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S16 クリケットの願い

 この世界へやって来てから楽しい時間はあっという間に過ぎていった。

 二人が出会ってから過ごした濃密な時間。

 レミングスの酒場での談笑、シャメロット狩り、宿屋での不思議な体験に、驚くべき成果を上げたクロットミット狩り、そして魔法との出会い。

 だが、二人にとって何よりも嬉しい事はそんな喜びを分かち合う仲間が出来た事。

 来る朝に毎日胸を焦がす。そこに待っているのは夢の世界。

 そして、この日この世界へ来てからついに七日目の朝を迎えようとしていた。


 ベッドから身を起こしたパピィは徐にPBを開き時刻を確認する。


「うむ、寝坊だ」


 飛び起きたパピィは怒涛の勢いで洗面所へ向うとダッシュで顔を洗い歯磨きをして宿屋の外へと飛び出す。

 宿屋の外ではムスッとした表情のククリがパピィを待ち構えていた。


「遅いよ、大遅刻だよ」


 そんなククリの様子に悪びれた様子もなく口を開くパピィ。


「いやごめんごめん、待たせたなハニー」

「誰がハニーだ、ほんとにその口塞いだろか」


 この日二人はある目的をもって朝集合したのだった。

 それは、この世界へ来てから二人が掲げた小さな目標。

 それをついに実行する時がやってきたのだった。


「ステータスの割り振りもうした?」


 ククリの言葉に首を縦に振るパピィ。

 そ昨日の夕方二人は念願のLv3へと到達していたのであった。

 Lv3へと到達した二人が目標と為していた事。そう、それは守護獣の討伐である。


「なんだかドキドキするな」


 そんな二人の足先はこの村で最も大きな藁小屋へと向いていた。

 パピィの事前情報によるとどうやら『聖獣の洗礼』のクエストは村のギルドで請け負えるとの事だった。

 花畑を越えた二人は緩やかな傾斜を上りながら、その視界にギルドを収める。

 ふとククリは初めてギルドを訪れた時の事を思い出していた。


「今日は誰か居るといいな」


 不安げに呟くククリ。初めてギルドに訪れた時そこには誰も居なかったのだ。

 だがそんなククリの不安は思わぬ形で迎え入れられる事になる。

 ギルドについた二人は、囲炉裏の煙が立ち昇る室内へと静かに歩みを進める。


「ごめんください」


 そうして入った二人はふとその足を止める。

 室内で二人へと注がれる視線。囲炉裏の傍でくつろぎお茶を啜っているその不可思議な生物の視線に二人は硬直していた。

 背丈の小さな、毛むくじゃらの生物。兔の耳に猫の髭、小さなつぶらな瞳を携えたその愛らしい生物は二人にじっとその視線を向けていた。

 ククリがその奇妙なプレッシャーに耐えられず口を開こうとしたその時だった。


「何デシか」


 その様子に驚いた表情を見せるパピィとククリ。


「おお、喋った」


 パピィは当惑するククリの前でずんずんと前に出るとその生き物の前で立ち止まる。


「わたしはパピィ様だ。たのもー!」


 名乗ったパピィをじっと見つめていたその不可思議な生物は自らもまた名乗りを上げる。


「クリケット、デシ」

「面白い、合格! そなたを家来にしてや……んん!」


 訳のわからない会話をするパピィの口を塞いで前に出るククリ。


「あの、クリケットさん……すみません。わたし達聖獣のクエストを受けにここへやってきたんですけど」

「ああ、クエストデシか。それならこっちデシ。案内するデシ」


 その言葉にほっと胸を撫で下ろすククリ。

 パピィはそんなクリケットの後を追いかけながら、その長い耳をつんつんとつついていた。

 歩きながらクリケットは静かに、クエストの説明を始める。二人はいつしかその説明に静かに耳を傾けていた。


 イルカ島、そう呼ばれるこの本来名も無き島には『試練の洞窟』と呼ばれる洞窟がある。エルムのギルド裏口から伸びる西の海岸線へと伸びる木道。その海岸線を北上した先に、その洞窟はぽっかりと口を開け冒険者達を待ち構えている。

 そこはこの島の神聖なる場所。普段は一般には開放せず、冒険者のある特別な儀式の際にのみ使用される。それがこの島から旅立つ冒険者へと向けられる『洗礼』の儀式なのである。

 そして、その洞窟にこそこの島を守る聖獣シムルーが静かに眠っているという。


「最近、聖獣様の様子がおかしいデシ。どうか様子を見てきて欲しいデシ」


 クリケットのお願いに静かに聞き入れる二人。


「なるほど、様子を見るついでにやっつけると」

「いや、やっぱりやっつけちゃいけないんじゃないかなこのクエスト」


 そんな二人の様子を見ながら、静かにクリケットは今ギルドの裏口の扉を開く。

 今、二人の目に飛び込んでくる柔らかな光。


「聖獣様の事、お願いするデシ」

「任せてクリケット。安心して待っててね」


 笑顔でそう言葉を掛けるククリに、クリケットもまた愛らしい笑みを浮かべる。


――それはこの世界での初めてのクエスト――


 そうして、今ギルドから洞窟へと向う二人の小さな冒険者。

 だが、その小さな背中にはたとえゲームの世界と言えどしっかりとその責務をこなそうという強い意志を背負っていた。

▼次回更新予定日:12/31▼ ※最終更新

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