王都ジーマール
俺たちは王都ジーマールに到着した。三日間馬車に揺られてきたので尻が痛い。
まず初めに盗品の返却をしなければならない。衛兵に声をかけたところ「山賊」は冒険者ギルドの案件だという。俺たちは仕方なく冒険者ギルドに乗り込んだ。
ギルドマスターは「山賊討伐のクエスト」が存在することは教えてくれた。だがクリアの条件は「生死を問わずリーダーの首」だった。残念ながら報酬はもらえない。俺たちは「盗品の奪還」を優先したのだから仕方のない結果だ。
ギルドマスターに盗品は誰に返せばいいのか尋ねたところ、それは「報酬に充当」する条件だったとの事だった。俺たちは、ちぐはぐなことをやっていたというわけだ。
ギルドマスターとしては、盗品を預かることはできないと言われた。では、どうすればいいのか。被害にあった人を一人ひとり探して返せというのか。さすがにそれは無理だ。
被害者の大半は山賊に殺されてしまっているだろう。遺族を探すのはもっと無理だ。
なんでも「遺失物は持ち主が一か月間名乗り出ない場合、発見者のものとなる」っていうのが法律らしい。俺たちは仕方なく裁判所に行った。「盗品も遺失物であることは間違いない」とのことで金品はさしあたり裁判所で預かることになった。そして受け取りの木札をもらった。一か月たったら、また来てみてくれとの事。
遺族が来たところで、どの盗品が誰のものだったかなんてわかりようがない。お金はもっとわかりづらい。誰がいくら持っていたかなんてわかりようがないし、山賊が使った分、目減りしているはずだし……余計に訳が分からなくなった。
俺たちは、さしあたりの住まいとして木賃宿に落ち着いた。二階の角部屋で日当たりもいい。俺とセスカはダブルベッドにお互いに反対向きで寝ころびながら、どうしようもない事について話し合っていた。
セスカは「結局ネコババするのが正解なのよ」と言う。だが俺は納得がいかない。そこで俺は提案してみた。
「慈善事業に寄付するっていうのはどうだ?」
セスカに鼻で笑われた。
「ばかだわねぇ。純粋な慈善事業なんてあるわけないわよ。例えばさっき見かけた孤児院。子供達に煙突掃除屋をさせて中抜きしてるわね。間違いないわ。子供達には粗末な食事が出るだけってわけ。寄付なんてしても子供達には1シリングもわたることはないわ」
俺は納得できない。
「じゃなにか? この世界には善意はひとかけらもないって事か?」
「子供たちは食事にありついてるんだから最悪ではないわよ。純粋な善意ってのもないことはないと思うけれど……。貧富の差が大きすぎて何をやっても空回りするだけじゃないかしら。レオナはあのお金で十人の子供を救う事ができたとして、その十人はどうやって選ぶの? 選んだりできないでしょう? まあ、そこがレオナのいいところではあるんだけどね」
俺はぐうの音も出ない。
「もう盗品の事は忘れましょうよ。突然、善意のための出費があるかもしれないから、とりあえず押さえておくのがいいんじゃないかしら」
「そうだな。セスカの言う通りだよ。いったん考えから外すよ」
俺とセスカは、しばらくの間天井を見て過ごした。
短いっ。次はもうちょっと長く書きます