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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

本を読む二人

作者: 衣花みきや

突然超展開の作品が書きたくなった作者の戯れの作品です。

本来はこんな無鉄砲な作品は書きません。

 昼休みを知らせるチャイムが鳴る。

 僕は授業が終わったのを確認して、席を立った。向かう先は、図書室。

 誰かと待ち合わせをしているわけでもなく、目的がある訳でもない。ただ、いつも昼休みになるとそこに行くのが、僕の平日の日課になっていた。

 建て付けの悪い横開きの扉を何とか開き、振り返ると入ろうとする人がもう一人いたので、閉めずに新刊が並べてある机へと向かう。

 毎日来ているから、大体一か月のどのくらいの時期に新刊が入るのかはわかる。今週中のどこかだと思っていたのだが、金曜日の今日もまだ入ってきていないようだ。ということは、新刊を読めるのは来週以降ということになる。少し意気消沈しながらその机を離れ、小説の棚へと向かった。

 僕が本を読み始めたのは去年、この学校に入学してすぐの四月だった。あまり熱心に勉強をするわけではないから、一日に二冊ぐらいのペースで本を読んでいて、それはいまでも続いている。

 だから、大体この棚にある小説の半分くらいは読んでしまったと思う。図書委員以上にこの棚にある本の配置は知っていると自負もしている。

 本棚から太宰治の本を一冊抜きとり、いつも座っている椅子を引いて座る。

 昼食を食べる気にもなれず、いつもこうして本を読んでいるので、持ってきた弁当は帰りの電車のプラットホームで食べることが多い。

「ねぇ」

 突然声を掛けられ、僕は声がした方を見た。

 そこには、一つ年下の(上履きの色で後輩だと判断した)女子生徒がいた。髪は黒いショートカットで、目は大きめ、瞳は少しだけ茶色が混じっている。鼻は高くもなく低くもなく、目つきは鋭い。彼女の容姿の特徴を一つだけ、出るところは出ていないと言っておく。

 彼女の声音には少し僕を責めるような色がこもっていたので、こちらは首を傾げて何だろうと思う。僕が何かしただろうか、と思って、彼女が僕の隣の席にいることに気が付く。それと彼女の不機嫌そうな表情を見て、僕は考えた。

 もしかして、僕が彼女に気付かずに彼女の隣に来てしまったことを怒っているのだろうか。

 そう思って本をを閉じて立ち上がろうとすると、彼女は慌てた様子でこちらに手を伸ばし、引き止めてきた。

「隣、いい?」

 口調も先輩に対するものではないし、表情もなかなか近付き難いが、僕が動かなくていいのなら特に文句を言うつもりなどない。特等席だとかここじゃなきゃだめだと言うわけではないが、そこそこ気に入っている席なのでやはり気分が落ち着くのだ。

「別にいいけど」

 そう言って座り直し、本に目を落とそうとして、気付く。指を読んでいたページに挟んでおくのを忘れていたから、どこまで読んだかをもう一度探さなければいけない。

 すぐにページを見つけ、読書を再開する。ちらりと隣に視線を向けると、彼女は先程と同じような不機嫌そうな表情で、しかし少し微笑みながら本を読んでいた。それを見て彼女は本が好きなんだなぁと確信した。

 目を本へと落とし、黙々と本を読み進める。

 なぜか学校中が騒がしい気がするが、気のせいだろうか。

 そう思っていると、どこかで大きな音が鳴った気がした。少し揺れている気もする。地震だろうか。隣の名も知らない彼女が動いている気配もないことだし、まあ大丈夫だろう。

 冷房の故障だろうか、少し熱い気がする。仕方がない。このページを読み終わったら、動くとしようかな――


 ◇◆◇◆◇


「ここは、ガッコウかな?」

「たぶん、ね。この時代は、本当にいい教育制度があったそうだよ」

 黒いフードをかぶった男が、自分の腰ほどしかない灰色のフードをかぶった少女に言う。

 少女の顔はフードに隠れて見えない。男の方も然りである。

「みんな、突然現れたインセキが落ちてきて死んじゃったんだね」

「うん。助からないとわかっていても、逃げようとした人がほとんどだったみたいだね」

 彼らの前には、急いで逃げ出そうとしていたと思われるたくさんの人骨が転がっていた。

 彼らはその骨の上を進む。そして、建物の二階部分の少し広い場所に出た。

「あれ、この人たちはなんだか逃げようとした感じがないね」

「そうだね。この二人の骨だけ不自然に他のと離れてる」

「無理だと悟って最期のヒトトキを共に過ごそうとした恋人たち、とか?」

「それだったら抱き合ってるなり、もう少し折り重なるようになってるでしょ。何かの作業に熱中していたのかもね」

 それを聞いた灰色のフードをかぶった少女が、その小さな腕を組んで首を傾げる。

 その様子を見た黒いフードをかぶった男は、冗談めかして言った。

「もしかしたら、本を読んでいたのかもしれないよ。いまの僕たちが知らないような、とっても面白いお話を」

 灰色のフードをかぶった少女は一層首を傾げて、興味深そうな声を上げた。

「もしそうだとしたら、この二人が読んでたのは一体、どんなオハナシだったんだろうね」

お読み頂きありがとうございます。

ちゃんと真面目に書いている時もありますんで、他の小説も読んでいただければ嬉しいです。

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