S8 VS Shamelot<シャメロット>
洞窟を抜けた二人の視界には青空と蒼海が視界を埋め尽くしていた。
ここへやってくる際に通ってきた真っ白に伸びる一本の海岸線を見つめながら背伸びをする二人。
「気持ちいいなぁ」
潮風を浴びながら背伸びをするククリの傍らでパピィは何やらPBを見つめながらキーボードを素早く弾いていた。
「何やってるのパピィ?」
パピィはPBの画面を見つめながら無言で、島の絶壁に沿って歩き洞窟から離れて行く。
そんなパピィの様子に慌てて後を追うククリ。そして海岸の砂岩を踏みしめて行った先で、エルムの村の入り口からそう遠くない位置に、何やら鋭い岩が突起した岩場を二人は発見した。岩場には体長五十センチメートル程の大きなヤドカリのような生物が、無数に岩場の周りをゴソゴソと這い回っていた。
「……ヤドカリ?」
ククリに呟く前でパピィはその生物の元へ近づき甲羅をツンツンとつつき始める。
「こいつShamelotって言うんだって。Lvは1〜3がこの辺にいる模様」
パピィはそう呟くとふと短剣を腰元から抜いた。
「さてと……そうだ。その前にクーちゃん」
「なに、どうしたの?」
パピィは真っ直ぐにククリを見つめる。
「パーティ組もう」
「パーティ?」
そう言ってパピィはククリにPBを開くように促す。
そして言われたままにPBを開くククリ。
「ちと待ってて」
そうしてパピィはPB上で素早くキーボードを弾き始める。
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□
■パーティ(現在名:1人)
☆Puppy
■パーティ編成
パーティに誘う>通信範囲から>
Kukuri >>> 招待する
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□
そしてククリの画面に現れる変化。
「あ、なんかパーティに招待されたよ。これパピィ?」
「そそ。了承すべし」
そしてパーティへの参加を了承するククリ。
するとパピィのPBの画面上でも変化が起こる。
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□
■パーティ(現在名:2人)
☆Puppy
Kukuri
■パーティ編成
パーティに誘う>通信範囲から/フレンドリストから
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□
「あ、パーティ所属中になった。へぇ、パーティってこうやって組むんだ。パピィどこで覚えたの?」
ククリの素朴な疑問にパピィはあっけらかんとした表情を返す。
「酒場で隣に居たプレーヤーが話してた」
「盗み聞き……? わたしとずっと話してたのによくそんな暇あったね」
ククリがある意味感心してそんな呟きを漏らすと、パピィは改めて腰元の短剣に手を伸ばした。
「じゃ、やるよクーちゃん」
「ちょっと待って、まだ心の準備が」
ククリの発言も聞かずいきなりシャメロットに切りかかるパピィ。
刃を突き立てられたシャメロットは驚いて、身体を揺さぶるとそのままパピィに向かって鋏を振り翳す。
「このパピィ様に鋏を振り翳すなんて……躾がなってない!」
「しつけってそんな事言ってる場合じゃないでしょ!」
慌ててククリが参戦し、二人で岩場のシャメロットに向かって必死に短剣で攻撃する。
突き立てた刃の先ではシャメロットは傷を負う事は無い。ただ僅かに真っ白な光の粒子が舞い上がるだけだった。
「これダメージ与えてるのかな……?」
そう言う傍らで敵の攻撃を受けたククリの身体から真っ白な粒子が舞い上がる。
「わたしの身体からも光が出てる」
パピィはそんな様子から冷静にこの世界のシステムを分析していた。
この世界では冒険者達は、身体的に怪我を負う事は無い。代わりにダメージを表す指標としてこの光の粒子が舞い上がる。そして、それはプレーヤーだけではなくモンスターにも適用される。
そして、今シャメロットから僅かに上がる光の粒子。それはつまり、敵に対して僅かにだが確実にダメージを与えている事を意味する。
「ちょ……ちょっと硬くない?」
「為せばなる、為さねばならぬ、アルマジロ!」
意味のわからぬ言葉を返すパピィにククリが突っ込みを返そうとしたその時だった。
言わばから鋏を振っていたシャメロットが突然岩場から転げ落ちひっくり返る。
「お、こけた」
「こけたって言うな。でも実際こけたのか」
容赦なく転がったシャメロットに短剣を振り下ろすパピィ。
すると、突き立てた刃から先程までより多い光の粒子が舞い上がる。
「ふむ、こけると脆い」
「甲羅の裏側は柔らかいんだ。パピィ今のうちだよ」
そして二人の猛攻撃が始まる。
そして二人の視界の中で今崩れ落ち、光の粒子となって消えて行くシャメロットの姿。
「やった……倒した」
膝をついてその場で深い呼吸をつくククリ。
そんなククリの前でパピィは一人シャメロットが粒子となって消えた後に残された一枚のカードに手を伸ばしていた。
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□
〆カード名
シャメロットの甲羅
〆分類
アイテム-素材
〆説明
Shamelot<ティムネイル諸島全域に分布し生息する陸蟹>の甲羅。
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□
「カード? カニの落し物かな」
二人はカードの内容を確認すると戦闘終了後、村付近の地脈がうねる断崖の窪みに身を潜めて休憩を始める。窪みは小さな洞穴のようになっておりちょうど子供が二人程入れる大きさであった。
「モンスターってアイテムドロップするんだね。お金は落とさないのかな」
「カニがお金持ってたら変じゃんかクーちゃん」
パピィの言葉に指先を口元に当てて「確かに」と呟くククリ。
「このカードってどうやって使うのかな。なにか効果あるのかな」
「うむ、多分効果は無いと思われる」
パピィの言葉に目をぱちくりとさせるククリ。
「え、じゃあなんのためにこのカード存在するの?」
「おそらく換金ではないかと。お金を落とさない代わりに素材を落とすのだろうきっと」
それを聞いてククリは納得したように手を打つ。
そうしてそれから、二人はこの岩場で暫くの間、蟹狩りへと興じるのだった。
楽しい時間はあっという間に流れ、気づけば日はすっかり落ち辺りは夕暮れに染まっていた。
▼次回更新予定日:12/15▼