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S6 レミングスの酒場

 村のギルド前へと戻った二人はそのまま緩やかな傾斜を降りて女神像の花畑に差し掛かっていた。


「右側ってここの事? 藁小屋が見えるけど。あそこってご飯食べれるのかなぁ」


 ククリの疑問に迷わず視線を花畑の左へと流すパピィ。


「さっき左って言ったじゃんか。もうクーちゃん何も聞いてないのか」

「いや間違いなくお前は右と言ったぞ」


 そんなククリの発言を気にも留めず、パピィは花畑の右に広がる森へと通じる小道へと歩んでいく。不安を覚えながらもその後に従うククリ。

 そして、森へと向うその小道の先にその酒場は存在した。

 木々に囲まれたオープンテラス、ちょうど地表から三メートル程の高さを、太い枝を組んで作られた木柵が覆っていた。木柵からは、つるで吊り下げられたランプが淡い光を漏らしていた。その元で、食事を取る無数の冒険者達の姿。

 二百五十六席を有する直径二十五メートル程の円状に広がったこの空間は、冒険者達の憩いの場であった。


「ほら、だから言ったじゃんか」

「ほんとにあったんだ」


 二人はそんな会話を交わしながら、空いているテーブルに着く二人。


「これってどうやって注文するのかなぁ。店員さんの姿見えないけど」

「テレパシー」

「言ってろ」


 パピィのふざけた返しにククリが立ち上がって店員を探しに行こうとしたその時だった。


「クーちゃん、これこれ」

「え、なに?」


 パピィが指で指し示すはテーブルに置かれたメニューだった。


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〆初心者様用 

 メニュー注文の仕方


1-パーソナルブックを開いて下さい

2-デスクトップアイコンからSHOP-MENU<メニュー>を選択します

3-表示された画面にてご希望のお食事に選択し購入(個数変更可:チェックボックス右)

