幼馴染のいない日常
それから何日か俺は自室に引きこもった。
あの日のことを後悔して、何度もあの時に、あの瞬間に戻りたいと願った。
けど、世界というやつは残酷で俺を過去に戻してくれたりはしない。
今でも風花の顔を思い出すだけで涙が出てくる。
ちなみに風花の葬式はまだ行われていない。
どうやら風花の両親が「風花はきっと誰よりも大地君に会いたいはずだから」と無理をして葬式を伸ばしてくれているらしい。
でも、俺はやっぱり風花の死を認められないでいる。
葬式をやってしまうと本当に風花が死んでしまったみたいで、それを認めてしまったみたいだから俺は意地でも葬式に出る気はなかった。
「風花」
名前を呼んでも返事はない。
当たり前のことだがそれがたまらなく辛かった。
俺はベットで横になると、自分でも気づかないうちに深い眠りへと落ちた。
目を覚ますとそこはこの前と同じ真っ暗な空間だった。
実をいうと、あれから寝るたびに毎回この夢を見る。
真っ暗な空間に俺一人だけが放りだされ、どこが目的地なのか、何が目的なのかもわからず、ただ小さな光と俺の名前を呼ぶ声の方へ向かって歩いて最後は光に包まれ目が覚める。
毎回この繰り返しだ。
もう何回もこの夢を経験しているのでもう自分のやるべきことはわかってる。
「またあの光に向かって歩くか」
俺は自分が声を出しているのか、それともただ頭でそう思っているだけなのかはわからないが、とりあえずそう考えて光に向かって歩き出す。
(大地)
また俺を呼ぶ声がする。
最初は不気味に思えたが今はもう慣れてきてなんとも思わない。
いや……少し懐かしい感じがする。
俺はこの懐かしさがわからないまま光に向かって歩き続ける。
しばらくすると光のすぐ近くまで来て俺は光に包まれた。
目が覚めるとそこは見慣れた俺の部屋。
少し汗ばんだ身体が気持ち悪い、俺は風呂に入ることにした。
適当に着替えを一式用意して、風呂場へと向かう。
風呂場へ向かうのに居間を通ると母親の話し声が聞こえた。
誰かお客でも来ているのだろう。
「空乃大地君のことですが……」
「んっ?」
俺の名前が出てきたので何の話なのか気になった俺はその場で止まり、ばれないように聞き耳を立てる。
「まだ学校は無理そうですか?」
よく聞くと相手の声は俺のクラスの担任の声だった。
おそらくここ数日休んでいる俺のことを聞きに来たのだろう。
正直心身ともに健康で行く気になれば学校には行けるのだ。
ただ風花のことを思うとどうしても行く気が出ない。
こんなことただの言い訳だと分かってはいるが、行きたくないものは行きたくないのだ。
「なるべく早めに行かせたいとは思っているのですが」
母さんが無難な受け答えをした。
俺はその時点で聞き耳を立てるのを止め、風呂場へと足を向けた。
着ていた服を一式脱いで、籠の中に放り込み、シャワーを頭から浴びる。
さっきまでかいていた汗があっという間に流れて少し気分がよくなった。
それから十五分ほど風呂に浸かってから風呂を上がり、自分の部屋へと戻ろうとする。
居間からはもう話し声は聞こえない。
おそらく担任が帰ったのだろう。
俺は自分の部屋に戻ると何をするでもなく無駄な時間を過ごした。
次の日俺は強引に家を追い出され、学校に行かされた。
父さんに抑え込まれ母親に強引に服を着替えさせられたかと思ったら、鞄と一緒に外に追い出され家への入口すべてのカギを閉められた。
ひどいとは思ったが母さんたちも心配してのことだろうから怒るに怒れない。
俺は仕方なしに学校に向かうことにした。
学校について教室に入ると、みんながみんな俺の方を見て困ったような顔をした。
みんな風花のことを知っていて、俺と風花の仲も知っているから気安く声をかけられないんだろう。
まあでも下手な同情をされるよりはよっぽどいい。
下手な同情をされると逆にイライラするだろうからみんなそのくらいの反応でいてほしい。
「よう、大地。来んのおせーんだよ。サボりか? おい」
みんながなんて声をかければいいのかわからなくて困っているのに海斗だけはいつもと変わらないように俺のところへやってきた。
海斗は小学校の頃からずっと同じ学校で同じクラスという嫌な運命すら感じさせる俺の親友だ。
「聞いてんのかよ。だ・い・ち」
海斗が俺の背中を強くたたいた。
「いってなー」
「それでこそいつもの大地よ」
海斗が腕を組みながら爺くさい声でそんなことを言った。
こいつとは長い付き合いだから俺が本気で嫌がることはわかってるはずだ。
変な同情はしないだろう。
俺と海斗がいつもと変わらないつまらない会話をしていると周りのみんなが俺の周りに集まってきた。
海斗が俺と普通に話しているから大丈夫だと思ったのだろう。
でも、そこからの質問攻めは正直嫌だった。
「大丈夫?」、「元気出してね」などの励ましがたくさんだったが正直何度も言われると風花のことを思い出して少し嫌な気分になる。
みんなに悪気がないのはわかっているので文句は言わないが結構精神的に辛かった。
「みんな何してる。ホームルームの時間だぞ」
俺の周りに居たみんながおとなしくだらだらと席に戻っていく。
俺は小さくため息をついて頬杖をつく。
「おっ! 空乃来てくれたか先生嬉しいぞ」
俺の顔を見た先生が嬉しそうに俺に声をかけてくる。
俺からしたらガッツリとした体系の男の先生からそんなことを言われたところで全然嬉しくない。
むしろ不快ですらある。
「……そうですか」
俺は適当に返事をすると先生は「今日は少し張りきっちゃうぞー」とか言っていたが、俺は無視して隣の風花の席を見る。
そこには風花の写真と花の活けてある花瓶が置かれていた。
クラスのみんながやってくれたのだろう。
俺はホームルームが終わると、風花の席の花瓶を持って水道に向かった。
水道で花瓶の水を替え風花の席に戻し、海斗と取り留めもない会話をして一時限目を迎えた。
俺は普段真面目に授業を受ける方ではないがノートはちゃんと取るタイプだ、でも今日は全然授業に集中できず、気が付けば風花の席を見ていた。
「……風花」
みんなに聞こえないように風花の名前を呼ぶ。
もう一度風花に会いたい。
もう一度風花と話したい。
そんなことを考えているうちに俺はある方法を思いついた。
死んだ人に会いたいなら自分も死ねばいいんじゃないか?