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S3 ククリとの出会い

 緑々しく美しい木々の合間から差し込む柔らかな陽光。

 その光に包まれながら眩しげに手を翳したパピィは村の奥を目指して歩き始める。

 洞窟前の村の入り口から視界にまず広がるのは花畑と藁小屋の風景。緩やかな傾斜の前に円状に広がったその花畑の中央には美しい女神を象った石像が置かれている。そんな花畑の前には幾人かの冒険者達がPBを広げていた。

 

「パーピパピ パーピパピ 怪しい石像発見」


 その光景を不思議に思ったのかパピィは彼らに近づいていくと声を掛ける。

 

「何してるの?」


 年端に満たないであろう少女に声を掛けられた冒険者達は、一瞬声を掛けたパピィの姿を追い求め、やがて視線を落とす。ふさふさとした綿装備に身を包んだその若い二十歳前後に見える女性はパピィの姿を確認すると笑顔で言葉を返す。


「可愛い。どうしたのお嬢ちゃん。一人?」


 優しい笑みを浮かべるその女性にパピィは真顔で口を開く。

 

「いや、質問してるのはこっちなのだが」


 少女の言葉に慌てふためき女性が笑顔を崩す頃、パピィはその瞳に変わった光景を映していた。

 PBを広げ女神像を見つめていたまた別の冒険者が何やら呪文のようなものを唱えた。

 

HomePoint(ホームポイント) On(オン)


 それは先ほど出会った通行人の男が言っていたボイスコマンドであるとパピィは認識していた。

 パピィの視線に気づき、当惑していた彼女がその疑問に対する答えを説明し始める。

 

「女神像の前ではね。HomePoint Onという言葉でここにセーブする事が出来るの。セーブするともしモンスターにやられてしまった時またここに戻って来れるの」

「ふむふむ」


 女性の言葉にパピィは頷くと自らもまたPBを広げる。

 

「HomePoint On」


 パピィは自らのバインダーが光るのを確認するとバインダーを閉じ女性に礼を言う。

 

「情報提供感謝」

「え? あ、うん。またね」


 当惑する女性冒険者を残し、そしてパピィは女神像の花畑を抜ける。そのまま花畑の向こう側に広がる緩やかな傾斜を帯びた砂道を登るとそこには大きな藁葺きの小屋が姿を現す。現実ではなかなか目にする事が出来ないその建築物を前に少女は鼻唄交じりに建物の中へと歩を進めて行く。

 建物の中へと入るとそこにはパピィが今まで見た事も無いような景色が広がっていた。天井に走り渡った木造の張り。そこには狩猟で獲られたと見られる動物達の毛皮が掛けられ、部屋の中央に存在する囲炉裏から立ち昇る煙によってそれらはなめされていた。


「まぁ雰囲気は合格かな」


 そんな事を呟きながらその空間へと足を踏み入れたパピィは囲炉裏の元から向けられる小さな視線に気づく。

 栗色のショートヘアに美しい青色を宿した瞳。少女はパピィと視線を合わせると囲炉裏の前ですっと腰を上げた。

 無言で視線を交わす二人の間に流れる静かな静寂。


「君も初心者講習受けに来たの? 今ギルドの人出払っちゃってるみたいなんだ。全くいい加減だよね」


 少女の言葉にパピィは無言でずいずいと歩み寄ると、彼女の正面へと立ち伏せる。


「ふむ、125.6cm。27Kg。胸無し。ぺチャパイ。初対面の印象はそこそこ」


 PBを開いたパピィは何やら素早い手捌きで情報を入力し始める。


「おいコラ。なにさいきなり。初対面で失礼でしょ。お前だってぺチャパイじゃないか」

「ふはは、何を抜かすかー。わたしの胸は馬鹿には見えないのだー!」


 パピィのいきなりの挨拶にはぁっと溜息を着く少女。


「裸の王様じゃないんだから、何言ってるんだよお前は」


 少女の言葉に目を潤ませ布服の袖を噛み始めるパピィ。


「ひどい、まだ八歳の少女に裸の王様呼ばわりするなんて。その発言はセクハラだ、人権侵害だ」

「ああ、わかったよ。もぅうるさいなぁ。わたしが悪かったよ。ごめんね。これでいいでしょ」


 それを聞いて少女に向かってずいっと顔を寄せるパピィ。


「感情がこもってないぞ。そんなんで立派な女優に成れると思ってるのか」

「目指してないっていうの、女優なんか。もう何なんだよお前は」


 その言葉にパピィは少女に向けた顔をにぃっと綻ばせる。


「わたしはパピィ。ククリの名前は?」

「え? わたしはククリだけどって……」


 名乗ったパピィにつられてそう答えた少女は驚いた表情を浮かべる。


「何でわたしの名前知ってるの。わたしまだ名乗ってないよ」

「ふはは、パピィ様を侮るな。で、名前はクーちゃん?」


 陽気なパピィの尋問に追い詰められて行く少女。


「だから、今ククリって自分でも言ってたじゃん? しかもクーちゃんって何さ」

「違うよ、本名だよ」


 怪訝な表情を浮かべて真っ向からそう言い切るパピィ。


「何で出会ったばかりでいきなり本名をわたしはお前に言わなければならないのか説明せよ」

「人の出会いに説明を求めるなんてクーちゃんまだまだ子供だな。だからぺチャパイなんだよ」


 パピィの発言にククリもまたその顔をパピィに向かって突き出す。


「ペチャパイペチャパイ言うな。人権侵害はどっちだ」

「クーちゃんそんな事より外行こうよ」


 話題を自由気儘に展開させるパピィの前に当惑するククリ。


「え? でもわたし初心者講習を受けに……」

「そんなのどうでもいいじゃんか。ほら、行こぉよ」


 そうして強引に手を引っ張るパピィ。


「わ、ちょっと。手引っ張らないでよ。初心者講習は、ねぇちょっと」


 そうしてギルドの外へと消えて行く二人の少女の姿。

 それがククリとの初めての出会い。異世界での小さな物語の始まりだった。

▼次回更新予定日:11/30▼

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