プロローグ
「ふつうになりたかった」
「みんなと同じになりたかった」
「でも、なれなかった」
「気持ちを理解して欲しかった」
「……迷惑をかけたかったわけじゃないんです」
最後にそう言った彼女のことは、正直よくわからなかった。
笑顔か、暴れ狂ったように怒った顔しか今まで見たことがなかったから、無表情な彼女の心情なんて、まったく想像できなかった。
きっとなにか返事をするべきだったのだろう。
でも、私は返事をすることができなかった。
なにか言わなくちゃいけない。それはわかるのに。
結局なんにも言えなかった。
なんて声をかけるべきなんだろう、なんて悩んだのをよく覚えている。
彼女はそんな私のことなんて知らない、とでもいうように小さな声で、
「……ごめんなさい」
そうつぶやいたのだった。
……そしてそれっきり、彼女が私の前に現れることはなかった。
今でもふと思う。
もしもあのとき、行動を起こすことができたなら、なんて。
そんなありもしない「もしも」を考えてしまう。
そんなことをしたって意味なんてないのにね。
それに、私にはそんなことを考えていい権利なんてない。
どんな小説だって、マンガだって、行動を起こした人にスポットライトがあたる。
それは誰でも知っている当たり前の事実で、努力しなかった人間に舞台のスポットライトがあたることはない。
あの小さな舞台で、ひたすら傍観者を貫いた私に、スポットライトがあたることはない。
なにもしなかった私には、なんの権利もあるはずがないのだから。
でも、それでもまだ思ってしまう。
1年前のあのとき、私たちが少しでも歩み寄れば。もう少しだけいろんなことを考えることができたのなら。
今とは違う未来が、あったのかもね。