結果は?
翌日、再び晃成を含めた五人で食堂に来ていた。
「さて、面接の結果を聞こうか」
「えー、ここで言うの?」
晃成を囲むような配置でテーブルに着いていた。
急に優希が話を切り出したため、桜以外は話が呑み込めない様子だった。
「晃成、何かあったのか?」
「いえ、カフェ葵でバイトの面接を昨日受けて来まして」
「ほー、バイトなんて晃成余裕だな」
海斗は意地悪く言い始め
「え、やっぱり勉強との両立は難しいですか?」
晃成は急に心配になり、昨日までの自信はどこかに行ってしまった。
「冗談だよ。しかし、あそこでバイトか。三条先輩狙いか?」
晃成は、うっ!っといった表情を浮かべるも照れたように頷いて。
「大丈夫よ。昨日のお昼の様子を見てれば誰だって分かるわ。分からないのは本人くらいかしらね」
「そんなに分かりやすかったですか?」
「ええ、バレバレね」
茜は『何を言っているんだか』とでも言いたげに晃成を見ていた。
「まあまあ、晃成はそういうのを隠す気が無いんだろ。三条先輩のあの感じなら、逆にバレた方が意識してもらえて良いのかもな」
「隠さないのは血筋なのかしらね。優希君、あなたも似たようなものよ?」
海斗が言葉を引き継ぐと、そこに茜が言葉を重ねてくる。
他人ごとの様に優希が聞いていれば、急に話題を振られ少々驚くもののすぐに平然とし、何事もないかのように茜に答える。
「ウチはそういったところは割とオープンだからな。父さんが言ってたぞ」
『好きなら好きって言っておけ。いつか気付いてもらえるなんて思うな。人間言わなきゃ分からないんだ。他の誰かが好意を伝えたことで、その相手と付き合うかもしれない。優希が伝えておけばチャンスがあったかもしれないのにな。恋愛は早いもの勝ちだ』
「ってさ。多分叔父さんも同じようなこと言ってたんじゃないかな。そんなわけで、俺達はこうなりました」
「言ってることは分からなくもないな。しかし二人とも親父さんの影響受けすぎだろ」
「まあな、自覚はしてるよ。でも、それで困ったことは無いし問題無いだろう。それより、海斗も取られたくなかったら早めに言っておけよ」
「誰のこと言ってんだよ」
「さてね」
茜の方を覗き見ると、それ以上言うなと言わんばかりに睨まれてしまった。
「話が逸れたな。それで面接の結果はどうだったんだ?」
「合格だったよ。明日からだって。内容としてはね」
・勤務は週三日程度(シフト等は応相談)
・最低限、成績は維持すること
・可能なら次の春までは続けて欲しい
「って感じ。マスターも葵先輩が受験生だから、代わりの人を探してたみたい」
「へー。それじゃあ晃成の目的達成は難しくなったな。代わりとなるとシフトは被らないんじゃないか?」
「休みの日は二人出るみたいだからチャンスはあるし、共通の話題が出来ただけでも良しとするよ」
優希が残念がるだろうと思い問えば、意外にも前向きな声が返ってくるのだった。
「そうだ!兄ちゃん、衝撃の事実が分かったよ……」
「おう、どうした?」
「葵先輩は……。マスターの娘さんでした!」
晃成はいかにも勿体ぶった感じで大げさに発表する。しかし、それを聞いた優希の顔には特に驚いたような表情は浮かんでいなかった」
「まあ……、お店で給仕してて名前が葵って言う時点で、何となくそうかもっていう気はしてたよ」
「えっ!ホントに?」
晃成がきょろきょろと桜たちの表情を浮かべると、桜が申し訳なさそうに答える。
「私たちは知ってたよ?」
海斗と茜も同様に知っており、うんうんと頷いていた。
「ちなみに、三条先輩のお母さんも働いてるからな。しっかり挨拶しておくんだぞ」
海斗が新たな事実を晃成へとぶつけてくる。晃成は知らなかった様子で驚いた表情を浮かべる。
