1-4 もう魔法(マジック)はこりごりなんだけど
そんな将也達の前に美女が何処ともなく現れた。
外見は輝くような、そして雪のような白い肌をしていて淡い水色のローブを身に纏っていた。
白と水色のトンガリ帽子を頭に被り、タクトのような物を右手に持っていた。
「っ!?」
突如、出現したと表現するべき現れ方をした女性に対して警戒心を抱く将也。
ちなみに急に人が現れたことに吃驚したトトが肩に抱きついて来たのだがそれはなんとかスルーした。
背は将也達よりも高く大人の女性だと見て分かるのでマンチキン人ではないのだろうが念の為に尋ねる将也。
「貴女は何方? マンチキン人の方でしょうか?」
「私は北の国に住んでいる北の魔女のスノーよ。マンチキン人ではないわ。でも彼らの味方よ」
(魔女、ねぇ……)
いよいよ怪しくなってきたぞ、と警戒レベルを最大限上げる将也。
周りから見て分かる程の警戒の色を出す将也に、スノーに良くして貰っているマンチキン人は眉を顰めたがスノー本人は特に気にもしていないようだった。
「貴方の気持ちは分かります。魔法も無い異界からやって来たのですから」
「それよりスノーさん、どうして此処に来たんだ?」
アレックスが尋ねるがなんでもないかのようにスノーが答える。
「高度な空間魔法が此処マンチキン人の国で使われたことを察知いたしまして。それで此処は東の悪い魔女に支配されていた過去もあって私、彼女が復活したんじゃないかと思って空間魔法で飛んで来ましたの」
「冗談はよしてくだせぇ。あんな奴がまた復活したなんて、もうあんな思いはゴメンだ。それに悪い魔女は西の魔女だけで充分だ」
(なんだ? このアレックスさんの脅えよう……いや、他のマンチキン人もか)
周りを見回すとアレックスだけでなく他のマンチキン人も肩を震わせたり顔を青くしながら脅えている様子だった。
詳しく話を聞いてみると昔、マンチキン人の国は悪い魔女に支配されていたとのこと。
東西南北に魔女が1人づつ居るらしく、東の悪い魔女は相当のワルだったそうで、何年もマンチキン人を奴隷紋で縛り付け奴隷にし、朝から晩まで働かせ隷属させていたとか。
それは地獄のような日々であり、立ち向かう者達もいたのだが皆殺されたそうだ。
そして10年程前に黒い髪をした魔法使いがどこからともなく現れ、その悪い魔女を倒したと言われている。
東の悪い魔女が死んだことでマンチキン人達の奴隷紋が消え再び自由になり、その時は大層なお祭り騒ぎだったそうな。
この世界では黒い髪の毛は非常に珍しいらしいそうなのだが……そのおかげでマンチキン人から好意的な対応を受けたみたいだ。
話を聞いた後、将也はマンチキン人達の反応を見てとりあえずこの現状を受け止めることにした。
心の隅で皆の反応が演技であることも考えてはいたのだが。
(にしてもその黒髪の人物は日本人なのかな?)
もしかしたら自分と同じ境遇かもしれないと思ったが、その英雄である人物は悪い魔女を倒した後で姿を消したそうだ。
「それに魔法が使えるなら僕と同じ訳無いか」
諦め混じりについ声に出してしまった将也にスノーはさらりと答える。
「貴方も使えますよ、魔法」
それは将也にとって意外な言葉だった。