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決戦エピローグ

 俺は魔術師ギルドの塔の近くに来ていた。念のため変装もしてきた。これから、あれほど恐れていた魔術師ギルドの塔にのぼっていくつもりだ。ギルドの周囲には見張りはいない。魔法のランタンが入り口にかけられているだけだ。


 明らかに俺を誘っている。俺が今夜来ることを知ったうえで、見張りも置いていない。どんな罠を用意しているか分からないが、余程自信があるんだろう。

 俺としても、この壁だけに集中できるのはありがたい。塔は二十階くらいあるだろうか。石造りの壁で非常に上りやすい。俺は壁にとりつくと、一気にのぼり始めた。小走りくらいのスピードでぐんぐんのぼっていく。


 途中に明り取りの窓があるが、塔の内部からは光は漏れていない。俺のシーフの勘は伏兵はいないと告げている。

 シロツグは最上階に一人で待っているのだろう。そうでなければ俺は警戒してのぼってこない。ギルド内部はわざと人払いをしているのだろう。それが一層不気味だ。

 俺はあっという間に最上階まで登り切った。


 窓から体を滑り込ませると、内部は真っ暗だ。シロツグはどうか知らないが、俺はは夜目が利くから星明りだけでもよく見える。


 広い執務室のような部屋だ。部屋の向こう側の端に仕事机、部屋の中央に応接セット、壁際はすべて本棚で埋め尽くされており、それ以外の家具は無い。ここはシロツグの仕事部屋なのだろう。ちょうど応接セットにシロツグが座っているのが分かった。もう一人誰かがいるが、ここからは影になっていてよく見えない。


 ここには隠れるところがない。自分を守る手立てがない。シーフの本能が今すぐ逃げるべきだと囁いてくる。しかし、今夜の俺は逃げるわけにはいかない。


 ここからシロツグに近づくためには、魔法の罠を七つ外す必要があった。七つそれぞれが致死性の罠だが、解除は簡単だ。ミスリルのツールなら七秒ですべて外せる。


 俺はハイドを使いながら歩いて、応接セットに近づいていった。魔法の罠を七つすべて外し終えた時に、シロツグが話し始めた。


「君が噂のシーフ君かな」

 罠を外す気配が伝わるわけがない。シロツグは魔術探知を使って罠が外れる瞬間を待っていたのだ。

 俺はシロツグの問いには答えない。

「誰もいない? ばかな!」

 天井が明るく光り始めた。最上階が昼のように明るくなった。しかし、俺はその時、入ってきた窓の外で塔の外壁にはりついていた。俺は塔の周囲を回って別の窓からシロツグの様子を見る。

 シロツグは呪文を唱えている。

『〃〃〃〃、〃〃〃〃、〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃』

 これは聞いたことがある。セスカが使っていた見破りの呪文だ。当然俺の反応はない。


 シロツグは周囲の全方向に呪文を乱射した。

『〃〃〃〃、〃〃〃〃、〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃』

『〃〃〃〃、〃〃〃〃、〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃』

『〃〃〃〃、〃〃〃〃、〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃』

「バカな。私の呪文をことごとくかわしているというのか」

 シロツグは魔術でハイド状態を見破ることができないことを知らない。


 シロツグは動揺しているように見える。周囲に対して警戒し続けているが、俺は見つからない。魔力にも限りがある、見破りの呪文ばかり撃ち続けるわけにはいかない。このままの状態をキープし続ければシロツグの集中力をそぐことができるかもしれない。


 五分くらいたったころだろうか、シロツグは怒気を伴いながら叫んだ。

「いるんだろう、シーフ君。今日は君の大切なものを用意しているんだ」

 シロツグは一緒にいる人物の胸ぐらをつかんで、立たせた。


 メイド服を着た少女だった。

 セスカだ。顔は青く目からは生気が消えている。

「この女は私の魔術で奴隷にしてみたよ。どうだい、まだ隠れているつもりかい」

 バカな! セスカは城の中でメイドの仕事をしているはずだ。

 本物のセスカか? それとも替え玉か? そもそもそこにいるシロツグも替え玉かもしれない。

 俺はあせった。しかし、ここでのこのこと出て行くわけにはいかない。俺は機会を待つことにした。


 シロツグはナイフでセスカの服を引き裂いた。勢いよく下着まで破り捨て、セスカを全裸にさせた。セスカの美しい裸体が明りのもとにさらされる。セスカはその間、全く反応しなかった。本当にセスカなのか? もし本物だったら許さない。だが、今出て行ったらファイアーボール的な何かを撃たれて、一瞬で蒸発してしまうだろう。


「いいのかなシーフ君。君の恋人をここで犯すことにするよ。残念だねえ。こんなに美しいのに。この子には私の子をはらんでもらうよ」

 シロツグの手がセスカの胸を揉みしだいた。セスカが初めて反応する。

「い、痛い……」

 苦しそうな声だ

「そうそう、こっちもいじってやるぞ」

 シロツグの手がセスカの下腹部を乱暴にこねる。

「しろつぐさま……」

 セスカは相変わらず青い顔をして、虚ろな目をしている。

 シロツグの手の動きとともに水っぽい音が混じり始めた。

「シーフ君。このままこの女は私の性奴隷になってもらうよ。私の与える快楽は通常の二十倍に高めてある。この女は私なしには生きていけない体になるんだよ。いいのかな?」


 俺は塔の外壁を伝ってシロツグの後ろに回り込んだ。もう我慢も限界だ。セスカもシロツグも替え玉で構わない。目の前の悪夢を消すためには今すぐシロツグを殺すしかない!


