S11 VS Clotmit<クロットミット>
入手したシャメロットの甲羅は一枚25ELKで売れた。二人が持っていたカードはそれぞれ四枚。つまり、計100ELKのお金を入手した事になる。
それから村で買い物を済ませた二人はまたエルムの村前の海岸へと姿を現していた。
潮風を目一杯浴びながら伸びをする二人。PBを開くパピィを見つめながらククリはふとした疑問をパピィに投げ掛ける。
「今日もカニ狩りするの?」
「いや、カニはもう飽きたのだよ」
飽きたと断言するパピィは空を見上げて、飛び交う鳥々を指差して見せた。
「今日はあれを狙ってみようと思う」
「あれって飛んでる鳥の事?」
そうして、ふとPB上で指を素早く弾くパピィ。
すると、彼女の腰元の短剣が淡い光の粒子に包まれ、それと代わるように背中に美しい撓りを見せた弓が現れた。
「なるほど、それで弓買えって言ってたの」
そうしてククリもまた装備を変更する。
装備を変更した二人は改めて頭上の鳥々を見つめる。真っ白な翼に黒の斑点を持ったその鳥々。
「あれ、なんていう鳥なんだろ?」
「Clotmitというらしい」
そしてパピィは言葉を付け足すように重要な情報を告げる。
「Lvは3から4」
「わたし達より全然強いじゃん。勝てるの?」
不安げなククリに首を縦にも横にも振らないパピィは、構えていた弓を頭上目掛けて引き絞る。それを見て慌てて構えるククリ。
「当たったらすぐ村前の崖の窪みまで撤収」
「え? え?」
当惑するククリを置いてしならせた弓から矢を解き放つパピィ。
パピィが放った矢は見事な軌道を描き、上空を旋廻していた一匹のクロットミットを捉える。
「ちなみに彼らはリンクする」
リンク、それは集団で行動するモンスターに対してある一匹のモンスターを攻撃した際に残りの全ての余集団が一斉にその攻撃者に対して攻撃態勢に入る習性の事を示す。
「そういう事は先に言えー!」
頭上で一斉に鳴き喚き始める鳥々、その数はざっと十匹。
一目散に海岸から崖に向かって逃げ始めるパピィとククリを追ってクロットミットの群れが滑空する。
「おお、大反響」
「叩くよ、ほんとに!」
そして、二人は命からがら崖下の窪みに身を隠すとそこから上空の様子を窺う。
そこは二人がシャメロット狩りの時に身を休めていた小さな窪みだった。
「どうするの、見てるよこっちの事。動けなくなっちゃったじゃん」
ククリの言葉にパピィは窪みからそっと顔を覗かせると弓をその隙間から引き絞った。
「ここから撃とぅ」
「え?」
そして、パピィは放った矢を上空で旋廻するクロットミットの群れの一匹に見事にヒットさせる。
「ほら、クーちゃんも早く」
「え?」
そしてパピィに引かれてククリもまた窪みの隙間から弓を構えて、上空の獲物に狙いを定める。
だが初めて持つ弓という武器を前に、狙いの定まらないククリ。加えて獲物は止まっているわけではない。素早い動きで上空を旋廻しているのだ。
引き絞った弓を外したククリは連続的に矢を放つも悉く獲物を外しあっという間に矢筒の矢を減らして行く。
「難しいなぁ」
ククリの背中に背負った矢筒に光の粒子が収縮しそこに矢が再び現れるまで十数秒。
銅の弓では計三本の弓が矢筒に収められており、矢を使用後二十秒後に一本ずつ再充填されていく。
そんなククリを差し置いて器用に、一発一発確実に獲物を捉えるパピィ。窪みに身を隠してから数分後には、一匹のクロットミットが上空からその身を落とした。
一匹の討伐に成功したのだ。
「何かコツあるのパピィ」
「うむ、止まってる的だと思えば楽」
パピィの言葉に一瞬その内容を飲み込んだククリだったがすぐにまた視線を振り返す。
「いや、止まってる的って無理だよそれ。だって動いてるんだもん」
「んもー、クーちゃんは我儘だなぁ。敵の動きを先読みするのだよ。もしくは完全に腕を固定してその位置に敵が来そうな時にだけ撃っても良し」
パピィの言葉に「分かった、やってみる」と頷くククリ。
だが、やはりパピィの言うようには早々上手くは行かない。飛ぶ鳥を落とすなどそう一朝一夕で出来る技術ではない。そこには紛れも無く洗練された技術が無ければ到底適う技ではないのだ。
だがそれから三十分後、頭上のクロットミットは一匹残らず落とされる事になる。卓越されたパピィの射撃技術。彼女自身弓を持った事は初めてだと語っていたがそれは実にククリにとって信じがたい話だった。その間ククリは全く役に立たなかったのかというとそういう訳でもない。彼女なりにクロットミットの行動習性を見抜き後半からは的確にダメージを重ねていた。
「ふぅ、終わったぁ……」
「何言ってんのクーちゃん、狩りはこれからだよ」
パピィの言葉に心底恐怖の表情を浮かべるククリ。
「お願いだからもうちょっと安全な狩りしようよ」
「村で情報収集したところこれがもっとも安全で効率の良い方法だった」
半ば信じられないといった表情でパピィを見つめるククリ。
だが、確かにクロットミットは絶えず旋廻しているわけではなく、時折一点で上下に滞空している瞬間がある。その時を狙えば矢を当てる事はそう難しくはない。
「クーちゃん、経験値を見よ」
「経験値? どれどれ……」
そうしてPBを開き経験値を確認するククリ。
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〆ククリ ステータス
レベル 1
経験値 ------------ 39/100
ヒットポイント ---- 100/100
スキルポイント ---- 10/10
物理攻撃力 -------- 10(+4)
物理防御力 -------- 10(+5)
魔法攻撃力 -------- 10
魔法防御力 -------- 10
敏捷力 ------------ 10
〆現在パーティに所属していません
〆装備
武器 -------- 銅の弓
頭 ---------- 無し
体 ---------- 旅人の服
脚 ---------- 旅人のズボン
足 ---------- 旅人の靴
アクセサリ --- 無し
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「うわ、こんなに経験値入ってたの!?」
驚きの声を上げるククリ。それも無理はない。昨日約半日をかけてシャメロット狩りをして入手できた経験値は十程だった。だが、今回のこのクロットミット狩りではたった三十分という短い時間の中で約三十もの経験値を入手した事になる。
「すごいね、この狩り」
「うむ、わかってくれたのなら次はクーちゃんが仕掛け役ね」
パピィの言葉に青褪めるククリ。
クロットミットのあの群れを攻撃する勇気を持ち得るのは今の彼女には至難。
それからパピィの強引な提案により、海岸には死に物狂いでクロットミットに矢を放つククリの姿があった。
▼次回更新予定日:12/24▼