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気になるあの子

二人が本屋を出るとすでに薄暗くなっており、帰宅するであろう人の姿が多く見受けられた。


「意外と時間が経ってたな。少し早いけど晩飯食べて帰るか?」

「俺は構わないよ。今ならお店もそんなに混んでないだろうしね」


優希が夕食に誘えば晃成は快く応じる。


「俺はお店全然わからないよ?本屋で雑誌も見れなかったし。兄ちゃんはどこか知ってる?」

「一軒知ってる。カフェなんだけど食事もあるぞ」

「よく分からないけど、兄ちゃんがオススメだっていうなら任せるよ」

「そうか?それじゃあ行ってみるか」


二人はカフェ葵に向かい歩いていく。通り掛かりに見える飲食店には客が増え始め、人の流れも少しずつ変わってきた。

目的地に着き扉を開けるとマスターの声が掛かる。


「いらっしゃい。おや、確か優希君だったね。また来てくれて嬉しいよ」

「こんばんは。美味しかったので、また来てしまいました。今日は新規の客を連れてきましたよ」



晃成に視線を送ると、それを察した晃成が自己紹介を始める。


「えっと、伊藤晃成っていいます。兄ちゃん、あ、優希とは従兄弟になります。よろしくお願いします」

「こちらこそよろしくね。今日は二人だけかい?」

「ええ、海斗と茜はそこの本屋で会いましたよ。もしかしたら、あとで来るかもしれませんね」


優希が会話を引き継ぎ、簡単に話を続ける。


「おっと、立ち話させて申し訳ない。好きな席に座ってゆっくりしていってね」


空いている席に座りメニューに目を通す。ランチメニューとは多少変わっており、一品料理も多数見受けられる。


「この前来た時とは少しメニューが違うな。んー、クラブハウスサンドにするかな。ボリュームもありそうだし。晃成は何にするか決まったか?」

「それじゃあ、ミートドリアで」

「カフェなんだし、食後にコーヒーでも頼むか?」

「そうだね。せっかくだしお願いするよ」


マスターに声を掛けるとオーダーを伝える。周りを見ると入店してきたときと比べ客の数が増えていた。当然ではあるがマスターはとても忙しそうにしている。

大丈夫なのだろうかと心配した矢先、奥からエプロンを付けた女性が現れた。年は優希たちと同じくらいであろうか。顔立ちは綺麗な印象で、動きやすいようにか髪型はシニョンでまとめられている。ただ特徴的なのはその身長の高さである。海斗を同じくらいの身長であろうか。女性としてはかなり高いということは理解できた。

彼女がオーダーと配膳を行うことでマスターは調理に集中できる。今までもそうやってきたのか、阿吽の呼吸でお互いが動き続けていた。


「……お待たせしました」


先程の女性が料理を持ってテーブルへと現れる。

美味しそうな料理が並べられ、晃成が目を輝かせる。


「コーヒーは食後にお持ちいたします……」


口数は少なそうな印象であり、接客業としては大丈夫かと思わなくもないが、そこは本人が与える印象なのだろう。冷たいということでは無く、のんびりマイペースな雰囲気のため、不快にさせられることは無かった。


「それじゃあ食べるか」

「兄ちゃん、俺GWの予定決まったかも」

「は?」


料理に伸ばした優希の手が空中で止まる。


「いきなりどうした」

「俺、この店でバイトする!」

「いやいや、だから何でだよ」

「あの人、めっちゃ美人じゃん。一目惚れしちゃったかも。この気持ちを確かめるためにバイトして近くにいることにしたの」


晃成はそう言って、先程の女性の姿を視線で追う。


「バイトを募集してるかも分からないだろう」

「そこは気合で頼み込んでみるしかないね」


どうやら晃成の決心は固いらしい。


「晃成、勉強はどうするんだ?受験である程度分かってると思うが、星ヶ丘はレベルが高いぞ。バイトを始めたから留年しましたじゃ洒落にならないぞ」

「それは……。もちろん今まで以上に頑張るよ。バイト始めたから成績が下がったってなると、お店にも迷惑かけちゃうし」

「そこを考えてるなら、俺からはこれ以上言えないな。まあどうしても勉強に行き詰ったら俺に言えよ。二年の成績上位者とはコネクションがあるからな。その時は紹介してやるよ」

