S9 島と守護獣
夕方エルムの村へと戻ったパピィとククリは、疲れた身体を引きずり女神像前で座り込んでいた。結局夕方までシャメロットを狩り続けて得られた経験値は十程。入手したシャメロットの甲羅はそれぞれ四枚程だった。
「もうダメ、動けないよ」
「情けない事言うなよクーちゃん。夜はこれからだぞ!」
そう言ってパピィは勢い良く立ち上がると身体のバランスを崩してそのまま尻餅をついて見せた。
「ほら、自分だってフラフラじゃない。どっかで休もうよ」
「うむ、一理ある」
座り込み辺りを見渡していたククリはそこでふとある藁小屋に目を留めた。
花畑から少し離れた木立の傍に建つその藁小屋。
「あそこって……宿屋さんじゃない」
遠目ながら店の前に吊り下げられた看板には大きく「宿」という文字が見て取れた。
疲れ切った身体を起こし笑顔を見せるククリ。
「行ってみようよ」
「クーちゃん待つのだ、これは罠だ!」
もはや聞く耳持たず先へと進むククリは一瞬振り向き口を開く。
「罠でも何でもいいよ、もう休みたいもん」
そうして、二人は疲れた身体を引きずり目標の藁小屋へと歩み行くのだった。
村の入り口に近くにある二つ円錐形の屋根がラクダのコブのように突き出たその藁小屋が、二人の目標地点だった。
「やっぱり宿屋さんみたいだね」
藁小屋の入り口の前で立ち止まるククリは看板を確認して呟く。
そんなククリを他所に一人宿屋の中へと歩を進めるパピィ。
「ちょっと待ってってば。もう」
中へ入り二人の目にまず飛び込んできたものは木製の小さなカウンターだった。そのカウンターでは、白髪の老婆が優しい笑みを携えて佇んでいた。その優しい微笑みに迎えられ、安堵する二人。
「あの、すみません。今日泊まりたいんですけど部屋って空いてますか?」
「部屋かい?部屋ならいつでも空いとるよ」
ククリの言葉に優しい笑みを浮かべてそう答える老婆。
「いつでもってそんなにここ人気ないのお婆ちゃん」
老婆の発言を聞いてすかさずパピィが切り返す。
それを聞いてパピィの横腹を肘でつつくククリ。
「馬鹿、失礼でしょ」
「いいんじゃよ、お嬢ちゃん」
老婆に頭を下げるククリを横に不服そうな表情を見せるパピィ。
「お嬢ちゃん達、初心者じゃろう」
「え、あ。はい、そうです」
老婆は笑顔で頷くとこんな質問を投げ掛けてきた。
「初心者講習は受けたのかえ?」
「いえ、それが……わたし達受けてないんです」
ククリのその言葉にパピィが横から顔出し一言挟む。
「クーちゃんが受けるの面倒だっていうからさー」
「嘘つけ。お前が強引に連れ出したんだろうが」
しっかりと物腰で答えるククリに老婆は「そうかえ、そうかえ」と終始笑みを絶やさずに満足そうに頷くと、カウンターの下から宿帳を取り出した。
「宿泊料は10ELKじゃよ。もしそれで良ければここに名前を書いておくれ」
「あ、はい」
ククリはそうして宿帳に自らの名前を記入する。その後に続いてパピィも仕方ないといった面持ちで記帳した。
「あい、確かに」
二人の名前を確認した老婆は宿帳をしまいすっと奥の通路に手を向ける。
「さあ、ゆっくりくつろぐんじゃよ。部屋は一人につき一室。出入りは自由。チェックアウトは明日の午前十時が規定なんじゃ、悪いがそれだけ守っておくれ」
「はい、わかりました、ほらポカンとしてないで行くよパピィ」
カウンター前でポカンと立つパピィに声を掛けるククリ。
「何見てるの、ほら行くよ」
パピィはカウンターに置かれている小さな木像を見つめていた。
それを見ていた老婆がふと口を開く。
「島の守護獣様が気になるかえ?」
「守護獣様……?」
ふと聞き返す二人に老婆は静かに言葉を続ける。
「この島のどこかに存在すると言い伝えられている島の守り神様じゃよ」
「へぇ、つまるところこの島のボスか。で、どこに居るの?」
身も蓋もないパピィの返しに老婆は当惑した様子も見せずに笑顔で首を傾げる。
「さて、どこにおられるのやら」
「むぅ、隠すなよぉお婆ちゃん。逮捕するぞ」
ククリが騒ぎ始めるパピィの口に手を当ててもみ合い始めながら部屋を目指す二人。
「それじゃごゆっくり」
向けられる老婆の笑顔を背に二人は部屋へ辿り着くと、その日二人はすぐに深い眠りへと誘われるのだった。
▼次回更新予定日:12/18▼