文化祭とは?
「それでは、第一回文化祭実行委員会を始めます。実行委員長の笹原です。よろしくお願いします」
優希が教壇に注目すると、そこには先程座席を教えてくれた先輩が立っていた。どうやら彼女が実行委員長の様だ。
「えっと、三年生以外は初めてなので簡単に説明しますが、ウチの文化祭は知ってのとおり二日間あります。生徒、教職員だけが参加する一日目、一般参加の二日目です。とはいえ、キャパ越え、トラブル等が考えられるので、生徒それぞれに招待券を三枚配布します。当日は招待券を持った方のみ入場が許可されます。また、あくまでも一人三枚配布するというだけなので、友人同士で譲渡するのは可とします。ここまでで質問のある人いますか?」
「はい」
優希がスッと手を挙げる。
「どうぞ」
「招待券の件は分かりました。しかし、その招待券が正式に生徒から譲渡されたものだというのはどうやって確認するのでしょうか?」
「もっともな質問ですね。これに関しては頭の痛いところではあります。基本的には生徒のモラルを尊重するしかないのですが、明らかに学校にそぐわないと判断した場合は招待状の有無に関わらずお引き取りをお願いしています。ですが、念のために当日は警備会社に依頼して、敷地内を巡回してもらう予定です」
「分かりました。ありがとうございます」
「他に無ければ続けますね」
笹原はクラスを見回し、質問が無いことを確認して次へと進める。
「次は出し物についてです。基本的には各クラスで一つずつやってもらいます。ただ、部活での出し物に参加する人が多く、クラスの人数が少ない場合などは相談下さい。ニクラス合同も検討します。内容に関しては飲食関係も可能ですが、衛生面の観点からその場で調理は禁止します。なので、基本的には仕入れて売るという感じですね。それを盛り付けるのは可能です。電気ポットは使用可能ですので、ホットコーヒーなどは大丈夫です。しかし、学校の備品としてはありませんので、個人の持ち物を使って下さい。場所はそれぞれのクラスを基本としていますが、教室では難しい場合は相談下さい」
さすが優等生が多い学校だけあり、みんな真剣に聞いていた。その後も質問を挟みながら説明は続く。
「以上になります。質問事項を含めた詳細は後程お渡ししますので、各自クラスで説明してくださいね。もう質問は無いですか?無ければ締めますよ」
再び優希が手を挙げて質問する。
「最後で申し訳ないのですが、各クラスから出た利益はどうするんですか?」
「売上はすべて回収します。学校から予算が配分される以上、それは当然の措置です。しかし、利益次第では学校の備品を購入することになりますので、実質的には皆さんに還元されることになります」
「ありがとうございます」
笹原は周囲を見渡し意見が無いことを確認する。
「次回は明々後日の金曜日に集まって下さい。出し物をどうするか、明日、明後日のどちらかで一度意見を集約してください。部屋の都合などあるので可能かどうか検討します。それじゃあ解散です」
その声を待ってましたと言わんばかりに、みんなはぞろぞろと教室を出ていった。
二人は玄関を出て並んで下校する。
「結構遅くなっちゃったね」
桜がスマホを確認すると時刻は18時を回っていた。
「初回でこの時間だと、今後はどうなることやら」
やれやれと言った感じで優希は呟く。
「俺は一人暮らしだから何時になっても問題無いけど、桜は菫さんにちゃんと言っておかないとな。心配されちゃうぞ?」
「一応遅くなるかもとは伝えてるよ。流石に何時になるかまでは分からなかったけど」
「そうか、なら大丈夫だな」
安心したように優希は微笑む。
「ところで桜。文化祭で何をやりたいとかって希望はあるか?」
「え?みんなで決めるんじゃないの?」
「単純に俺の興味だよ。桜が何をしたいのかなっていうね」
そう言われると桜は顎に一指し指を当て、うーんといった感じで思案し始める。
「喫茶店とかは?文化祭としては鉄板だし、表と裏で人が要るから皆で活動してる感じがするよ!」
桜はどうだ!と言わんばかりに自身の考えを提案してくる。
