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弾圧

 俺たちは冒険者ギルドに到着した。


 ギルドホールの一般的な内容の掲示板を見ると、シーフの手配書が張られていた。

「魔術師ギルドにて捜索中。すべてのシーフを証拠とともに連れてくる事。生死を問わず」

 賞金の額は一人あたま馬二頭分と破格の条件だ。

 盗品にも賞金がかけられている。盗品のデザインも張られていた。俺は雑嚢の中のダガープラス五を捨てたくなってきた。

 ここでシーフだとばれたら、袋叩き間違いなしだ。


 カウンターの方でも張り紙があった。

「シーフの方はすべて登録解除させていただきました。また、シーフの方の新規登録をご遠慮いただいております」

 冒険者ギルドではもめごとお断りといった雰囲気だ。冒険者ギルドに登録しなかったのはやはり得策だった。


「ふふふ。おおごとになっておりますのね」

「お嬢様、ここはいったん宿に戻りたいと思います」

「レオナさんはシロツグが怖いのですか?」

「怖いです。宿に戻ったらそのまま引きこもりたいくらい怖いです」

「正直な方は嫌いじゃありませんわ。宿まで引き返してもよろしくてよ」

「おそれいります」


 そんなわけで、俺たちは急いで宿まで戻った。

「セスカ、シーフギルドが焼かれて、シーフに賞金がかけられているんだ」

「なに? 言ってることがよくわからないわよ」

「すまん。俺が魔術師ギルドで盗みを働いたせいで、この街のすべてのシーフが逮捕されつつあるみたい。シーフギルドは焼かれてたよ。やってるのは宮廷魔術師のシロツグだ」

「ええ? ずいぶんとひどいやり方だわねぇ。それでビビッて帰ってきちゃったわけなのね、レオナは」

 セスカはだんだん俺を雑に扱うようになってきてる。

「戦略的撤退だよ。アンリエット殿下も支持してくれてるぞ」

「相手は宮廷魔術師ですわ。魔術で何でもありです。魔術をなんとかできる手段がないと対決なんてできませんわ」

「ほらね」

「『ほらね』……じゃないわよ。これからどうすの?」

「シロツグをなんとかする手段を考えよう。というか考えても無駄な気がするから、ここに引きこもりたい」

「何言ってるのよ。ここにだって踏み込まれる可能性はあるのよ。今すぐ何とかしないといけないわ」

「逃げる……しかないな。まぁ、暗殺って手もあるけど」

「千六百万レベルシーフが弱気だわね。サクッと暗殺できないものなの?」

「シーフは逃げたり隠れたりが本業だからね。暗殺はアサシンの領分だよ」

 アンリエット殿下が口をはさむ。

「アサシンギルドはかなり前につぶされておりますわ。それもシロツグが主導してですわ」

「ほらレオナ。レオナがやらなきゃ誰がやれるっていうのよ。しっかりしてよ千六百万レベル!」

「うーん。方法はないこともないんだけど……、ちょっと確認したいことがあってね。セスカはシーフが隠れていると思った時、どうする?」

「見破りの魔術を使うわ」

「じゃあちょっとやってみて」

 俺はベッドの下に隠れてハイドを使った。

「いや、みえみえじゃない?」

 俺は返事をしない。

「見破りの魔術を使えって言いたいんでしょう? わかったわよ」

『〃〃〃〃、〃〃〃〃、〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃』

「あ、あれ? 反応しないわね」

『〃〃〃〃、〃〃〃〃、〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃!!』

「レオナ、どこにいるの?」

 俺はハイドを解き、ベッドの下から這い出る。

「ここにいるんだよ」

 セスカは目を見開いた。

「え、隠れている人間を見破る魔術なのに? まったく反応がなかったわよ」

「やっぱりか。これが千六百万レベルの本気の力なのかもしれない」

「ただ隠れているだけなのに、魔術で見破れないなんてことがあるの?」

「俺は魔法もかかっていない道具を使って、魔法の鍵や罠を外せるんだぜ。ちょっとおかしいと思わないか」

「高レベルのシーフは魔法に耐性があるってこと?」

「ファイアーボールを撃たれたら生きてる自信はない。でも、シーフのスキルを魔法で打ち消すことはできないかもしれないってことだよ」

 しばらく沈黙が続いた。

「ちょっとレオナ。本当はすごい技持ってるんじゃないの」

スキルは確かにあるのかもしれない。でも倫理的にはどうだろう。

「シロツグの暗殺も実は確かに簡単なことなのかもしれない。アンリエット殿下はシロツグの暗殺について道義上どう思いますか?」

「事情は存じませんが、レオナさんはシロツグを殺せる力がありますのね。シロツグは間違いなく悪人です。政治にも介入しては私腹を肥やしています。父も魔術を恐れて、シロツグのやり方に文句を言えない状態ですわ。シロツグはいわば目の上のコブ。いなくなってくれれば、それ以上のことはありませんわ」

「殿下がそこまでおっしゃるなら……暗殺を計画してもいいかもしれません」

 その時、俺の耳にただならぬ叫び声が飛び込んできた。ヒアノイズで強化されている俺の耳にだけ届く声だ。

『シーフの処刑だー!』

『火あぶりだ。公開処刑だ!』

 声は王城の方から聞こえてくる。

「セスカ、大変だ。シーフの処刑が始まったらしい」

「なんですって?」

「悪いが俺は先に行かせてもらうよ」

 俺は窓から飛び降りると、全力で王城へ向かった。城壁の前では、もう煙が上がっている。

 これは罠だ。俺をおびきだすための罠だ。

 シロツグは、この騒ぎを聞きつけたシーフは、寄ってくるに違いないと踏んだんだろう。

 俺は王城から二百メートルほど離れた建物の屋上から行方を眺めた。

 二十人ほどのシーフがはりつけにされ、足元にはまきがくべられている。

 彼らは口々に怨嗟の声をあげ、炎に包まれていった。

 火あぶりは残酷だ。生きたまま焼かれる心境を考えるといたたまれない気持ちになる。


 シロツグはこの街のシーフ全員にケンカを売った。このケンカ、シーフ代表の俺が買わずして誰が買うというのか。


 その日、俺はシロツグを暗殺することを固く心に誓った。

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