01 白鎖の乙女
初投稿一発目です。
前置きでグダグダいうのもアレなので、一言で。
「どうぞお楽しみください!」
「……」
何が起こっているのかわからなかった。
いや、正確には一度に起こった不可解ことが多すぎた、というべきだろか。
思考がついていかない。ただ、目の前の光景を見つめていた。
月光に輝くは、地より出でし白き鎖と銀の華。
空を舞う二つの華奢な、しかし美しい身体。
流水のごとくさらりと流れる白い髪は油絵のよう。
闇に浮かぶ真白い肌は浮世絵のよう。
ただただ息を呑むしかなかった。
片方の身体へとまっすぐ向かった白い鎖 ー鎖の先端に鋭い刃物がついていたー は、銀の華によってその進路を遮られる。
鎖はそこで止まり、逆再生の如く出でた場所へと戻っていった。
そして、黒い瞳の少女ー否、少女の形をした「何か」が、長く白い髪を天女の羽衣の如く風になびかせ、笑みとともに口を開く。
「ー久し振りね、"ギンカ"。」
それに答えるは、天界より降りたった天使のごとく地面に着地した、赤い瞳の「何か」。
「相変わらずですわね。"ハクレンお姉様"」
一瞬の沈黙。
ふと、その沈黙は同時に永遠でもあるような不思議な感じがした。-が、この世界に永遠というものがあるわけもなく。
月に雲がかかった。
「はあッ!」
静が動となる。
再び地より出たあの鎖が、"ギンカ"なるものめがけて一直線に駆ける。
それに対して"ギンカ"は焦った様子もなく冷静に後ろに跳び、先ほども見た銀の華を出す(咲かせた、と言いたいところではあるのだが、まるで防護壁か盾かのように出た様は出した、といった方が相応しいものだった)。
無論、鎖が本来目指していた場所に獲物はすでにいない。あるのは銀の華の方だ。
しかし、鎖は華へとぶつからず、宙でジェットコースターの如く一回転した。今度は、その鎖が地面へと向かう。
あの鎖は途中で方向を変えられるのかーそう考えていると、鎖は勢いよく地面に突き刺さった。
コンマ一秒。鎖がまるで布を縫う針のような動きで勢いよく獲物のほうへと突き出す。
「...うざったい、ですわね。その鎖はいついつも。」
赤い瞳が鋭く、冷たく光る。
「失礼ねぇ...仮にも姉の"チカラ"に向かって!」
白い髪が揺れる。
先刻同様、花が出でて、鎖が追う。虚空を切り裂いた鎖は地を縫うように進む。
いわゆる鼬ごっこだ。
しかし、その「ごっこ」遊びはそのすべてが俺の理解の範疇を超えていた。
今ここは俺の知る「世界」とは違う「世界」だ。俺がいてはいけない場所だ。そんな意識が真っ白な思考にこだまする。
しかし、動けない。動けないのだ。
ありきたりな言い方をすればーそう、「蛇ににらまれた蛙」の状態だ。
そのまま、何も考えられず。ただ目の前の光景が網膜より意識の浅い部分に入り込むばかりだ。
そして、その浅い意識下で恐れていたことが起こった。
「...!」
「…え」
気づいたのだ。あの「二人」が。俺に。
危機的状況。しかし脳を巡る生存本能とは裏腹に、体は動けず死を待つかのようだった。
「一般人!?なんでー」
黒い瞳が驚きでだろうか、見開かれる。
ーが、その言葉を遮るかの如く俺に近づくのは赤い瞳。
「見ていた...事に間違いはないようね。」
冷たい目。見ているだけで背筋がぞっとする。
「ふぅん...抵抗する気はないのね。」
美しい、しかしながら冷たい声。思わず俺は首をゆっくり縦に振ってしまった。
「......」
沈黙。まるで虫けらでも見るかのような目線が俺に刺さる。
...と。そのとき、気づいた。
腕組している彼女の肘。違和感を感じる。それも、さっきから感じていたような。
何故だろうかー疑問が浮かんだのと同時に、月を覆う雲が動いた。
そして、見えた。
その肘。まるでフィギュアや人形のようなーいわゆる「球体関節」だったのだ。
違和感とはまさにそれだったのだ。
その事実が思考に反響。浮かんだのは、謎から生まれた不可解へのさらなる恐怖だった。
沈黙をやぶって、再び目の前の人形が口を開いた。
「本当に抵抗する気もないのねー」
と、さらに人形が近づく。
「彼女」の香りなのだろうか、ふと甘い匂いが鼻孔をくすぐる。
その匂いはまるで、虫を引き寄せ食らう食虫植物の甘い蜜のようだった。
「ーつまらない。泣き叫びもしないんなら遊ぶ価値もないわ。」
息が苦しくなる。
もうだめだ、という意識が体を脱力させる。
目の前に映るのは、先ほどの華の花弁をちぎる人形。
どうやらその花弁は刃物のごとく物を切ることもできるようだ。
そして、恐れていた言葉が耳に響いた。
「死ね」
「!?」
突然、赤い目の人形が身をひるがえす。
そこに飛んできたのはあの鎖だった。
目の前の地面に突き刺さる切っ先。
「やめなさい、"ギンカ"!あなたまで"彼女"のように無為な殺しをするつもり!?」
先ほどまでよりまして、鬼気迫る表情で迫る、黒い瞳の(おそらくは)人形。
「口封じとか、もっとましな考えはないの!?」
口封じでも、十分恐ろしいのだが。そう考える暇も与えず
「甘い!その甘い考え方も前にあったときと同じーいや、もっと甘くなっている!」
先ほどまでの言葉づかいから一変、荒い口調になる赤い目の人形。
が、しかし。予想してたいたのとは違い、攻撃を行わない。
そのまま、近くにあった木の上に飛び乗り、叫んだ。
「興ざめしましたわ...また会いましょう、"お姉さま"?」
「なっ!?」
黒い瞳の人形が追いかけようとする。
しかし、赤い瞳の人形は、ものすごい速度で家の屋根を伝ってかけていった。すぐに見えなくなった。
「…っ!」
再び、あたりが静かになる。
「たすかったのかなぁ...]
なんてため息交じりの言葉を吐きながら、実質俺はまだ思考が真っ白なままだった。
事態の展開が早すぎて処理しきれないと、思考回路が頭を重くさせて訴える。
と。助けてくれたと思わしき人形が近くに寄ってくる。
状況のせいなのだろうか。さきほど赤い瞳の人形に近づかれた時とはちがって、その瞳は少し安らぎを感じるというか、人間味のある瞳に感じた。…人形だけれど。
彼女(恐らく彼女と呼ぶべきなのだろう)はしばらく俺を見つめてから、つっけんどんに言った。
「...あんた、名前は?」
「へ?」
唐突な質問に戸惑う。
「だから、名前。助けてあげたんだから名前くらい言いなさいよ。私はまだあんたに名乗るともあんたに味方するとも一言も言ってないわ。
それとも、助けなかったほうがよかったかしら?」
そうか、そうだよな。
俺は助けてもらったんだし、それに向こうはこちらを信用できない限りは名乗ったりもしない。
となると、向こうが俺の存在を把握するため、「クチフウジ」のため、俺に名乗らせるのは当たり前だろう。
というわけで、今までの事からいったん思考を開放し、深呼吸をしてから名乗った。
「俺はー。俺は、須能 玲二。」
どうでしたでしょうか?
まだまだ拙い文章ですが、楽しんでいただけたのならば本当に嬉しいです。