心よ」
ドヤ顔で優希が言うも、桜はあくまでも反論してくる。
「それはおせっかい!それぞれにペースがあるんだからね」
人差し指を立て、まるで生徒に諭すように桜は伝える。
その後も楽しく会話を続け家まで帰る二人であった。
自宅に着いて思い出す。
「そういえば、晃成は今日がバイト初日か……」