しかしそれは優希も考えていたことであり言葉を返すのだった。
「確かに鉄板だよな。ただ問題は内容をどうするか」
「何か問題ある?」
「いや、喫茶店は絶対に何処かのクラスと被るだろ。同じことをしても面白くないし、何か変わった要素も入れたいなと個人的には思う」
「いやー、ウケを狙って滑ると凄く寒いよ?」
うっ!と胸を押さえ優希が呟く。
「桜が的確な答えを返してくるなんて……!」
「私のこと、何だと思ってるのよ!」
「まあ、冗談だけど。その辺りは提案すれば何か意見は出るだろ。二人で決めるものでもないし。そもそも喫茶店って決まったわけじゃないしな」
「そ、そうだった……」
桜の中では勝手に喫茶店に決まっていたようで、自分の間違いに気づき顔を赤くしてしまう。
「喫茶店以外だと、お化け屋敷っていうのも割と定番だな」
「そうだね。あとは演劇とか?」
「それは本職に任せよう。あれ?演劇部ってあるんだっけ?」
「あるよ。きっと早い段階から練習してるんじゃないかな?」
「やっぱりそうだよな」
「でも、意見が出たら候補には入るんでしょ?」
「もちろんそうだな」
それでも脚本、練習を考えると圧倒的に時間が足りないと優希は考えていた。言葉にはしなかったが。
「とりあえずはみんなの意見を聞いてからだな。次の実行委員会で他のクラスの内容も聞けるかもしれないし」
「だね!」
「あれ?何だか楽しそうだな」
優希が不思議そうに桜を見ていると
「そう見える?文化祭を想像してちょっと楽しくなっちゃったのかも」
桜はそう言って笑う。その笑顔を見て、クラスの皆もこんな風に楽しめるといいなと柄にも無いことを考えてしまう優希だった。
「それじゃあ、また明日!」
「ああ、また明日」
家の前に着いた二人はそう言って別れるつもりだったが、桜の家の扉がおもむろに開かれた。
「おかえり、桜」
「お母さん、急に開けたらビックリしちゃうよー」
「あら、ごめんね。話し声が聞こえてきたから出迎えのつもりで」
菫は全く悪いと思っている様子もなく、ニコニコと桜へ言葉を返す。
「こんばんは、菫さん」
「優希君、こんばんは。一緒に帰って来たの?相変わらず仲が良いのね」
「ええ、とても仲良くさせて頂いてます」
胡散臭いくらいの笑顔で優希は菫に答えると、桜が顔を赤くして割り込んでくる。
「もう!二人とも変なこと言わないの!」
「何か間違ってたかしら?優希君とは仲良くないの?」
そんなことは無いと分かっていてあえて菫は聞き返してみる。
「悪くは無いと思うけど……」
桜が言葉に窮していると優希が被せてくる。
「そんな!俺達、毎日一緒に帰る仲じゃないか。寂しいこと言うなよ!」
「……確かに毎日一緒だけど……」
よくよく考えると、この一週間毎日一緒に帰っていた。改めてその事実を突きつけられると急に恥ずかしくなってしまい、桜は真っ赤になってしまう。
そんな桜を尻目に二人は何事も無かったかのように会話を続ける。
「今日は何かの打合せで遅くなったのでしょう?今後も遅くなったりするのかしら?」
「そうですね。次回は金曜日ですね。その後も度々遅くなる日が出てくると思います」
「そう。このくらいの時間だと良いのだけれど、あんまり遅くなるようだと少し心配だわ。今日はたまたま優希君が一緒に居てくれて良かった。ありがとうね」
そこまで学校から離れていないとはいえ、やはり一人娘で心配なのだろう。菫は少し困ったように言葉を紡ぐ。
「大丈夫ですよ。俺も同じ実行委員なので、桜が嫌がらない限りは一緒に帰ってきますから」
「あら、そうなの?それなら安心ね。ちなみに実行委員ってどうやって決まるのかしら?」
優希は何故そのようなことを聞いてくるのかと考えたが素直に答えることにした。
「立候補ですね」
「立候補……、へー」
菫はニヤニヤとしながら、未だに顔を赤くした桜の姿を眺める。
とうとう桜は耐えられなくなったのか
「もう!お母さん!」
桜は可愛らしく怒りながら、菫の背をグイグイと押し、二人で橋本家へ帰っていくのだった。
ほぼ説明回




