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変化

「買い物?それくらいなら別に構わないが。荷物持ちでもさせようってところかな?」

「そんなところだね」


てっきり面倒だと断られるかと思えばあっさり承諾され、桜は内心意外に思いながらもそれは表に出さずにいた。


「それで、いつ買い物には行くんだ?流石に明日ってことは無いだろ?」

「そうだね。いつにしよっか?あんまり時間を開けて気分が変わっちゃっても困るし、来週にしよう!」

「こっちが言い出したんだから、気分なんて変わらないよ。それに、可愛い子と出掛けるなんてデートみたいだろ?むしろ役得だね」


優希がそう言うと桜は顔を赤くして


「もう!すぐそういう事を言う!誰かれ構わずそういうことばっかり言ってると誤解されちゃうよ?」


人差し指を立てて、怒ってますよと言わんばかりに注意してくる。


「ほー、誤解とは?」

「だ、だから……。彼女が出来た時に誤解されたり、優希君が私のこと好きなんじゃないかって勘違いするとか……」


言いながら桜の声はどんどんと小さくなっていく。


「俺は桜のこと好きだけど?」

「そ、それは友達としてでしょ!」

「それに誰かれ構わずとは心外だな。桜以外に言ったこと無いよ」


まったく心外だと言わんばかりに言い放つと桜は顔を真っ赤にして


「もーっ!すぐにそうやってからかう!」


恥ずかしさを隠すように顔に手を当てしゃがみ込んでしまう。

すると今までは気付かなかったが、自分の家のドアがほんの少し開いていることに気付き、バッっと視線を上へと向ける。


「お、お母さん……?」


菫はニコニコと桜を見つめ微笑む。


「来週のデートが勝負よ!」

「いつから聞いてたの!?」

「なかなか桜が戻ってこないから心配で」


菫は視線を優希へと向け微笑むと


「桜のことよろしくね」

「ええ、お任せください。しっかりとエスコートしてみせますよ」

「二人とも私の話聞いてる!?というかお母さん、優希君のこと信頼過ぎじゃない?私達、まだ知り合って一週間だよ!?」

「何故かしらね?不思議と話しやすくて、ずっと昔から知り合いのような感覚だわ」


ニコニコとしつつも首を少し傾げる。


「それに愛は時間じゃないわ。直感と相性よ。そうでなければ一目惚れなんて成立しないわ」

「菫さん、良いこと言いますね」

「もう!お母さん!恥ずかしいから止めて!」


グイッと菫を家の中に押し返しながら自分も家の中へと帰っていく。


「桜まで帰ったか。とりあえず家に入ろう。手が限界だ」


食器とタッパーで手が塞がっており、なかなか大変な状況であった。

荷物を置き、風呂の準備をしつつのんびりしているとSNSで連絡が入る。


「桜か。買い物がキャンセルにでもなったかな?」


先程の様子から、買い物がキャンセルになる可能性は十分に考えられた。リビングのソファの上でスマホを開く。


『来週の買い物は実施します。詳細は後日学校もしくはスマホにて』


「え、業務連絡?」


スマホを開くとその一文だけが表示されていた。



桜side



菫を押しやりそのまま二人で家の中に入っていく。


「もう、お母さん!」


菫は全く意に介さないとばかりにニコニコとしていた。


「なあに?」

「覗き見とか止めてよね!それにデートとか言わないで……」


デートという単語に抵抗があるのか桜の声は小さくなっていく。


「優希君のこと嫌いなの?」

「嫌いじゃない。でもだからって、それが好きかなんて分からないよ」

「端から見たらすごく良い雰囲気なのだけどね。優希君も桜のこと本当に好きなのかもって思うくらいには」


菫は少し真剣になり先程の様子を思い返す。


「いいの!恋愛なんてそんなに急ぐものでもないし!」


そのままリビングまで菫を動かしていくと、菫の横をすり抜け桜は自室へ駆け込む。

ベッドへダイブすると、先程の優希とのやりとり、菫との会話を思い出す。


「優希君は初対面で可愛いとか言ってくるし、深い意味なんて無いんだから……」


優希と初めて会った時のことを思い出す。出会ってまだ一週間とは思えないくらいに仲が良くなったとは自分でも思っている。もちろん、海斗や茜を交え四人でいる時間が多いこともあるだろう。

中学時代に二人と知り合い三人で過ごすことも多かった。しかし優希の様に四人目のメンバーとなるような人物は現れなかったのだ。

それぞれの友人関係はあるものの、なぜかグループに誘うことは誰ひとり無かった。これが海斗の言うところの相性であろうか。

優希はあっという間にグループに馴染んでいった。桜と過ごす時間が増えることは必然であった。


「はぁ……、私ってこんなにチョロかったのかな?可愛いって言われただけで気になっちゃうなんて」


他の男子から面と向かって可愛いなどと言われたことは無いから分からない。だけど、きっかけなんてそんなものだ。優希のことが少しずつ気になっているということを自覚するには今日の出来事は十分すぎた。


「いけない!そのまま家に帰ってきちゃった……。買い物の件、うやむやになっちゃったかな」


買い物に男手が欲しいのは事実だった。父の誕生日が近く、プレゼントを毎年あげているものの、そろそろネタが尽きていたのだ。


「とりあえず連絡しないと」


そこでふと気づく。あのやりとりの後で、どのように連絡をすればいいのか分からないということに。


「あの流れでまた買い物に誘ったらデートしたいみたいに聞こえるし、でもプレゼントも大事だし……」


うーんとベッドの上を転がり、スマホを眺めること二十分。ようやく文章が決まる。


「よし、必要なことだけ書けば間違いないよね」


変に畏まったりすると意味が出ると桜は考え、端的に伝えることに決めた。


『来週の買い物は実施します。詳細は後日学校もしくはスマホにて』


送信してから気付く、何だこれと。


「もう少し書き方あったでしょー!私の馬鹿!」


先程とは違う意味で桜はベッドの上を転がるのであった。


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