シーフのスキルを全力で使ったが?
スキルをチラ見せします
「高レベルシーフって何ができるんだよ」
セスカは手を頭の後ろに組んでふわふわと歩いている。白のワンピースは優雅にひらひらと舞っている。俺の事をわざわざ「シーフ」を選んだ間抜けなチーターと思って小ばかにしている。
「そうねぇ。伝説のシーフなんて聞いたことないし……。とりあえず私から隠れて見せてよ」
俺は物陰に隠れようとしたが近くには何もない。ならば、レベルの高さだけで勝負してやる。そう思った時には、俺は四人に分身してから消えた。その一方で、本体の俺はセスカの背後をとっていた。セスカにとっては俺が消えたように見えたに違いない。
セスカは驚いて立ち止まった。
「レオナ? ちょっとレオナってばどこ行ったの?」
セスカは俺を探して左右を見回すが、俺はセスカの首が動くたびにそれに合わせて死角をとりつづけた。
「ちょっとレオナ! 信じた! シーフが強いのは信じたから出てきて!」
セスカの死角の延長上に建物があったため、すかさずそこまで移動してさらに隠れる。高レベル故に、本気を出した俺は異常なまでの俊足だった。
「もうバカにしたりしないから! 出てきてよ!」
俺は、風を切って走り回った。
俺はセスカから見えないように気を付けつつ、全力で灯台まで移動した。そして灯台の外壁をあっという間によじ上り、最上階のバルコニーのさらに上の頂点に立った。
ここまで、セスカの視界から消えてわずか十五秒。そこで初めて声をかける。
「おーい、セスカー、ここだよー」
セスカはこちらを向いて俺を確認するとさすがに驚いているようだった。
俺は灯台の頂上部分から飛び降り、何事もなく地面に着地した。
セスカがワンピースの裾を持ち上げて、あわててに駆け寄って来た。ひどくあせった顔をしている。
「ちょ、ちょっとケガしてないの?」
「大丈夫だよ。伝説のシーフだから」
「分かった。シーフがすごいのは分かった」
セスカからニヤニヤ笑いが消えた。今は俺のスキルを絶賛しているようだ。
「俺は自分の身体能力が高いのは分かった。でもさ、魔術師のセスカがあの塔の上に『テレポート』すれば、結果は同じじゃなくね?」
「そういえばそうよね。魔法で同じことができるんなら、ステータスの無駄遣いだわ。じゃあ罠の解除とかピッキングとかはどう?」
「道具がないぜ」
「そこはほら、伝説のシーフなんだから木の枝かなんかでもできるんじゃない?」
ずいぶん無茶な注文だ。
俺はしぶしぶ木の枝を拾うと、近くの民家の開錠に挑んだ。
しかし、田舎町の民家だ。構造はこれ以上なく簡単だった。
『カチリ』
開くのはむしろ当たり前だ。これでは力試しにならない。
「カギは開いたけど、これも『開錠』の魔法でなんとかなるんじゃない?」
「そういえばそうよね。レオナのスキルって大都市じゃないと生かせないんじゃない? 大金持ちの家に忍び込んで宝石を盗むとか。高レベル冒険者からアーティファクトをスリ取るとか」
「わざわざ大都市まで行くっていうのか? スキルを試すだけならわざわざ……」
セスカの穏やかな顔つきが、精悍なものへと変わった。
「いいえ、決定だわ。大都市じゃないと高レベルクエストも受注できないから」
「なるほど。そこで、セスカも本格的に冒険者復帰か」
セスカはこの町にずっと引きこもっているものとばかり思っていた。俺の言葉でプラス思考になってくれたんだとしたら、俺もうれしい。
「ええ。内地への駅馬車が来るのは今日よ。急いで支度しないと」
「え、俺の持ち物はこれだけなんで、支度なんてしなくても大丈夫だけど」
「『私は』いろいろあるの! 女の子ですからね。ちょっと手伝ってもらってもいいかしら」
セスカの定宿は冒険者ギルドの二階だ。勢い込んで支度をしようというのだから、どれだけの荷物があるのやら。
次はバックスタブがでてきます。シーフも強いんです