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最強先生  作者: 兎原 月彦
通り魔編 表
13/15

認めるために


 阿田内と荒井は、保健室に駆けつけた。

 ベッドは二つあり、その一つに、笹倉弓子は寝ていた。

 頬にガーゼを貼り付けて、目を閉ざしている。


 保険医の山神は、やって来た二人を見て驚く。

 何せ二人とも、ボロボロだったからである。

 特に問題があるのは、少しびっこを引いている荒井で、山神は真っ先に言った。


「山神先生。その足は」


「構わないでください」


「そうは言ってもですね」


「待ってあげてください」


 これを止めたのは、阿田内であった。

 山神は困惑するしかない。


「阿田内先生も、怪我を?

 なら少し」


 何故か引きつって笑う山神。

 これに、妙な危機感を肌で感じる阿田内。


「い、いえ、ぼくはスーツが破けただけで、何ともありませんので」


 絶対に怪我をしない方がいいかもしれない。

 何故か阿田内はそう思った。


 阿田内も、弓子の居るベッドの近くに寄った。

 側で棒立ちする荒井。何を言うでもなく、深刻な顔である。

 気配に気づいたのか、弓子が目を開ける。


「ここは?」


 すぐに阿田内が答える。


「保健室です。笹倉さんは、怪我をして運ばれたんです」


「そうかぁ、うぅ」


 弓子は体を起こそうとしたのか、少し痛そうにする。

 

「まだ安静にしていろ」


 荒井が、無骨な顔に似合わず穏やかに言った。

 弓子は荒井を見る。


「荒井先生」


「何だ?」


「わたしは平気です。もぅ、終わりましたから」


「何を言ってるんだ?」


「先生。自分を責めないで? 先生のせいじゃ、無いはずでしょ?」


 荒井は、口を開いてから、ゆっくり閉ざして何も口に出来なくなった。

 弓子は阿田内の方を見た。


「阿田内先生、わたしぃ、戦いました」


「笹倉さんの敵を倒したんですか?」

 

 弓子は、首を振る。


「そうだけどぉ、そうじゃいんです。

 戦うべきだったのは、怖がりな自分なんです。

 傷つきたく無いから力があればって……。

 でもそれって連鎖で、終わらなくて。

 わたしが最後ならそれがいいかな、て」


「そうでしたか、頑張りましたね」


 弓子は、「へへへ」と、笑った。

 

 ここで山神が言った。


「さぁ。あとは、わたしに任せて、先生方は仕事をしてください」

 

 山神がきっかけを作ってくれたお陰で、側に居たくなる気持ちを抑え、二人は保健室を出て行った。


 保健室を出るなり、荒井は阿田内に言った。


「話しがある」


 阿田内は、同意も頷くもせず、荒井について行った。

 そこは、小さな部屋の中で、バスケットボールや、ハードルなど、運動に使う道具が収められている。

 窓から日がさして、埃がキラキラと舞っていた。


 荒井は、取り残されたように置いてある机に腰掛けた。

 初め荒井は、何も語ろうとはしなかった。

 考えをまとめているようなのだ。

 やがて口を開く。


「お前の想像する通り、俺は、マヌケな教師だ」


 あえて阿田内は何も言わなかった。


「一年前の俺は。

 イジメを解決するのに、イジメを受けていた大曽根を強くすればいいと考えていた。

 昔のイジメは、大人は仕方ないことだと言って見みぬふりをし、教師は、イジメを受ける側にこそ原因があると言って、加害者と結託してはぐらかすのが普通だった。

 世間では、イジメは人間の本性だ、イジメはどこにでもある常識なんだ、と、イジメだけが特別な暴力として認められ続けた。

 俺はそれが許せなかった。

 当時の大人たちは、何一つとして責任を負うことも出来ない、卑怯な存在だと思った。

 時代は代わり、ついに国まで子供に暴力を教えるようになった。

 俺は、こんな理不尽を子供に背負わせたくなかった。

 問題を払いのける強さがあればいいと、本気で思っていた」


「荒井先生は強くなって戦うことよりも、困難を乗り越える精神力を教えたかったんですね?

 しかし、荒井先生の考えとは裏腹に、大曽根さんは、通り魔になってしまった」


「大曽根を止めようとは思った。

 だが、もし止めて再びイジメが始まったとき、俺は、大曽根の味方であり続けることが出来ない。

 救いたいと思ったはずの子を、自らの手で、地獄に突き落とすなど、俺は、何の味方だったのか分からなくなった。

 俺は、半分、大曽根のしていることも、当然じゃないかとすら考えた。

 暴力をされて、暴力をし返されるのは当然のことでじゃないかと。

 愚かだった。

 結局は、自分の過ちを認めるのを恐れ、大曽根と向き合うことすら出来なくなっただけだ。

 子供の気持ちが、分からなくなったんだ。

 俺の教えたかったことではない。

 そう言い訳をし続け、俺の最も嫌う、無責任な大人になっていた。

 俺は、大曽根を守りたかったわけじゃない、自分の狭い箱の中にある教育理念を、守りたかっただけだ」


「正しく無かったのは結果でしょう。

 ぼくは、荒井先生の信念は間違ってはいなかったと思いますよ」


 荒井は鼻で笑う。


「正しいと言うつもりもあるまい?」


「荒井先生。教育に正しさを求めると、何も出来なくなります。

 あなたの教育には、紛れも無く愛がある。

 その信念を違えなければ、負けていたのは、ぼくの方でした」


「これほどのダメージを負わせて、よくも言えたものだ」


 阿田内の言ったのは、荒井を気遣っての嘘でも何でもない。

 完成された信念と意思こそ、武術そのものなのだ。

 阿田内のしたことは、ヒビ割れたビー玉を割った程度のことである。


 阿田内のズボンのポケットに入っているスマホから音楽が鳴った。

 スマホを取り出して受ける。


『先生、助けて』


 相手の声は大曽根である。


「どうしました?」


『あたしは何もしたく無かった、本当だよ?

 だけど、やらないとやられると思って』


「どこに居るんですか?」


 阿田内は、大曽根から場所を聞いて、それからスマホを切った。


(ふーむ、あとのことは校長先生と相談しておくか)


 阿田内は部屋の入り口に向かった。

 気づいた荒井は言った。


「どこへ?」

 

 荒井に向け、阿田内は、にっこりと笑った。


「授業をしに行きます」


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