宿屋で打ち合わせ
「というわけで、シーフのツールは手に入りました」
その晩の宿屋。冒険譚を聞いたセスカは俺をさげすんだ。
「何言ってるの、強盗じゃないの」
「がうちがうちがう。華麗にスリ取ったんじゃないか。これは芸術だ」
「ゲージュツ、カレー」
さっきゅんは応援してくれている。
「まぁいいわ、それで何ができそう?」
「何を盗むかによるけど……冒険者向けの雑貨屋でマジックアイテムを底引きとか?」
セスカは顔の横でぱちんと平手を合わせた。
「それはすごいわね」
「ごめん、それは無理かな。俺のポケットに入る範囲ならいくらでも盗めるけど。俺は、魔法の武器じゃないと傷つけられないモンスターの対策に、魔法のダガーが欲しいな」
落胆するセスカ。
「私にはなんかくれないのん?」
「焦点具(魔法使いの杖)がいいんじゃない?」
有頂天になるセスカ。
「いいわね。いい焦点具は上を見ればきりがないのよね。できればアーティファクトとかが……」
「まあ、あちこち偵察に行かないとわからないけどね」
セスカはまた落胆する。気分の上がり下がりの激しいやつだな。
セスカはシーフにちょっと期待しすぎだ。シーフは自ら何かを成す職業じゃない。他人が作った何かをかすめとる職業だ。シーフの価値は盗んだアイテムの価値ともいえる。盗まれるお宝があって初めて成立する職業なんだ。
「どこから盗むつもりか知らないけれど、魔術師ギルドならやめた方がいいわよ。魔法のトラップが何重にもかかってるんだから」
「程度によるよ。魔法のトラップも解除できるんだぜ」
「本当に? さすが伝説のシーフね」
そこで俺はもったいつけてしゃべりだした。
「実は、あと二つ問題があるんだけど」
「今度は何? なんなのよ!」
「このツールは出来が悪すぎる。魔法のトラップに挑むには。もっと高品質のツールじゃないと……。これじゃあ二~三回使ったら壊れちゃうよ。だから、今度は細工師ギルドに行ってみる。細工師のギルドマスターなら、もうちょっとましなツールを作れると思うんだ。あと変装道具が欲しい。いつも同じ顔で盗みを働くわけにはいかないからね。これは入手難度が高い。化粧と違って人相も変えなきゃいけないからね……」
セスカは途中で口をはさんだ。
「あー、もう! シーフ様はなんでそんなに前準備が必要なのよ。そんなんじゃ、いつまでたっても儲からないじゃないの!」
「しょうがないじゃないか。さっきも言ったけど、盗みは総合芸術なんだ。挑むなら、最高の道具と絶好の機会が必要なんだよ」
「わかった。わかりました。レオナが十分な準備ができるまで待ちますよ。で、それはあした? あさって?」
「あした中には何とかしたいと思う。セスカはその間、さっきゅんに魔術を教えてあげてくれないかな」
「突然なによ。私は教える義理なんてないわよ」
ここは言いくるめスキルポチ。
「宿屋に引きこもってたって退屈なだけだろ? さっきゅんはセスカファミリーの一人になったんだ。ちょっと試してみるだけでいいからさ。さっきゅんの魔法が生きる時もあるかもしれないぜ?」
「セスカふぁみりーねぇ。まあいいわ。教えてあげる」
いぶかしげな声をあげるが、顔はにやけている。まんざらでもないようだ。言いくるめ成功。
「サッキュン、マホウ、ナラウ、ツヨイ、ナル!」
さっきゅんは大喜びだ。
「じゃぁ、そういうことで。明日も頑張りまっしょい」
セスカとさっきゅんはダブルベッドで、俺は床で寝た。もう一部屋とりたいところなんだが生活基盤がしっかりするまで質素倹約だ。
今まで、行頭の字下げができてなかったみたいです。
すいません。