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名も無き怪物は英雄の夢を観る  作者: 黒ネコウサギ
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第一章 『怪物は機械仕掛けの夢を見る』 ニ話




「助……け……て……。」


少女は目も当てられない程の傷を負っていた。服装は白いワンピースのみだが、既にボロボロとなっており、そこから傷が見える。

その傷は白い肌――アルビノだろうか。真っ白な画用紙に赤い絵の具を塗りたくったようであり、腹からは幾つも機能を失ってしまったであろう内臓が見え隠れし、左腕は関節がぐにゃぐにゃに捻じ曲がり、片足の肉は飛び散り骨が見え赤く削れている。


「助け――あっ……。」


俺は少女の奇怪な右腕を掴み玄関から引っ張り、部屋に引き招く。怖かったが助けてと言う傷だらけの少女を放置出来る程に残酷でも無い。

いや、この時はそんな事すら考える事は出来ていなかっただろう。ただ、目に見える弱者を守らねばならないという人間の無意識の善意が働いただけであった。


ドアを閉め、彼女を居間に連れ横にさせる。それでどうしたらいい?自分は軽い怪我なら救急箱で何とか出来る。

いや――何を混乱してるんだ、俺は。救急車を呼べばいいじゃないか。そう思い受話器の元に向かおうとした時――


グチャリ――と。鉄が捻じ曲げられるかの様な不協和音を発しながらその少女の身体の傷の部分に異型の右腕が触手となり、突き刺さる。

そして、不協和音は増して行く毎に身体は修復をされていく。まるで『少女そのものが機械であるかの様に。』


「う……あ……あ…」


目の前が歪んでいく。非現実に耐え切れず、脳が情報をシャットダウンをしようとする。だが俺は認識し認めてしまっていた。

『勝手にこの少女の身体は右腕の異型により、治った。』認める認めないでは無く見てしまい、耳でも感じてしまったが故に

脳はこれを妄想だとか幻覚、幻聴と誤認識をする事は既に不可能。諦めろ、これは現実だと言い聞かせられる。

呼吸が整わない。息が苦しい。脳に血が上手く巡らない。目の前のゆらゆらとしたモヤは落ち着かず、心臓の鼓動は刹那となる。


「ありがとう……。」


「え……?」


「あなた…の…おかげで…傷が治す隙…が…出来た」


「何……言って……?」


「怪我……。彼奴等を殺そうとしたら……襲われ……た……」


何の話だ……?何を言っている、この女は。厨二病って奴か?――――そうだと言ってくれ。この光景は余りにも――


「もう……駄目だった…から……。でも……直感で……此処に…来たら……良いって……」


――リアリティが無さ過ぎる。確かにこの世界には天使や悪魔や妖怪などは居るだろう。だが、『これは異常だ。』


「……あ、あの……」


「……何?」


「えっと……」 冷や汗が止まらず、言葉に詰まる。何と言ったら良い?出てけと言えばいいのか…此処に居てもいいよと言うのか…。


そうして、少し悩んでいたら――開けっ放しの窓から突如として先程とは違う、不協和音が聞こえてくる。

この音は――――そう――――銃火器の音だった。まるで何かを装填する――。窓を見たら人が居た。だが、普通の人間ではない。

それは宙に浮いており、また、腕にはガトリング砲を付け、目は赤く染まり体中が筋肉が膨張した男であった。

男はそのガトリング砲をこちらに向け、銃身を回転させる。こちらに撃とうとしているのは素人目から見ても明らかである。

同時に倒れていた少女は人の目には見えぬ様な速度で何も無い筈の窓から俺を庇うかの様に飛び出して来た。


すると、窓から無数の銃弾の嵐が舞いこちらを蜂の巣にしようとこちらを襲ってくる。

少女は瞬間的に右腕を巨大な盾に変え、自らと自分を守ってくれた。

周りには家具や部屋が破裂音をしながら弾け飛ぶのが見える。少女が居なければこうなっていたのは自分だと言うのは容易に想像が付く。


「あ……!あっ……!あっ……!!?」


完全に脳の処理速度が追いついていない。不可思議な光景は文字通り脳が処理出来る容量を遥かに上回っている為、計算が追いつかない。

だが、現実はそう待ってはくれず、未だに弾丸の嵐がこちらを襲ってくる。


「うっ……ぎっ……!?」


少女は次第に苦しそうな声を漏らし始める。それもその筈。自らを守る盾は壊れ始め、少しづつ少女の肉体に弾丸が抉り込んでいる。

このままではジリ貧だろう。そして、この少女が死ねば次に周りにある家具の様なジャンクに成り果てるのは俺だ。


「うっ……あっ……!あああああああ!!!」


ジャンクと成り果てた自分の姿を想像してしまい、俺は少女から離れ逃げ出してしまう。その途端、銃撃は止む。

一体、どうしたのだろう?もしかして、見逃してくれたのか?――そんな訳も無かろうに。


男はこちらにガトリング砲を向け直し再び銃身を回転させる。どうやら、ガトリング砲は固定しなければ撃てないらしくこちらに照準を合わせ直しているようだ。

その瞬間、自分の死を明確に体感する。まるでそれは――快感に似て――


結論から言えば、男は銃撃を放つ事は出来なかった。何故ならば、こちらに銃身を向けた隙に少女は先程見せた瞬発力で男に一気に近付き

