休息
俺は誰もいない部屋に帰ってきた。さっきゅんは偵察に、セスカは城内に、そしてアンリエット殿下は衛兵にとらえられてしまった。
セスカは当分の間戻ってこられないだろう。俺はさっきゅんを待つことにした。
さっきゅんは衛兵の動向を探る事になっていたから、シーフの処刑を見ていただろう。しかし、それももう遅い。殿下は帰ってこない。この世界に携帯がないことを呪った。
いつもは狭いと思っていた部屋も、俺一人だと広く感じてしまう。部屋の隅で体育座りをしてみる。
アンリエット殿下は捕らえられてひどい目にあわされるというわけじゃない。お城に帰って、ちょっと怒られるくらいのことだ。普通の生活に戻るというだけだ。俺のミスでアンリエット殿下が不幸になったわけじゃない。
それよりも、今夜の魔法使いギルドの塔の登攀について、考えなければならない。アンリエット殿下は、シロツグが百パーセントの勝算を持っていると言っていた。しかし、こちらはチート並みの、ぶっ壊れスキルを持っている。勝算は俺の方にもある。もし見つかりそうになったら、引き返して別の機会を待つだけだ。
シロツグが戦々恐々として待つばかりなら消耗していくかもしれない。時間をおいてチャレンジした方が有利かもしれない。しかし、シーフの虐殺は今すぐとめなければならない。俺は今や遅しと夜を待った。
西日が差すころ、さっきゅんが返ってきた。
「レオナ様、今日一日の衛兵の動きを探ってきました」
「ああ、お疲れ様。シーフの虐殺は悲しいものだったな」
さっきゅんは少し顔を曇らせた。
さっきゅんも火あぶりにされる人間を見るのはつらかったに違いない。
「シロツグを暗殺する理由がまた増えましたね」
「ああ。今夜、待ったなしだ」
「シロツグも今日来ることを見越していると思います。危険な賭けだと思います」
「俺もそう思っている。でも無理を承知でやらなきゃならない時もあるんだ」
「そうですね。衛兵の蛮行をとめるためには、ボスを殺すしかありませんから」
「衛兵たちの今日の動きはどうだった?」
「いつもどおりでした。シーフの虐殺以外は」
「宿屋の臨検はもうやっていないのか?」
「やっていませんでしたね。シロツグは挑発だけでレオナ様をおびき寄せられると踏んでいるんでしょう」
「そうだな……」
俺はベッドに倒れこんだ。
「深夜になるまで横になるよ。少しは疲れが取れるかもしれない」
さっきゅんはベッドに腰かけ、こちらを向いた。
「レオナ様。よろしければお慰めいたしましょうか?」
「さっきゅんはやっぱりサキュバスだな。今はいいよ」
「生気を吸ったりはしませんよ」
「それでもいらないよ。さっきゅんは大事な仲間だからな」
さっきゅんは両手でほっぺたを覆った。
「レオナ様にそう言っていただけるなんて幸せです。でも、私もセスカさんやアンリエット様のように、ご寵愛いただきたいです」
「ちょっと誤解しているのかな? 俺はさっきゅんのことが好きだよ。セスカもアンリエット殿下も好きだ。そこには差はないよ」
「私も女として見てほしいんです」
「さっきゅんにはまだ早いよ。その時が来たら考えるよ。それにセスカも殿下も女性として見たことはないよ」
「レオナ様はもしかして殿方がお好きとか……」
デジャブーだ。アンリエット殿下の顔をさっきゅんに重ねてしまった。
「いや、そんなことはないよ。でも……そう、殿下が捕まったのは、やっぱりちょっとショックだったかな」
「アンリエット様は本当に残念でした。でも、いつかはお城に帰るお方です。それがすこし早くなっただけです」
「そうだな。そう思うことにするよ。ああ、今は少しだけ休ませてくれ」
俺はベッドにもぐりこんだ。
「わかりました。お仕事の時間になったら起こしますね」
「ありがとう」
俺にはとにかく休息が必要だった。
シロツグと対峙する瞬間に備えて眠った。