「兄ちゃん、ホントに編入して一週間なの?コミュ力化け物じゃん」


すでに晃成も知り合っているとは言わず、あえて自慢げに振る舞う。


「とりあえず冷める前に食べようぜ」

「そうだね」


二人は料理に手を付け舌鼓を打つ。


「美味しいね、兄ちゃん!よくこんなお店知ってたね」

「俺は海斗達に紹介してもらったんだよ。実は俺も来るの二回目」


会話を挟みつつ食事を終えると、先程の女性が声を掛けてくる。


「コーヒーをお持ちしてもよろしいでしょうか?」

「はい!お願いします!」


晃成が女性を見つめながら笑顔で答える。

女性は不思議そうにしながらも食器を片づけ、厨房に戻っていった。


「晃成、露骨過ぎ」

「え、ダメかな?伝わった方が良くない?」

「知らない人からいきなり好意を持たれても怖いだろ。本当にバイトが出来たらチャレンジで良いんじゃないか?」

「そうかな?確かにいきなり嫌われるのは嫌かも」


うーん、と頭を悩ませていると


「……お待たせいたしました」


女性がお盆にコーヒーを載せてやってきた。

晃成はその姿を再び笑顔で眺めていた。


「ありがとうございます!」


好意を隠すことなく晃成は返事をするが、女性はそのまま下がっていくのだった。

二人はコーヒーに口を付けると


「「美味っ!」」


普段飲む缶コーヒーやインスタントとは全く違うプロの味を感じるのだった。


「「ごちそうさまでした」」

「また来てね」


コーヒーを飲み、少し会話したのちに店を出る。


「もうこんな時間か」

「早めにお店に入ったのに、意外と時間経ってるね」


時間は既に19時半を回っており、すっかり辺りは暗くなっていた。


「さて、そろそろ帰るか。晃成、他に行きたいところは無かったか?」

「大丈夫。兄ちゃん、今日は付き合ってくれてありがとね」

「気にするな。俺も必要なものが買えたしな」


駅のロッカーから預けておいた荷物を取り出し、二人はそれぞれの家路へ着く。

優希がマンションへ到着し部屋に入ろうとすると、隣の扉からもこもこの部屋着に身を包んだ桜の姿が。


「お、桜じゃん。こんばんは」

「優希君、こんばんは。どこかに出かけてたの?」

「ああ、ちょっと駅前で買い物をな。皿とか足りてなかったし」


そう言って食器などの入った袋を掲げて見せる。


「優希君が自炊をする気になったってことかな?味見!味見!」

「いやいや食器だけだから。調理器具はあんまり無いよ。ところで桜はこんな時間にどうしたんだ?」

「そうだこれ。お裾わけです」


桜は手に持ったタッパーを優希に見せる。中にはから揚げが入っており、食後にもかかわらず、非常に食欲をそそるものであった。


「この前も貰ったのに、また貰えないよ」

「んっ!」


流石に何度もは受け取れないと優希は断るも、桜はグイッとタッパーを押しつけてくる。

桜が引かないことを感じると、優希はタッパーを受け取る。


「参ったな。こんなに貰っても何もお返し出来ないぞ」

「気にしないで。私のおせっかいっていうだけなんだから」


優希としては気持ちは非常に嬉しいものであるが、貰いっぱなしなのは非常に心苦しく、何か出来ないかと考える。


「それじゃあお返しに、何かして欲しいことがあれば言ってよ。出来る限り力になるからさ」

「えー、そんなこと言われたら甘えちゃうよ?」


桜は意地悪く言いながらも表情は笑顔であった。


「それじゃあ、私の買い物に付き合って欲しいかな」

書き溜めは一切無いのでボチボチです

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