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S13 夜子羊

 その日の夜、レミングスの酒場で二人が夕食を取っていた時の事だった。

 ククリがシャメロットのチーズ蒸しを口に運び、パピィがアップルパイに齧りついていたその時、ふと隣に居た初心者ルーキーと思われる冒険者達がこんな会話をしていた。


「知ってるか、この島には夜になると羊みたいなモンスターが出るんだってさ」

「ああ、確かムームーとか言う奴だろ。なんか子羊みたいな可愛いモンスターだって聞いたけど。村の外の海岸線沿いに出るって話じゃないか」


 そんな冒険者達の会話をさりげなく盗み聞きしていた二人。

 ここで、ククリはふとある嫌な予感を思い描いていた。こんな話を聞いてあやつが黙っている筈がない。ククリのその嫌な予感は見事的中する事になる。


「クーちゃん。外行こう」

「絶対言うと思った。ムームー見に行こうって言うんでしょ」


 ククリの言葉に不服そうに首を振るパピィ。


「違うよゴンザレスの物真似しに行こうよ」

「何が悲しくてこんな夜にゴンザレスの物真似しに外へ? それにゴンザレスって……誰?」


 そのつっこみに満足したのかパピィはバタバタとさせていた足の動きを止める。


「なんだよゴンザレス知らないのか、クーちゃんは」

「そんなの知らないもん」


 アップルパイを一口頬張りながらククリに視線を投げるパピィ。


「じゃあゴンザレス教えるついでにムームー見に行こう」

「前置きが長いっつうの! だったら最初から素直にムームー見に行こうよでいいでしょ!」


 アップルパイをもぐもぐと噛みしめながらククリにおねだりするような視線を向けるパピィ。

 その視線を受けてククリははぁっと溜息をつく。


「しょうがない、言っても聞かないだろうし。それじゃ行こうか」

「よっ、さすがクーちゃん!」


 そうして、喜ぶパピィを前にククリもまた微笑を浮かべる。

 正直なところ、ククリもまたムームーとやらを見てみたかったのだ。


 レミングスの酒場を出るとそこはすっかり夕闇に染まっていた。

 酒場から暗い小道を抜けると、そこには女神像前の美しい花畑が淡い光を放っていた。


「わぁ、綺麗、見てよパピィ。お花が光ってるよ」

「花は煮ても焼いても食えないよ」

「お前はどこまで夢がないか」


 そうして、そんな美しい花畑を後ろに二人は村の外へと暗い洞窟を抜けるのだった。

 洞窟を抜けた先では、夜特有の湿った海風と満ち潮の波の音が二人を迎え入れる。


「昼間の海も綺麗だけど夜の海もまた格別だねぇ」


 月明かりを海面が反射し、そこには深い青味を浮かべた海の姿が映る。

 二人はそんな景色を見つめながら目的のモンスターを探し始める。


「ムームーってどこに居るのかな」

「おそらく海岸線に沿って歩いていけばいつか遭遇するかと」


 そうしてパピィの言葉に頷くと、ククリは暗い足元の砂利を確認しながらゆっくりと海岸線に沿って歩き始めるのだった。

 シャメロットがたむろす岩場とは逆方向へ歩くと、そこには島の西側に沿って海岸線が続いていた。だが島の全長から考えればそう距離は無い。

 二人は暗闇の中、暫く海岸線を歩くとふとその歩みを止めた。


「あそこに……何か」


 闇に浮かぶ小さな二つの光。それは丸い大きな瞳であった。月明かりに浮かぶその青白な綿毛に包まれたその体長一メートル程の生物は二人にじっとその視線を向けていた。


「見つけた。あれがムームー……」


 声を潜めてククリがそう呟いた傍らでパピィが短剣を引き抜く。


「ちょっと待った、何する気」

「いや、出会った記念に挨拶しようかと」


 ククリの制止に真顔でそう答えるパピィ。


「短剣で挨拶ってこんな夜にまさか戦闘する気? そんなのダメだよ、見に来ただけなんだから」

「クーちゃんはここまで来て冒険心が騒がないのか、それでも男かー!」

「女の子です」


 そして二人が一瞬騒いだその時、視界の中では気配を察知して逃げていくムームーの姿が映った。


「ほぅら、逃げちゃったじゃんかぁ」


 頬を膨らませて不服そうに声を漏らすパピィ。


「ラヴィと一緒であの子も狩るには可愛いもん。狩れないでしょ。ほら村戻るよ」

「ぶ〜、クーちゃんのアホー!」


 そうしてパピィに背を向けて村へと歩き出すククリ。


「はいはい、ほら先行っちゃうよ」


 そうして二人はエルムへと歩き出す。

 海岸線に現れた夜子羊ムームー。その生物もまたこの世界に生息する神秘であった。


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