4-各テーブルの中央に設置された台の上に、御食事が自動転送されます

5-ごゆっくりとお食事をお楽しみ下さい


※ご注意1-食後の食器類について-

食べ終えた後の食器は、中央の台の上にお戻し下さい。大変御手数ですが、何卒ご協力の程、よろしくお願い致します。


※ご注意2-レミングスについて-

当店内には清掃のため、レミングスが徘徊しております。くれぐれも彼等の仕事の邪魔をしないようよろしくお願い致します。


■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


 メニューを見て唸るククリ。


「ん〜と、なになに。う〜ん……漢字が多いなぁ」

「パーソナルブックから注文しろだってさ」


 パピィの言葉にククリは顔を上げると、PBを取り出す。

 するとデスクトップには見慣れないアイコンがポップアップしていた。


「SHOP-MENUだって。これかな」


 二人がクリックするとそこには酒場のメニューが大きく画面に広がった。


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〆レミングスの酒場

 メニュー


▽前菜

□×1 シザーサラダ 7 ELK

□×1 シーフードサラダ 8 ELK

□×1 トマトサラダ-フランの花弁添え- 10 ELK


▽スープ

□×1 コーンポタージュ 6 ELK

□×1 ミネストローネ 6 ELK

□×1 南瓜の冷製スープ 6 ELK


▽メイン


□×1 ムームーの香草焼き 12 ELK

□×1 シャメロットのチーズ蒸し 15 ELK

□×1 レミングスの酒場特製シチュー 30 ELK


▽デザート


□×1 蜂蜜ゼリー 5 ELK

□×1 アップルパイ 10 ELK


▽ドリンク


―ノンアルコール―


□×1 おいしいお水 無料

□×1 蜂蜜ジュース 3 ELK

□×1 アップルジュース 3 ELK

□×1 アップルティー 3 ELK

□×1 アイスカフェ 3 ELK

□×1 ホットカフェ 3 ELK


―アルコール―

□×1 ビール 5 ELK

□×1 蜂蜜サワー 5 ELK

□×1 アップルトリック 5 ELK

□×1 カルーアミルク 5 ELK

□×1 エルム特産地酒 10 ELK


 ●注文する

 ●設定クリア


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 メニューを前に顔を輝かせるククリ。


「うわぁ、たくさんあるね。どれにしようかな……迷っちゃうな」

「迷うほどない気がするんだが」


 パピィの突っ込みを無視してメニューを楽しげに見つめるククリ。

 だが、その笑顔がふと曇る。


「そう言えば、わたし達お金持ってないよ」


 そのククリの発言にぽかんとするパピィ。


「なんとかなるよ」

「ならないっつうの。その楽観思考はどこから来るのさ」


 パピィはPBでステータス画面を開き、ククリへと開いて見せる。


「なんか最初から100ELK持ってた」

「え、ほんと?」


 そうして自らもPBでステータス画面を開いたククリは安堵の声を漏らす。


「ほんとだ、わたしも持ってた。でもどうして?」

「一文無しじゃ可哀想だからと、システム側であらかじめお金をくれたのだと思う」


 パピィはそう言って納得行かない表情で呟いた。


「なるほど、そういう事かぁ。よかったぁ、安心した」


 そうして、再びメニューと格闘を始める二人。


「お酒もあるんだね。わたし達飲めないけど」

「何故?」


 パピィの質問に眉尻を下げて不思議そうな表情を返すククリ。


「え、だってわたし達未成年じゃない」

「堅い事言うなよなクーちゃん。酒に飲まれても溺れるなって良く言うじゃんか」

「言葉の意味わかって使ってるのかお前は」


 そして笑顔で再びPBに視線を戻したククリはメニューを決めて口を開く。


「それじゃわたしはコーンポタージュとアップルパイにしようかな。あとアップルティー。あんまりそこまでお腹空いてないし。パピィはもう決めたの?」

「うむ」


 二つ返事を返すパピィ。


「何頼むの?」

「蜂蜜ゼリーとアップルパイ」


 その内容に表情を歪めるククリ。


「何それ、デザートばかりじゃない」

「デザート=わたしの主食である」


 それを聞いてもはやつっこみを諦めたのか溜息をつくククリ。

 そうして二人はそれぞれ『購入する』ボタンをクリックする。すると、丸いテーブルの中央にふわっとやわらかな光が漂い、そこに注文した料理が現れた。


「うわっ、もう料理が出てきた」

「うむ、サービスは合格」


 そうして二人は現れた料理に手をつける前に、まずは飲み物で二人の出会いを乾杯し楽しい昼食を取り始める。


「そういえば、さっきから気になってたんだけど。あれって何なのかな?」


 ククリが視線で指したその生物。

 隣の席のプレーヤー達が立ち去った後の机を丁寧に拭き、掃除しているその生物。

 クリっとした大きな丸い瞳が特徴的な、体長一メートルにも満たない大きなリスとでも形容するべきか、その生物は丁寧に自分の仕事に打ち込んでいた。


「よくわからないが多分、この注意書き2の事だと思う」


 パピィの言葉を受けて改めてテーブルのメニューを見つめるククリ。


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※ご注意2-レミングスについて-

当店内には清掃のため、レミングスが徘徊しております。くれぐれも彼等の仕事の邪魔をしないようよろしくお願い致します。


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 メニューを置いたククリは再び視線をその不思議な生物へと向ける。


「レミングスっていうんだあの子。それでここレミングスの酒場って言うんだね」

「クーちゃん気づくの遅ぃよ」


 蜂蜜ゼリーを口に運ぶパピィを前にむすっと頬を膨らませるククリ。


「気づくの遅くて悪かったわね」

「へへー、クーちゃんのアホー」


 それを聞いて手に持っていたアップルパイを口元から放すククリ。


「アホって言う事ないでしょ」

「じゃ、クーちゃんのバカー」

「もう、あったまきた!」


 そんな他愛も無い会話を広げる二人。

 温かい食事に、気づけばあっという間に過ぎてゆく時間。

 記念すべきこの世界で初めての食事は心地よい仲間との出会いによって飾られていた。


▼次回更新予定日:12/9▼

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