レオナ、イキる
ノーヒントでシーフギルドを探すというのは無理ゲーだ。しかし、それらしい建物を探して中心街をうろうろしていると奇跡が起きた。
目の前で『ピックポケット』を見てしまった。ただの一般人に見える男が、金回りのよさそうな男のポケットからコインを抜き取った。その動作から見るとまだまだ初心者のようだ。あれじゃシーフとしてはダメだ。しかし、こいつがシーフなのは間違いない。俺はそのあとをつけることにした。
男は中心街を無軌道に移動していた。次の獲物を探しているのか、追跡をかわそうとしているのか、はたまたシーフギルドに帰ろうとしているのかわからない。
俺はちょっとした賭けに出た。そのシーフ君から財布を奪ってみよう。
俺はシーフ君の前に回り込むと、軽くよろけて肩をぶつけた。俺の手は流れるように舞い、シーフ君の財布と、それと同じくらいの重さの重りを入れかえた。シーフ君は全く気付いていない。
その一方でシーフ君は俺の懐に手を入れようとした。その動きは緩慢でスローモーションのようだ。俺はすかさず彼に小石を握らせた。
俺はそのシーフ君とすれ違った。さて、気づいてくれるかな。俺は振り返ってシーフ君を目で追う。
シーフ君は十歩以上歩いたところで気づいたらしい。おれが握らせた小石を見てふり返った。俺と目が合う。シーフ君は小石と俺を見て、やっと納得したらしい。そこで俺は懐から彼の財布をゆっくりと出して見せる。シーフ君はあわてて自分のポケットから俺の入れた重りを取り出した。
シーフ君は取り乱していた。重りや小石を見ている。しばらくすると俺の方につかつかと歩いてきた。
「君、すごいスキルを持っているね。私はギルドでも、いちにを争う実力者だ。その私から財布をスリ取るなんてすごいじゃないか」
あののろさで実力者なのかよ。この街のシーフのレベルが知れるわ。
「俺はこの街のシーフギルドに行きたくてね。連れて行ってくれないかい」
俺は彼と肩を組んで、そう言った。その瞬間に彼の財布を彼のポケットに押し込んだ。
「わ、分かった、連れて行こう。だがその前に私の財布を返してくれないか」
俺はちょっとイラッとした。
「今返したじゃないか。それにも気づかなかったのか?」
彼はポケットから財布を出して動揺し始めた。
「申し訳ない。私とはレベルが違うようですね。私の名はウォルフです。ギルドまでご案内しましょう」
彼は俺の前を歩き始めた。俺はそれについて歩いていく。
彼はすぐ近くの古本屋に入った。俺もそれに続いて入る。なるほど、シーフギルドの表の顔は古本屋ってわけだな。
彼は店の奥まった本棚を押すと、秘密の扉が現れた。
「こちらへどうぞ」
扉の中は下りの階段だ。俺は案内に従って階段を下りていく。すると、少し広い部屋に出た。部屋にはイスとテーブルが置いてあり、壁にはシーフ用のツールが飾ってある。値段も書いてあるから販売もしているようだ。同じツールでもいろいろな種類があってなかなか面白い。
そこには何人かの男女がいた。彼らは俺の顔を見て驚いている。するとシーフ君が「こちらの方は大変優れたスキルを持っていらっしゃいます。ギルドにご招待するのはごく自然な流れです」と、説明してくれた
俺は「どうも」とだけあいさつする。
「ウォルフさん。俺はシーフ用のツールが欲しくて来たんだけど、ツールだけ売ってもらえないかい?」
シーフのウォルフ君は少し驚いている。
「ご入会はなさらないのですか?」
ぶっちゃけレベルが低すぎて入る気になれない。それに何らかのギルドに入ると、稼ぎの何割かを租税としてギルドに払わなければならないはずだ。盗賊のうわまえはねるなんてとんでもないヤクザだ。
「入会するつもりはないよ。入会しないとツールは売ってもらえないのかい?」
「お売りすることはできません。それに、ここで稼ぐことも許されません」
なんでそんなに閉鎖的なんだよ。
「それは困る。許されない事をしたら具体的にどうなるか教えてくれないかな」
周りがざわつく。俺はここのルールにあり得ない事を言ったらしい。
「死を持って償ってもらいます」
どうしてそう極端なんだよ。
「わかった。稼ぐのが許されないのはどの範囲なんだ?」
「街の全域です」
俺は我慢の限界に達した。俺はウォルフ君の方を向いてマントをひるがえした。それだけで十分だった。俺はウォルフ君が持っているシーフ用ツール一式を抜き取った。
「わかった、じゃあな」
俺はその場を離れて古本屋の方へ階段を昇り始めた。
「ま、まってください。ミスター。ギルドに加入して盗みの技を教えてはいただけませんか?」
「俺に利点が一つもないだろ。俺は俺で勝手にやらせてもらう」
ウォルフ君は大声でどなった。
「アサシンギルドに依頼を出しますよ!」
「俺の方がアサシンギルドに依頼を出しとくよ。お前ら全員分な。平和になった後で稼がせてもらうことにするよ」
口から出まかせだ。今回の『言いくるめ』スキルはどうだ!
「わ、わかりました。私たちもメンバー内で話し合ってからあなたの処遇を決めたいと思います」
言いくるめは失敗したようだ。大変残念だ。俺は彼らに別れの言葉を告げた。
「俺は、ツールを売ってくれるだけでいいんだけどな。まあ、お前らとは二度と顔を合わせないことにするよ」
俺はハイドを使った。俺は四人分の残像を出しながら消えた。そして本体の俺は階段を無音でかけあがり、古本屋を抜けてその場を後にした。




