プロローグ『無に等しい奇跡の代償』
――俺の目の前で小さな彼女は血の海で笑っていた。泣きながら――鳴きながら――
その血は彼女の物と彼女の周りに横たわる――天使や悪魔に似た翼や異型の部位を身体に備えた人間に似たナニカの血であった。
それを気に留めもせず『ナニカの肉』を異型と言うには余りにも機械染みている、機械と言うには余りにも醜悪な右腕で引き千切り
口が裂けそこからは血肉が滴り落ちていたが、その怪我を気にも留めずに口に運び喰らっていた。
彼女は俺に大丈夫?と何度も叫びながら狂った様に食らい続けている。俺は泣いていた。怖くはない。
でも――でも――彼女が泣いている。狂ってしまっている。辞めてくれ――辞めてくれ――そんな姿を見たくは無い。
――俺は彼女の問いに答えようとした。「大丈夫だ」と。だが、それは叶わない。俺の喉の肉は抉れ、声帯がズタズタになっていた。
声が言葉にならず、まるで怪物が苦しむかの様な声にしかならない。
苦しむ様に何度も何度も彼女に自分が無事であると伝えることに必死にもがき続けている。
そんな無意味なことを繰り返している内に何者かが現れた。一人では無い、複数人の手や胸の部分に醜悪な機械や見る者総てを圧倒し魅了するかの様な武器を所有する者達。それらは俺の目の前の彼女を見ると同時に――
彼女の四肢をもぎ取り、槍で腹を突き刺し、顎を動かせぬ様に裂けた口の傷を更に広げ口の開閉を不可能とさせた。
「あ”ァ”ァ”ァ!!!!!」
俺は叫んだ。声帯が破裂する程に。辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めてくれ
だが、遂に声すら死んでしまう。呼吸が苦しくなり、腹の中が潰れ、捻じ切れるかの様な痛みに襲われる。
――そんな俺に彼女はそれでも泣きながら笑いかける。そして――彼女の最後の言葉は
「私は大丈夫だから――貴方だけは――死なないで」
俺だけが――俺だけが――死ぬことの出来なかった――そんな……罪
そんな夢
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