 俺はバックスタブを使った。シロツグの背後から一気に距離を詰め、シロツグの腎臓にダガープラス五を突き立てた。


 しかし、今刺したはずのシロツグは部屋の隅にテレポートし、勝ち誇ったような笑みを浮かべた。ウイッシュを使われたらしい。


 シロツグは呪文を唱え始めた。

『〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃、〃〃〃〃〃、〃〃〃〃、〃〃、〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃……』

 ファイアーボールを食らったら即死だ。俺は入ってきた窓までダッシュし、再度塔の外壁に張り付いた。そしてハイドし、外壁を伝って回り込んだ。


 シロツグのファイアーボールは、すさまじい爆音とともに俺が出た窓を外壁もろとも吹き飛ばした。直径十メートルの球形に穴が開いた。あんなのを食らったらひとたまりもない。

 シロツグは小走りで爆心部分を見に来た。俺の死体がないか確認したかったのかもしれないが、俺はそこにはいない。まあ、まともに食らったら蒸発してしまって、やはりそこにはいないということになるが。


 俺は塔の外周を回り込みながらシロツグが隙を見せるのを待った。

 シロツグはやはり見破りの魔術を使っては首をひねっていた。


 しかし、しばらくすると納得したというような顔で中央の応接セット戻っていった。そしてセスカをテーブルの上に四つん這いにさせると、ズボンを脱ぎ始めた。


 俺にはアナウンスなしだ。俺を殺せたと思っているに違いない。俺の登攀とうはんスキルもバカにされたもんだ。これで決めてやる。


 俺は再度応接セットに突進し、バックスタブでシロツグの腎臓をえぐった。同時にウイッシュリングに願った。『シロツグのウイッシュを打ち消せ』


 シロツグはその場にしゃがみ込むように倒れた。すさまじい痛みのために、声も出せないようだ。倒れたシロツグは、俺の方を見て唖然とした様子だった。俺はとどめに頸動脈を切った。生血が脈と同期して噴き出す。二回、三回、四回……。もう失う血がなくなったのか、出血は止まった。


 倒した。これが替え玉のシロツグでなければ暗殺は成功したことになる。替え玉にあんな威力のファイアーボールを撃てるはずもないのでおそらく本物だろう。


 セスカは……。

 セスカはテーブルの上で全裸のまま四つん這いになっていた。

「ご、ご主人様……早く……早くご褒美をください」

 セスカは脱いでもすごかった。彫像のような完璧なフォルムにすべすべの肌。そして……。

 セスカに怒られそうなので、ウイッシュリングに願った。『セスカをもとに戻してくれ』

 セスカの顔に血の気が戻り、目に輝きが戻った。

「ちょ! ちょっとレオナ! 何見てんのよ」慌てて服をつけようとするが、メイド服はびりびりで、衣服としての役目をはたせない。

「なんなのよもう~!」

 俺はマントをとると、セスカの体にかけてやった。


「ちょっとレオナ。何があったか説明してくれない?」

「シロツグがセスカを人質にしていたんだよ」

「わ、私が裸なのと何か関係あるの?」

「聞かない方がいいと思うよ」

 セスカは手を足の付け根に持って行った。しばらくもぞもぞしていたが、ちょっとほっとした顔になった。

「ま、まだまだ生娘ですぞ」

 セスカがかわいく見えてきた。日常が返ってきた。

「ふふふ、それは俺も保証するよ」

「鼻で笑ったわね! きー!」


 俺たちは談笑しながら、塔のらせん階段を下りて行った。魔術師ギルドには誰もおらず、楽に脱出することができた。


 とにかく、セスカを奪還できた。シロツグが生きてようが死んでようが、もうどうでもいい。セスカさえ無事ならば。




 俺たちは宿屋に戻ってゆっくり寝た後、反省会をした。


 俺は、一日早くシロツグを殺していればよかった。シーフたちが殺されることはなかったし、セスカが人質に取られることはなかったはずだ。

 だが、シロツグが一人で待ち構えているのは昨晩だけだったはずだ。暗殺のタイミングは昨晩しかなかった。これでも被害を最小限に食い止めたといえる。


 セスカは、メイドになった事がすでに悪手だった。どうやって突き止めたか知らないが、シロツグに正体を知られ、洗脳されてしまった。敵の懐まで入るには慎重さが足りなかったといえる。


 さっきゅんは、よくやってくれたといえる。任務は簡単なものが多かったが、仕事はきちんとやっていた。お疲れさまと言ってあげたい。


 アンリエット殿下はいないので評価の対象にはならない。しかし、俺はアンリエット殿下の情報や推理に何度も助けられていた。MVPはアンリエット殿下に贈りたい。


「ところでセスカ、これからも王位を狙っていくのか?」

「メイドとして潜入は失敗しているからもう使えないわ。それと、懲りた。まだまだ小さい詐欺で鍛えて行かないと……。いきなり王位とか無理だわ」

 セスカは詐欺師として出直すつもりらしい。


 俺はシーフとしてやっていくつもりだ。貴族や豪商から少しずつくすねて、なりわいとするつもりだ。

 さっきゅんは俺の助手として、張り込みや盗品を受け取る役をやってもらうことになっている。


 しかし、俺にはまだ盗みきれていないものがある。




 王城で舞踏会がある日、俺は城壁をこえて庭園の生け垣に姿を隠していた。ハイドは解いている。

 しばらく待つと、そこへ美少女が現れた。


「ねぇねぇ、あなたは誰かしら?」


「ただのしがない盗賊です」


「私をさらいに来たのかしら?」


「そうです。準備は整っていますか?」


少女の笑顔が輝く。


「はい! わたしをさらって逃げてください」


 アンリエット殿下は俺に体を預けてきた。

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