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殿下とおでかけ

 俺はアンリエット殿下を一人で行動させるのはまずいと感じていた。城の外にも慣れたとはいえ、下々の者の常識がまだ通用しないところがある。だから、俺と一緒に行動してもらうことにした。

 冒険者ギルドは一段と込み合っていた。

 メインとなる掲示板には新しい張り紙がされていた。

『指名手配、レオナという名のシーフ、生死を問わず、魔術師ギルドより』

 賞金はセスカに渡した焦点具と同等だ。御殿がたつほどの金額だ。

 どうやらシロツグは守りに入ったらしい。冒険者みたいな浮き草稼業の人間にに依頼するほど切羽詰まっているようだ。溺れる者は藁をもつかむとはよく言ったものだ。


 アンリエット殿下は「あら、まあ」などと言いながら、腕をからめて来る。

「かっこいいですわね」

「何がどうしてそうなるんですか?」

「世界を敵に回しても、まだ逃げない勇敢な方ですわ」

 俺のことを言っているらしい。

「お嬢様の読んだ本では、その勇敢な方はどうなりましたか?」

「最終的には処刑されますが、後々まで民草の英雄譚として語り継がれますわ」

「なんだ。死んじゃうんじゃないですか」

「レオ……兄さまは死んだりしませんわ。何といっても私のヒーローですから」

 俺に向かって屈託のない微笑みを向けるアンリエット殿下。

 ちょっとてれてしまった。

「そんなにかっこいいもんじゃないですよ。逃げて隠れて盗んでなんぼの職業ですからね」

「ふふっ。そういうことを平気で言えるところも素敵です」

 俺は話題を変えた。

「それはそれとして、噂話を拾ってみないと」

「はい」


 俺はヒアノイズでギルドホール内の会話を探ってみた。

 賞金目当てにレオナを探すもの者もいるが、手がかりが名前だけではどうしようもないため、あきらめる者の方が多い感じだ。

 受付の後ろには「当ギルドにはレオナという名前の者は登録されていません」と書かれている。何度もレオナがいないか聞かれたのだろう。無理もない。

 また、わずかだが「レオナは魔術師ギルドに敵対する勇敢な者」という意見もあった。


 シロツグは冒険者の間でも嫌われているようだ。政治に口を出し、冒険者税を作り出し、その金が研究の名目で魔術師ギルドに流れ込むようにしてしまったらしい。ここで依頼を受ける冒険者は、報酬から三割も中抜きされているらしい。

 昨日あった衛兵による宿屋の臨検についても噂されている。衛兵たちのボスがシロツグだということは誰もが知っていることのようだ。

 冒険者の使う宿屋はどこも踏み込まれて、荷物をひっくり返されたらしい。なかには、金目のものがあるとそれを『証拠の品』として取り上げられたものもいるらしい。

 ギルド内ではシロツグに対するヘイトが渦巻いている。


 一方、シロツグの使い魔が殺された事や、アンリエット殿下が行方不明になった事については聞こえてこなかった。


 俺たちはギルドを後にした。冒険者がよく集まると言われる酒場へと向かった。

 そして、向かう道々アンリエット殿下と情報交換をすることにした。

「お嬢様が家出されたことは話題に上がっていませんね」

「誘拐されたと勘違いしているんだと思いますわ。これを公にした場合、人質は殺されてしまうかもしれません。だから軍にも衛兵たちにも、知らせていないのだと思います」

「なーるほど。すごい洞察力ですね」

「私の家族ですから。何を考えるかはすぐにわかりますわ」

「お嬢様、シロツグと話したことは?」

「少なからずありましてよ」

「今のシロツグが何を考えているか分かりますか?」

「『レオナ』への憎しみはあるかもしれませんが、それよりも恐怖を感じていると思いますわ。姿を見たこともない人物に使い魔を殺されて激しく動揺していると思います。おそらくですが塔の上層に引きこもっていることでしょう」

「それはお嬢様の勘ですか?」

「シロツグは自分が圧倒的優位にならないと攻められない性格ですわ。今のような五分五分の状態では何をしていいか分からなくなっていると思います」

「過去にもそんなことが?」

「シロツグは王位を狙っていますわ。衛兵はほぼシロツグの言いなりですし、軍にも通じています。でもクーデターを起こすまでには至っていませんわ。百パーセントの勝算がなければ行動を起こさないんですのよ。シロツグがそんな性格であるおかげで、父は今だ王のままでいられるのです」

「すると今は百パーセント安全な塔に引きこもっているだろうというわけですね」

「その通りですわ。衛兵も軍も動かせるのに、シーフ一人が蟻の一穴となっています。だから塔に引きこもって何重もの罠で『レオナ』を百パーセント捕えようというわけです。もちろんこれは私の考えた可能性の一つでしかありませんけれど」

「素晴らしいです、お嬢様」

 驚いた。まるでシャーロックホームズじゃないか。アンリエット殿下の推理は的確だ。だがひとつ謎が残る。

「話は変わりますが、お嬢様がおうちに帰らないのは、ライブ感云々は関係ありませんね。俺を焚きつけてシロツグを殺させようとしていますね。お父様をシロツグから守るために……。そのせいで推理にバイアスがかかっている可能性があります」

「レオ……兄さまは何でも分かってしまいますのね。正直に申しますが、もしシロツグが塔にこもったとするなら、兄さまを殺す百パーセントの自信があるということですわ。兄さまが、のこのこ出向いては無事では済まない可能性はあります」

「では、本当の推理はどうなります?」

「多少無理をしてでもシロツグを暗殺するのがよろしいと思いますわ。私は存じませんが兄さまは千六百万レベルなのでしょう? 暗殺を成功させるには十分なスキルをお持ちのはずですわ」

「ダガーが届く距離まで近づけたらの話ですよ。罠を外しきれない可能性はありますよ」

「それでも私は信じておりますわ。兄さまは、なんといっても私のヒーローなのですから」

「ご期待にそえるよう頑張ってみますよ」

 アンリエット殿下は俺を見て極上の笑顔を見せた。殿下の最強の武器はこの笑顔だな。

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