「えっ!?三条家の中に俺入るんですか?完全に異物じゃないですか……」
「さつきさんは優しい人だから大丈夫だよ!」
頑張って!という様に手を胸の前で握りながら桜がフォローする。
「さつきさんっていうんですね。お会いしたらしっかりご挨拶しておきます」
そして放課後、文化祭実行委員の顔合わせの時間がやってきた。
「桜、文化祭実行委員の顔合わせってどこでやるんだっけ?」
「確か三年生の教室だね」
「了解。遅刻して目立つのは嫌だし、早く行こうか」
桜とともに目的の教室に行くと見知った顔があり、優希は親しげに声を掛ける。
「こんにちは、三条先輩」
「……君は、優希…だっけ?」
「ええ、覚えて頂けていたみたいで光栄です」
「そっちは橋本さん……」
「桜で良いですよ。三条先輩」
「なら、私も葵で良い……」
「先輩、俺は?」
「……別に構わない」
てっきり桜と葵は親密な関係だと思いきや、そこまででは無かったのかと優希は少々意外に思った。おそらく店で会うことがほとんどなのだろう。それが昨日の昼食で距離が縮まったのかもと一人想像を膨らませる。
「……二人とも、ここは三年生の教室。間違ってる……」
「実はこの教室で文化祭実行委員の顔合わせがあるって聞いてまして」
「……そうなんだ」
「そうだ!葵先輩って一年の時に文化祭を経験してますよね?ご迷惑でなければ色々アドバイスを頂きたいです」
「……参考になるとは思えないけど、分かる範囲でなら良い……」
「ありがとうございます。あ、あんまり引き留めても悪いですね。晃成のことよろしくお願いします」
唐突に晃成の名前が出てきたため、何のことかと葵は一瞬考えたが、すぐにバイトのことだと分かり
「……うん。それじゃあ……」
「ええ、それでは、また」
「葵先輩、さようなら!」
葵と別れると教室に入っていく。教壇近くにいる女生徒に声を掛ける。リボンを色を確認すると当然三年生であるが、優希は特に物怖じすることは無く声を掛ける。
「すみません、文化祭実行委員会で来たんですけど、どこに座ったらいいですか?」
友人同士では雑談していた三年生は優希に声を掛けられ対応する。同じく実行委員のメンバーだったようだ。
「あなた達は何組かな?」
「二年二組です」
そういうと女性とは黒板に視線を送る。
黒板には教室の座席表が描かれていた。教室には六列ほど机が並んでおり、二年生は真ん中の二列が割り当てられていた。
「二組なら前から二番目に座ってね。一応分かるように席は決めてあるから」
「ありがとうございます」
お礼を言うと優希は桜とともに指定された場所へと着席するのだった。
「優希君、三年生相手に普通に話せて凄いね!コミュ力高すぎじゃない?」
「そうか?桜の場合は三年生がというよりも、初対面の相手には話が出来ないしな」
「私もダメだなーとは思ってるんだからね」
「少しずつ慣れていけばいいさ。それに三年生なんて対して変わらないよ。一年早く生まれただけで何が違うんだって感じだし。桜だって葵先輩と話せるんだから大丈夫だよ」
桜が慌てたように周囲を伺いながら小声で話しかけてくる。
「あんまりそういう事を大きな声で言わないほうが良いよ。運動部なんかは上下関係に厳しい人もいるんだから」
「はーい。お、そろそろ始まるんじゃないか?席は埋まったみたいだぞ」
優希は桜の忠告をあまり気にした様子は無かった。
優希としては年齢に関係なく、たとえ年下でも尊敬できる人は尊敬できるし、年齢が上だというだけで偉そうにしてくる人間は話しにもならないという考えを持っているのだった。
そんな考えを理解できるわけもなく、桜は『もうっ……』っと言いながらも前を向くのだった。




