〜頭のおかしい任務〜
《人はAIには勝てない》
それはこの時代、この世界に住む者にとってはもはや常識である。
人が作るよりも素晴らしい音楽や小説、
天才が何年かけても解読できなかった理論や研究の解明
はたまた国家の法律に至るまで……
創歴2312年
今や人間にできることでコンピュータに出来ないことは何一つない。
人間はAIを作り出し
AIは更に優れたAIを作り、そのAIは更に優れたAIを……。
そうしてAIはAI自身を進化させ続け、その知性は爆発的なほどに伸びた。そう、神の領域まで。
かつて神を信仰していた人類はとうとう神を創造するところまで至ってしまった。
これは私が知っているこの世界の歴史
ここに手記を残そう
------------------------------------------セヴン
◆
あたしは軍人
ストラヨーク陸軍 特殊部隊《NARF》隊長
ニーナ・クレイ24歳。
趣味は戦争と書いてギャンブルです!
なんか呼び出しを食らいました。
あたしに任せたい任務があるってことだけど、
一体なんだろ?
目の前にいるちょび髭のオッさんは
ローズ・ウィム
あたしの上司です。ピリッとした空気に身構えます……。
「ニーナよ……お前、母親になる気は無いか?」
「ん?」
一瞬思考が停止した。
あたしの耳がバグったのかと思ったけど、どうやらそうではないらしい。
「お前にある子供を預けたい。任務内容はその子供をお前が養子とし、10年間育てあげる事だ」
「はぁあああああ!?なにその任務バカなの?無理ですごめんなさい他を探してください!」
即答だった。
こんな任務完全に頭がおかしい。
この場から離れよう!
立ち上がって扉へ向かって踵を返すとローズはため息混じりに口を開く。
「前金2000万E 達成報酬で5000万……なんなら有給を増やしてやってもいい」
あたしの足がピタリと止まり、あたしの脳内電卓が最高速で計算を始める 。
2000万E……前金だけで人生を半分遊んで暮らせちゃう額です!
「やります!!やらせてください!」
ビシっと敬礼をし、ハキハキとしたいい返事。
まるで軍人のお手本のようだ。
あたしはお金が大好きなのだ♩
「うむ、引き受けてくれるか。結構」
「はっ!具体的にはなにをやればいいでありますか?ローズ長官!」
私は犬です!主人に假づく従順な飼い犬。
「なにもせんでいい。普段通りに接して、あの子に心と感情を教えてやってほしい」
「……心と感情……?」
「うむ。まぁ……なんというか……
あの子は病を患っていてな、少々特殊な体質を持っておる。お前も一緒に暮らせば分かると思うが…ーー」
「了解っす任せてくださいよ~!」
あたしは話を遮って軽々しい口調でローズに答える。
ローズが 本当に大丈夫か?と不安げな表情であたしを見てくるがあたしは平気だ!
多分なんとかなる!
そんなことよりあたしは貰える報酬に心を弾ませていた。
◇
次の日
あたしはローズに連れられて迎賓館に来ていた。
件の子供とのはじめての面会だ。
あたしは今日から その子供の養母になるらしい。
「ここで待っておれ、今あの子を連れてくる」
あたしを迎賓館の一室に連れてきたローズはそう言うと部屋から出た。
紙パックにストローぶっ刺したりんごジュースのやつをチューチュー飲む。
美味い!
迎賓館、本来であればそこは各国の首脳が集まって会議をしたり、国家規模のプロジェクトを話し合う場所だ。
そんな場所に呼び出されるくらいだ。
今から会うあたしの養子となるその子供はきっと、
国家規模に相当する何かなんだと思う。
ストラヨーク合衆国にとって極めて重要なナニか……。
じゃなきゃあんな破格の報酬は出ない。
あ、前金の2000万Eは昨日あのあとすぐもらったよ!
その足でそのままカジノで朝まで遊びました〜♩すごく眠い……でも楽しかった〜
負けたけど。
そうして待っているとローズが戻ってきた。
ローズの足元には手を引かれてやってくる幼い少年
白い髪の毛とピンク色のほっぺが印象的な可愛らしい男の子だ。
「今日からニーナ、お前の子になる
名前はベルだ。これより10年間この子を育てることをお前に命令する。任務だ」
そう言い放つローズ。
あたしはベルという少年に視線を移す
「………………。」
ベルは ぼーーっとした表情で無言であたしをジーーっと見つめてくる。
「や、やあベルくん!きょ、今日からきみのお母さんだよ?よ、ヨロシク〜!」
声が上ずってるなぁ、、
慣れないことはするべきじゃない。
「………………。」
ベルは相変わらず無表情で無言。
いかんいかん、
落ち着こうかあたし。
「っ……ベ、ベルくんはいま何才かなぁ?」
「………………。」
いやオイぃいいいい!なんか言って!反応してよ!!一人で喋ってるみたいで悲しいじゃんか!!
「あぁ……いや、
昨日も言ったと思うけどこの子は病気で精神的に欠陥がある。
言葉は一応話せるんだが……」
あそっか、そんなこと言ってたな確か。
心と感情がなんとか……。
大丈夫なのこれ?
「必要手続きは全てこっちで済ませておいた。これが戸籍書だ」
そう言って渡された紙に目を通す
えーとなになに〜、、?
氏名 ベル・クレイ
本籍、所在地……あ〜、うん。あたしと同じね、
あたしがニーナ・クレイ その子供になるからベル・クレイ まぁこの辺はいいかぁ……
ん?
ふと疑問に思う。
これおかしい………。
空欄になっている……。
出生生年月日を含めたこの子に関する名前以外の全ての欄が……。
こんなことって有り得るの?
まぁ有り得るのか、孤児や捨て子ならそう言うこともある それなら納得もできる。
でもそんな子供をローズがこんな場所に連れてくるか!?
この男の子は一体、、?
「ローズ長官…これって……」
「形式上の処理だ。必要なら後で付け足す。
すまんのぉ 名前以外詳しいことはワシにもわからん。今回の件も上からの指示だ。
あぁ ただその子の年齢は4才だと聞いておる」
4才……。
「………。……。…」
ベルはなにかをじーっと観察するかのような視線でローズとあたしを見つめる
無表情だ
可愛らしい顔に相まって
その無機質な瞳がただただ不気味だった
「しかし 長官!この子は、、」
そう言うと言葉の途中でローズに遮られた。
「この子の出生に関する質問は受け付けん!知ってても喋らん!だから聞くな!命令だ」
有無を言わさない真剣な剣幕。
その表情が 、
ベルと言う小さな子の背後にうごめく巨大ななにかの存在を示唆しているかのようだった。
そんなローズと幼い少年を前に、
この任務を受けたことに……
重大な選択を誤ったのかもしれないと思った。
「まぁ そう気負うなニーナ!お前は何も気にせず普段通りにこの子に接してくれ
なぁに 時期が来たら回収しに来る。それまでの辛抱だ」
「回収」その言葉に引っかかりを感じつつ、
その日あたしはローズと別れ 、
ベルと一緒に帰路につきました。