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S4 木漏れ日の丘

 ギルドの外へと飛び出した少女二人は、そのままギルド脇の坂道を駆け上っていた。


「パピィ、ちょっと手離してよ。どこ行くの。ねぇ!」


 パピィの手をしっかりと掴まれたまま引きずられるように坂道を一気に駆け上がった二人。ククリが息を切らせてその場に座り込む前でパピィはじっと周囲の光景を見つめているようだった。


「もう……何よ。こんなところ連れてきてどうするつも……」


 そうしてふと顔を上げ辺りを見渡したククリはその光景に思わず言葉を失う。

 緑の坂道を抜けた先はそこには美しい光景が広がっていた。背高の広葉樹から漏れる木漏れ日が、まるで光のカーテンのように揺らめき、柔らかな草地を照らし上げていた。


「わぁ……綺麗」


 そうして見惚れるククリを前に木漏れ日の砂道から周囲に生え渡る芝地にずいずいと歩み出るパピィ。そしてパピィは暫く突き進んだ木の根元でうずくまると何やら両手を広げてそこに存在する何かを捕まえた。


「捕まえた!」

「捕まえたって何を?」


 当惑しながら近寄るククリの視界にはパピィの両腕の中でもがく小さな生物の姿があった。

 丸いモコモコとした毛並みを携えたその桃色の生物は、現実では見慣れない生き物だった。


「何その生き物……?」

「ちょっと待って……ん〜とね」


 そう言ってその桃色の生物を片手脇に抱えながらPBを開くパピィ。


「ふ〜ん、Raviラヴィっていうのかコイツ」

「ラヴィ? ねぇ、何で名前分かるの?」


 ククリの質問にパピィは顔を上げると自らが開いているPBを指差して見せる。

 それを見てパピィのPBを覗き込むククリ。


「へぇ、MapScanマップスキャンか。この本にそんな機能あったんだ」


 ククリのそんなリアクションにニヤリと微笑むパピィ。


「なんだよクーちゃんこの本の名前も知らないのかよぉ。この本はね、PBって言って通称ピーナッツバターの略称なんだよ」

「嘘をつけ。パーソナルブックでしょ。そのくらい知ってるよ」


 ククリのその答えにつまらなそうに再びPBに視線を戻すパピィ。


「わたしの名前は青く表示されてるけど、パピィは灰色で表示されてるね。このピンクの生き物は赤色か。これってどうやって分けてるのかな」

「う〜ん、多分灰色が自分で、青色が他の冒険者、赤色がモンスターかな」

「あ、なるほど。そういう事かぁ」


 パピィの説明に納得したように手を打つククリ。


「じゃあ、この子は赤色で表示されてるからモンスターなんだ。こんな可愛いのに」


 ククリがそう言ってパピィに抱きかかえられているモンスターに手を近づけると、ラヴィは可愛らしい鳴き声を上げながらその身をすり寄せ始める。

 それを見て急に立ち上がり抱きかかえていたラヴィを両手で吊り上げるパピィ。


「ちょっと何してるの! 可哀想でしょ、止めなよ!」


 ククリの言葉にパピィは吊り上げたラヴィをじっと見つめていた。


「プレーヤーに媚びて命乞いをするとは笑止千万! このパピィ様が月に変わってお仕置きだー!」

「何だよその台詞……いいから止めなってば」


 そう言ってククリは強引にパピィからラヴィを奪い取ると抱きかかえ地表へと放した。

 すっかり恐怖に怯えたラヴィは二人の前から一目散に逃げ近くの茂みへと姿を消して行く。


「何やってんだよクーちゃん……逃げちゃったじゃんか」

「あんな可愛いの狩れないでしょ」


 そうして、二人はぶつくさと不平を言いながら再び辺りの景色を見渡す。

 そこには変わりない美しい光景が二人を包んでいた。


「モンスターはきっと他にも居るよ。行こ」


 ククリの言葉に不満そうに頬を膨らましながらその後に従うパピィ。

 木漏れ日の丘で二人が初めて出会ったモンスター。

 それはなんとも可愛らしく不思議な生物が二人の記憶へと刻まれるのだった。

▼次回更新予定日:12/3▼

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