【番外】オープニング・別バージョン(習作)
太陽です。海です。白浜です。絵に描いたような夢の国です。
蒼空を照らす太陽の輝きは何よりも尊く美しく。透き通るような空の蒼下にはブルーベリィ色の大海原。その二つが溶け合う水平線に掛かった白い雲はまるで綿飴みたい。
でも何かが変です。色鮮やかな領空を引き裂くように、舞い降りる一筋の光がありました。
ブルーの背景に一際力強い白色を輝かせたその光は一直線に地表へ降り立つと、儚くも淡く最後の瞬きと共に消えたのです。
光の跡に残された窪み。そこには小さな憂いが在りました。
粉砂糖みたいな星砂の白浜に埋まった少女はありのままの世界を睨んでいました。
そう、少女は空から降ってきたのでした。
「う~、酔った。あ~、気持ち悪い。目がグルグルする。なんだよあの乗り物、わたしは客だぞ。お客だぞ!」
言いたいだけ叫び終えた少女は立ち上がり、砂塗れの身体を払います。パラパラと舞い落ちる星砂の輝きに見惚れるのも束の間、桃色のお団子髪を揺らしながら、華奢で小柄な体躯に纏った麻の茶布から丁寧に砂を払い落とすと、少女は改めて周囲の景色を眺め渡すのでした。
仮想世界アルカディア。
そこはバーチャル・リアリティと呼ばれる現代の科学技術の最先端を駆使して創られた虚空の世界です。でも、世界に存在するあらゆる物質は決してまやかしではありません。
想像できますか? 現実よりもリアルな世界が広がっているなんて。水も空気も、大地も草木も、そして何よりそこで生活する人々も。みんなみんな全てが本物なんです。
世界が熱狂した空前絶後のオンラインゲーム。
そして少女もまたその世界を求めてやってきた冒険者の一人でした。
プレイヤーネーム『パピィ』。それがこの世界での彼女の名前です。
「青い空に~白い雲~海は広いな~大きいな~! ふ~ん、ここがゲームの世界なのか。でもわたしは信じないぞ。うん、信じない」
陽気な歌声の後に続く真顔。無言で景色を眺めるパピィの表情は真剣です。
僅かに紅色に染まった瞳の先に広がるのは、包み込むように広がる悠久の大自然。
冒険者にとって目に映る景色は貴重な財産です。彼女にとってもまた、その光景は何にも変えがたい貴重な体験でした。ただ素直ではないだけなのです。
実際に景色を直接瞳に映して、五感の限りで世界を感じとる。それができる事がこのバーチャル・リアリティの最大の特徴です。
そして、その体験こそがこの世界を訪れる冒険者が求めているリアリティなのです。
ひとしきり目の前の光景を楽しんだ冒険者の方々の多くは、旅人の務めに出かける事になります。
パピィもまたその例外ではありませんでした。
「景色にも飽きたし、そろそろ行こぅか」
腰元に備えられた一本の銅製のナイフ。他に装着しているものと云えば、身にまとった麻布以外、他には見当たりません。
護身用のナイフを一瞥すると、さして興味も無さそうにパピィは歩みを始めます。その先に目的はあるのでしょうか。
どちらにしても、彼女は旅人としての本来の姿を取り戻しました。
それは一人の冒険者の新たな門出。
その後姿には実は小さな願いが秘められていました。それは胸に抱えられるだけの小さな小さな願いです。
だけど、人にはとても恥ずかしく言えません。言ったら笑われてしまいそうで。
それは誰にも語る事のできない、彼女だけの純粋な想いでした。
波に打たれるその白い砂浜にはしっかりとその小さな足跡が残されていました。
旅立ちの浜辺、それがこの白浜に付けられた冒険者達の通り名です。
■番外について
まず初めに全編改稿では無い事をお詫び致します。
現在語り口について勉強していますので、その練習で生まれた余剰作とご理解頂ければ幸いです。
三人称における物語についてもっと理解が深まれば、その時こそ本作パピィとククリの大冒険の全編改稿をさせて頂きたいと思います。
もっと基本に磨きを掛けたいところですね。課題は多いです。