右腕を細長い刀に変え、首を突き跳ねた。そのまま男は血を撒き散らしながら墜落し地面に激突し身体はバラバラとなった。


「ハァ……」 少女は疲れたかの様に刀の形状から瞬時に右腕を元の姿に戻し刀の形状の際に付着した血を払う。


「大丈夫……?」


「え、あ……いや……」


少女は自らの怪我を気にも留めずにこちらの心配をしてくる。俺は自分だけが逃げ出した事実に今更ながら罪悪感が湧き出てくる。

自分だけが助かろうとし、目の前の少女を見捨てようとした事実に必死になって言い訳を探すも見当たらず、結果言葉に詰まってしまう。


そんな時、再び音が聞こえる。今度は声だ。その声は――――


「オイ!!ヤバイぜ!!!このマンションで死体がわんさか発見されたってよ!!!さっさと逃げよう――って何じゃこりゃ」


窓を見ると先程、忍者の様に窓から飛び出した結がそこに居た。


今何と言った?このマンションでも死体が発見されただと?先程のニュースキャスターは『刀京』で13人分の死体を発見されたと言った。それは此処の事なのか?

いや、それは有り得ない。だとしたら、ニュースが知っている筈は無い。このマンションの住人にも何かしらの連絡は入るはずだろう。

だとしたら、更にこのマンションに乗り込み殺した事になる……。


「何があったか知らねえけどさっさと逃げるぞ!!ヤバイんだってマジで!つーか、その娘は何なんだ!?」


「あ、いや……だな……これは何というか……。助けてって言われたから……」


「っつー事は近くに犯人居るんじゃねえの!?不味いぜ、この部屋の玄関前に潜んでるかもしれねえぜ?」


「えっ?」 それは不注意だった。先程、女の子を部屋に連れ込んだ時に鍵は掛けただろうか……?表情が自分でも青ざめていくのが分かる。


「……おい。まさか鍵を忘れてたってオチはねえよな?」


青ざめた自分の顔を見て、結は察しが良いのか核心を突いてくる。


「バカヤロ――」


そう結が叫んだ時――――ガチャリ――と、ドアの取っ手口が動く。

少女は険しい顔付きとなり、右腕を構え戦闘態勢を取り駆け出すが――


「君達!!!此処は危険だから早く出なさい!!!」


現れたのは警察だった。まだ生きている住人を逃がそうと自らの危険を顧みずこうして部屋を回っていた。

それと同時に少女はズッコケ――ゴスッ!!!頭から盛大にコケていた。


「い、いひゃ…いひゃ……」


頭を打った少女は半目になりながら警察を恨めしそうに睨み付ける。だが、その一方で安心したかの様な目線にも思えた。


「き、君!!大丈夫か!?」


「あ、あたま……」


「「……」」


俺と結はただただ、ポカンとするしか無い。ハッキリ言って、少女の突飛つ的な行動に付いて行けていない。

そもそもがこの少女が何者か、このマンションの住人か、人間であるかもハッキリしていないのだ。


「君達も早く逃げなさい!此処は危険だ!!」


警察のこちらの呼び声でようやく、我に返る。


「あ、はい……!」


俺達三人はそのまま部屋を後にする――――――









マンションの前はマスコミや野次馬でごった返していた。そして、マンションから出た俺達に質問の嵐をぶつけて来る。

「犯人は見たか?」「一体、何人殺されていた?」「警察に助けられるまで何をしていたか」「怖かったか?」

果ては少女に向かい「その右腕はどうした?」「犯人の趣味?」「お前が殺したんじゃないのか?」と言い出す始末である。


――知るかよ、糞野郎共。人が死んでるのに何がそんなに面白いのか。不快感が溢れ出してくる。

度重なる質問の嵐に遂に我慢しきれなくなった俺は声を荒らげようとした時に少女は突然と暴れだす。


「あーーー!!!あーーー!!あーーーーーーーー!!!!」


叫びだしながらマスコミや野次馬を殴り始めた。その細く白い腕からは想像も付かない様な威力、少女の体格には似合いもしない足腰の動作、足の踏み込みをしながら思い切り顔に拳を減り込ませる。

何人か逃げ出すが、少女は先程と同じ様に人間の目には恐らく捉える事は出来ないだろう速度で追い付き殴る、殴る、殴る。

警察の静止も全く意味を成していない。何しろ、三人掛かりで左腕を押さえ付けても吹き飛ばされてしまうのだから。


「バーーーカ!!!バーーーカ!!!バーーーカ!!」


「「……」」


またしても、唖然。いや、呆然と言った方がいいだろう。何だ、この娘は……?

余りにも戦い慣れている――それは結の目線からでも明らかであったらしく、何者なのか?という疑問を抑える事が出来ない。


しかも、問題は少女を誰が彼処までボロボロにしたという事である。いや、今考えても答えは出ないだろうし、そもそも考える必要は無い。後は警察に任せればいいのだ。この娘とも今さっき偶々、家に助けを求めただけでもうこの娘とも何も関係が――――


「ねえ……。さっきはありがと……。あのね……私……」


ない――――


「お礼がしたい……んだ……。付いて……来て……」


筈――――


「良いでしょ……?」


だった――。


「え……?」








戦闘描写って難しいですね……

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