実行委員
昼食を終え午後の授業が始まり、ひとつの授業を終えると、最後はLHRの時間だった。
担任である佐藤静香が教壇に立つと、不思議なもので私語がどんどんと減っていき、最後には静かになった。
「よし、それではLHRを始める。今日の議題はクラス委員と文化祭実行委員の選出だ。このクラスには編入生がいるため改めて説明をする。今年の文化祭は六月二週目の金曜、土曜だ。ちなみにこの学校では同じ年度で体育祭と文化祭を両方行うことは無い。毎年どちらかを交互に行う。昨年は体育祭だったので、今年は文化祭というわけだ」
優希は自身に向けられた言葉のため、しっかりと内容を聞いていた。
「桜、どうして両方はやらないんだ?」
桜の方へ身体を寄せ小声で訊いてみる。
「ウチは進学校だからね。ふたつも行事をやっちゃうと勉強に支障が出ちゃうの」
「なるほど確かに。ちなみに文化祭は出店とか出す感じ?」
桜と話をしていると教壇から声が掛かる。
「伊藤、聞いているのか?橋本と仲が良いのは結構だが、集中出来ていないのは感心できんな」
二人して軽く頭を下げると、そのまま授業が進行する。
「まずはクラス委員を決める。それでは立候補といこうか。我こそはというものは居ないか?」
そういうものの、みんなが視線を合わせないように俯き気味にしてしまう。
やれやれ、といった表情で静香が教壇から声を発する。
「立候補はいないのか?お前たち、こういう活動が大学の推薦や面接に活きてくるとは考えないのか?」
さすが進学校、大学に影響すると言われるとクラスの雰囲気が少しずつ変わり始める。
静香がそのまま黙っていると、ゆっくりとだが男女それぞれから手が挙がる。
「ちょうど二人手が挙がったな。他にはいないか?」
手が挙がったことで安堵したのか、それ以上手が挙がることは無かった。
「それでは次は文化祭実行委員だな。クラス委員、早速場を仕切ってみせろ」
そう言って静香は脇に置いてあった椅子に腰かけてしまう。
その様子を見て、クラス委員に選出された二人が前に出てくる。
「それでは文化祭実行委員を決めます。先程と同様にまずは立候補を募りたいと思いますが、誰かいませんか?」
「はい!」
優希がスッと手を挙げる。
「他にはいませんか?男女で一名ずつなので、女子からも一名は出さないといけないのですが。もちろん男子も立候補がいれば受け付けてますよ。二名以上の場合は投票で決まります」
「優希君、こういうのに積極的なんだね。ちょっと意外」
「いや、先生も言ってただろ?受験対策の一環だよ」
桜が何かを悩みだし、うーんと頭を抱えていると
「立候補はいませんか?いなければ次は他薦にしますよ」
「はい!」
桜が手を挙げる。
優希は桜の行動に少々驚く。
「それでは実行委員は橋本さんと、伊藤君に決定です。よろしくお願いします」
自分に決まらなくて良かったという思いからなのか、盛大な拍手で迎えられる二人だった。
「それではせっかくなので、二人に就任の挨拶でもしてもらおうかな」
「就任って。構いませんけど」
静香の言葉に優希は立ち上がり教壇へ向かう。
また、桜も後を追う様に立ち上がるのだった。
「この度、文化祭実行委員になった伊藤優希です。個人的には星ヶ丘での行事自体が初めてなので、思い出に残る良いものが作りあげられたらいいなと思っています。話を聞いていると、二年のみんなも文化祭は今回が最初で最後ということなので、皆で協力して文化祭を成功させましょう」
続いて桜の挨拶のはずだが、隣を見ると桜がボーっと優希のことを見つめていた。
優希は桜の腰をポンポンと優しく叩き注意を向ける。
「ほら、次は桜の番」
桜はハッとした表情で慌てて挨拶を始める。
「同じく橋本桜です。えっと、えっと……。あんな完璧な挨拶されたら、私が言うこと何もないよ!」
ペチペチといった感じで、優希の腕を軽く叩いてくる。
「桜、皆が見てるから。ほら、挨拶しようね」
優希は桜を落ち着かせるように微笑みかける。
顔を赤くしながらも、まずは終わらせなければと簡単にだが挨拶をまとめる。
「文化祭の成功には、みんなの協力が必要不可欠です。一緒に頑張りましょう!」
挨拶を終え、ホッとしていると
「二人ともお似合いだぞー!」
海斗がわざとらしく煽ってくる。
桜は顔を赤くしてそそくさと自分の席に戻ってしまう。
優希は何でもないように桜の後に続いて席に着く。
「それじゃあこれで決まりだな。ちょうどいい時間だし、LHRはここまで。次は掃除の時間だからちゃんとやるように。伊藤と橋本はちょっとこっちへ」
二人は静香のもとへと向かう。
「佐藤先生、どうかしましたか?」
「二人とも、さっきはありがとうな。あのままだと決まらなかっただろう」
「いえいえ、こちらも打算ありですから。お気になさらず」
「フッ、そうか」
優希と静香は軽く会話し本題に入る。
「それで呼んだ理由だが、明日の放課後に実行委員の顔合わせがある。悪いが、それに出席して欲しい」
「構いませんよ。桜はどう?」
「大丈夫だよ」
「それでは悪いが頼むな」
そう言うと静香は教室を出ていくのだった。
そして、SHRも終わり一日が終わる。
帰り支度をしていると海斗と茜が優希たちの机に集まってくる。
「二人とも、実行委員に手を挙げるなんて殊勝な心掛けじゃないか」
「まったく理解に苦しむわ。おかげで助かったけれど」
優希と桜も立ち上がり、教室の外へと歩いていく。
「これも大学入試の一環だと思えば安いもんさ。面接で文化祭のエピソードを喋るんだから、海斗も茜もちゃんと協力してくれよな」
冗談交じりに言葉を返す。
「まあ、俺は打算込だから良いんだけど、桜も立候補したのは意外だったな」
急に話を振られた桜は少し驚いた様子で
「えっ、私?私も受験対策にと思って立候補しただけだし」
「なんだ、残念。桜が俺と一緒にやりたいっていうことなら嬉しかったんだけどな」
優希はわざとらしく落ち込んで見せる。
「そう落ち込むな。少なくとも本人以外は優希と居たくて立候補したって思ってるから」
「良い見世物だったわ。これでめでたくクラス公認の仲ね」
その言葉を受けて、桜は顔を赤くしてしまう。
「えっ、えっ!?そんな風に見えてたの?」
「俺の周りの席では、あの二人付き合ってるの?みたいな会話がされてたな」
桜はさらに顔を赤くしてわたわたとし始める。
「安心しろ」
海斗のその言葉に安心したように笑顔を見せる桜だが
「ちゃんと肯定しておいたからな」
「もーっ!」
怒りだす桜だった。




