冒険者ギルドにて
やっとこさチートの話にはいります
ファンタジー世界では冒険者で身を立てるのがセオリーだ。俺は警戒しながら冒険者ギルドの扉を開けた。
建物の中は薄暗く、丸テーブル一台に4脚スツールの組み合わせがいくつかと、カウンター、掲示板があった。おそらく、掲示板から好きなクエストを選んで、カウンターに持っていって手続きをするんだろう。
だが、俺は別の事が気になった。この建物の中には、ばらばらのテーブルで、スツールに座ってうなだれている人が五人いる。そして誰もがうつむいて暗い顔をしている。早速ディストピアを見せつけられた気分だ。
セスカは「ここの人たちはプレイヤーで、死ぬ度胸もない人たち。私とおんなじだよ」と言っていた。しかし彼らの服装は俺と同じだ。この街を出ることすらためらっているんだろう。なるほど、彼らからは何の情報も得られないだろう。
俺は仕方なくカウンターに行った。冒険者ギルドに登録をしておくと色々と便宜をはかってくれるはずだ。たいていのゲームではそういうことになっている。
カウンターにいたのはやはり女性だ。まともな客もいないのにカウンターにいるってことはNPCの証拠だ。俺はNPCに話しかける。
「冒険者ギルドに入りたいんだけど、どうしたらいい?」
NPCはやたらと明るい。
「いらっしゃいませ、こんにちは。ギルドへの登録ですね。まず実力をはかるために、この石板に利き手を当ててください」
急にゲームっぽくなった。だが能力の数値化は便利だ。敵を知り己を知れば百戦危うからず。
俺は石板に右手を当てた。すると空中に緑色の字で俺のステータスやレベルが表示された。俺はかなり慌てた。これを見てる人全員に俺の能力を知られてしまう。敵から己を知られれば百戦危ういではないか。しかもNPCがわざわざそれを読み上げてくれた。
「ファイターレベル:1
マジックユーザーレベル:0
プリーストレベル:0
シーフレベル:16777215」
「いやちょっと待った!」
俺は急いで石板から手をはなした。一部分に驚くような数字が入っていたんだが、セスカ的にはどうなのか。恐る恐るすぐ横にいるセスカに声をかけた。
「み、見た?」
セスカは目を細めて半笑いしている。
「見たし、聞いたし」
俺は慌てて言い訳をしようとした。
「いや、俺は普通に……」
「これがチートってやつなんだね。初めて見たわ」
セスカはニヤニヤしている。
俺は焦りまくった。ゲーム内での犯罪はゲーム内では違法だが正当な行為だ。しかしチートはゲームからBANだ。追放だ。
「そう言うセスカはどうなんだよ。セスカのも見せろよ」
今度はセスカが石板に手を置いた。
「ファイターレベル:6
マジックユーザーレベル:27
プリーストレベル:0
シーフレベル:0」
そうだよな。これが普通のステータスだよな。
俺はセスカに耳打ちした。
「ちなみにマジックユーザーレベル27ってどれくらい?」
「塔の建設が許されるレベルよ」
そうだよな。魔法使いと言えば塔だよ。
「セスカって実はすごく強いんじゃぁ……」
「いいえ、たいしたことないわ。まあ冒険者としては、そこそこ?」
いや、どう考えても高レベルのマジックユーザーだ。
何か重苦しい沈黙がしばらく続いた。
沈黙を破ったのはNPCだった。
「ではレオナ様を冒険者ギルドに登録いたしま……」
俺は食い気味に拒否を声明する。
「しないしない。しません。するのやめましたー」
めちゃくちゃなデータをギルドに正式登録したくなかった。悪目立ちはまずい。俺たちは急いでギルドから退散した。
セスカは俺の事を完全にチーター扱いしている。しかし俺には全く身に覚えがない。
GMコールをしてみようとも思ったが、GMを呼ぶ方法が無いことに気づいた。セスカ曰く「GMなんて一度も見たことないわ」だそうだ。
ログインした際のログハウスも見に行ったが、特に手掛かりになるようなものはなかった。結局このステータスが正しいのか誤っているのか、分からないままになった。このゲームを作ったのは神がかった人物だ。だから、こんなあからさまなチートを見逃すシステムにはなっていないはずだ。だからこのステータスは合法にちがいない。
すっきりしない気分だが、しばらくは、このステータス異常には目をつぶっておくしかなさそうだ。