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S14 旅人からのプレゼント

 クロットミット狩りを始めてから数日、パピィとククリは手慣れた立ち回りでクロットミットの群れを誘き寄せると、絶壁の窪みから攻撃を続けていた。

 二人のレベルが「2」に上がってからはこの世界のシステム上なのか、入手出来る経験値は半分へと下がった。だが、それでも一時間に入手出来る経験値は三十近くを誇る。

 パピィが割り出したこれが最も効率の良い方法という言葉通り、一日僅か数時間の狩りでこれだけの成果を上げる事は、事実この世界では極めて素晴らしい事であった。


「これで全部倒したかな。カード拾いに行こうよ」


 ククリの言葉に崖下の窪みでうずくまっていたパピィは外へとその姿を現す。


「う〜む、カード拾うのめんどい。クーちゃん拾ってきて」

「何でよ、わがまま言わないで一緒に来なよ」


 二人がそんな会話をしていたその時だった。

 ふと窪み前で賑やかに騒いでいる二人の前に現れる人影。

 その人影は二人の前までやってくると静かにお辞儀した。その様子に無言でペコリと頭を下げるククリ。


「ちょっといいかな」


 そう声を掛けられたそこには若い青年の姿が在った。

 そんな青年の言葉に間髪入れず口を開くパピィ。


「誘拐ですか? 三百円です」

「お前は……しかも安いわ!」とククリのつっこみ。


 そんな二人の様子に微笑を漏らす青年。青と白を基調とした羽織物に身を包んだその青年の姿に二人は見覚えがあった。


「あれ……もしかして船着場で会った人?」

「覚えててくれたのかい。元気そうだね」


 青年は笑顔でそう語り掛けるとPBを開いて二人のステータスを確認する。


「それにしてもこの短期間で、もうLv2か。驚いたな」

「お兄さん、用件を手短に述べよ」


 そう返したパピィの口をククリは素早く塞ぐと「すみません」と謝罪した。


「いや、たまたまここを通りかかったら面白い狩りをしてる子達が居たんでね。どんな子かなと思ったら君達だったんだよ」

「要するに野次馬か」


 再びそう言い切ったパピィの口を塞ぎ抑え込むククリ。


「すみません、ちょっと黙らせますので」


 青年は爽やかな笑みを二人に向けるとPBを開き二枚のカードを取り出した。

 そのカードを差し出されて当惑するククリ。


「素晴らしい狩りを見学させてもらったお礼だよ」


 それは美しい二種のロッドが描かれたカードだった。

 一枚は燃えるような赤色の鉱石が先端についたロッド。もう一枚は爽やかに透き通る青色の鉱石のロッド。

 そのカードを見つめてふと青年の顔を見上げるククリ。


「え、なんですかこれ?」

「魔法のロッド、このアイテムを装備すれば魔法が使えるようになるんだよ」


 青年の言葉にパピィとククリは顔を見合わせると顔を輝かせる。

 だが、ククリはすぐに表情を曇らせた。


「え……だけどそんな。もらえないです」

「遠慮する事ないんだよ。この世界では極自然な事なんだ。それにこのアイテムはどちらもこの島には存在しないアイテムだからね。きっと役立つと思うよ」


 そう言って青年はふと腰元から杖を取り出して空へ向って掲げる。


「見ててご覧」


 次の瞬間、青年は頭上目掛けてロッドを大きく振り抜いた。


「Fire Ball!」


 青年の掛け声と同時にロッドの先から発生した火球が勢い良く上空目掛けて飛んで行く。

 火球は空へ舞い上がる過程で、小さな火の粉となり消える瞬間まで、二人の少女は片時も目を離さなかった。


「どうだい、これでもいらないかい?」

「え? いや、あの……その。でも……」


 青年の押しに、悩み始めるククリ。

 そこには小さな少女の心の葛藤が表れていた。そんな少女の様子を微笑ましく見つめる青年。


「えっと……それじゃあ、すみません。お言葉に甘えて」


 遠慮していた心を鎮め、そっとカードに手を伸ばすククリ。

 そんな様子を見ていたパピィが突然声を上げる。


「ちょっと待ったー!」


 解き放たれるようにククリの腕から抜け出すとカードを奪って跳ね上がる。


「クーちゃんは騙されてもこのパピィ様は騙されないぞぉ! お前の目的は何だ、言ってみろー!」


 そのパピィの言葉に困ったような笑顔を見せる青年。


「いや、特に目的は無いんだ。強いて言うなら初心に戻って色々旅して色んなプレーヤーの立ち回りを見て研究しているんだよ」


 それを聞いたパピィはポカンとした表情を浮かべてカードと青年の顔を交互に見つめる。


「そうなのか、じゃそういう事なら」


 そう言ってカードをPBにしまおうとするパピィ。


「納得するの早いな。ってちょっとパピィ。わたしの分まで取らないでよ」


 そう言ってパピィに駆け寄るククリ。


「それじゃ二人とも頑張って、それじゃまたどこかで」


 そうして二人に背を向ける青年。


「ありがとうございました」

「じゃあね、親切だけど腹黒そうなお兄さん」


 突然向けられた旅人からの好意。

 そうして、残された二人はふとそれぞれ手にしたカードを持って微笑み合うのだった。

▼次回更新予定日:12/27▼

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