プロローグ
血がぽたりぽたりと垂れていた。
涙みたいに、しくしく泣いている。
だけどちっとも悲しくなんか無い。
仰ぎ見る空には空が焼けて日が落ちている。
下をむくと、人が倒れていた。この辺に通う女子高生だ。
完全に事切れてて、反応なんてありゃしない。
「誰が」
乾いた喉から声が出てきたけど、よくわからない。
わたしはどうしてここに立っているのか?
下を向いたとき、自分の靴の下辺りに、ぴちゃぴちゃ貯まる赤い模様。
あれ?
何だっけか?
自分でよく分からなくなっている。
さっきからずっと、よく分かってない。
頭が馬鹿になってるんだ。きっともう手遅れだろう。
ぐしっと片手の甲で頬を拭った。すっごい汗だくに感じる。
でも顔に変な厚ぼったい感覚がある。
今、わたしは何かを被ってるみたいだ。
手を見たら、黒い革の手袋をして、オイルみたいなのがついてる。
あ、そっか。
わたしがこの子を殴りつけて、それで。
「ひひひ」
がくーん、と来たのに、思いの外、笑い声が生まれていた。
どうしようもなくこの世界は壊れてる。
壊してしまったら飴細工だった。
この世界でわたしは一人だ。
誰か、誰かわたしを見つけてよ?
なんて快感だろう。
なんて孤独だろう。
感情が冷え込んでて、頭が分離しそうだ。
でもいいんだ。
これって、大勝利ってやつでしょ?
壊れると案外、世界ってやつは面白いよ。
でもさぁ、言ってもいいんじゃない?
こういう困った状況。
詰まった状況。
悪事を働いて、最悪で、世界の敵になった感想。
誰か助けてよ?
助けられるものなら、助けてみなさいよ。
でもそんな奇特なやつがいても、
たぶん、そいつも悪人だ。
だって、悪人を救うのは悪人しかいないはずだから―――