ドラグーンプリンセス
半年程過ぎ暖かい風が窓から流れ出る時期、この時期になると行商人やら船が活発になり田舎にしては賑わうのです。王都からは別の港街が近いけど此方は炭鉱都市を経由して王都にいけるので炭鉱都市にも用がある人は此方を通るのです。
ここ数日毎日屋敷に人がやってくるので屋敷の人間以外と会話をした事がない私には他人との会話ははっきりいって怖いのです。
だから1階に降りる事は極力せずに私のお気に入りであるお母様の部屋の窓から風景を眺めるのを日課としています。
ここからは街が一望できますし静かだし本を読むのにも最適だし……あ、それと紅茶と御菓子があれば尚いいのです。
そんな事を考えていたら知識からこんな言葉が出てきたのです…。
『ひきこもり』
だ、断じて違うよね?庭でちゃんと運動もしてるし色んな武器の基礎練習もしてるですし。
悶々と自問自答?している最中に扉をノックしてくるメイドの口からこんな言葉が出てきました。
「お嬢様、応接室までお越しくださいとのことです」
まさかのお呼び出しなのですよ、堪忍してくださいなのです。
何の前振りなしに無茶振りをふるとは如何なるものですか。
「や、ですー……」
「ダメですよシロエールお嬢様、旦那様がお呼びなんですから」
メイドにいやいやして抵抗しようと試みましたが簡単に持ち上げられたのです。
流石にこれ以上の抵抗は無駄なのです、まな板の上の鯉なのです。
実はこのメイドさんも武術の心があるので私の力ではどうしようもなく項垂れるしかありません。
応接間の入口で降ろされてあける前に深呼吸なのです。
ひっひっふー ひっひっふー 何か違うのです。
ゆっくりノックを2回すると入ってくるよう返事がきたのでおそるおそる開けるのです。
「しつれいしますのです……お父様」
弟妹達が産まれてからは両親の事をお父様、お母様と呼ぶようになりました。
若干お父様の方は前の呼び名の方が良かったらしいのですが子供っぽすぎるのでこっちがいいです。
目の前には竜人種族が3人お父様と対面して座っている。
一人はお父様より一回り年上な渋めのおじ様と10歳位の男の子で顔立ちは整ってて姿勢正しく座っている。
そしてお父様の隣に座る時私の目の前に対面した同い年位の女の子。
竜の角と尻尾が生えてるのが特徴的で着物とドレスを合わせた和風ゴシックとよばれる格好で、赤紫色で少しふんわりしたツーサイドアップ髪の毛が腰位まで伸びていて金色の瞳が此方を見つめてる。
あ、目が合った。少し驚いた感じで此方をみてる…な、何かしたかな?
少し困った私の顔をみたのかすぐに微笑んでくれた、可愛いしちょっと綺麗だなって思ってしまって少し自分の顔が赤くなったのが分かるのです。
気恥ずかしいのでお父様の脛をつねってやったのです、何故か喜んでますが。
ちなみにお母様は双子の世話をしてるのでこの場にいないのです。
「シロエ、こちらはアーレス帝国の第四騎士団長のトールマン氏 第四位王位後継者のレイヴン王子と第七位王位後継者のアカネ王女だ」
お父様よ、行き成り王族はハードル高すぎやしませんか?
「我はレイヴン・ロートフェルトだよろしく頼む」
「こんにちは私はアカネ・ロートフェルトだよ宜しくねシロエールさん」
いかにも偉い王子様っぽいレイヴン王子様とは別に随分フレンドリーなアカネ姫様です。
二人の挨拶を聞いて私も精一杯挨拶するのです。
「ようこそヴァイスカルト領に。私、当領主クロノワールの第一子シロエール・ヴァイスカルトでございますなのです」
出来る限り頭を回転させて上品に挨拶をする私。多分まだ言葉の呂律が上手くないので若干舌足らずな言葉遣いになった気がして少し恥ずかしいです。
私をじーっと見ながら尻尾をふりふりしてるアカネ姫様、ついつい尻尾の動きに視線がいってしまう。
あ、挨拶も終わったことだから私はそろそろ部屋に戻らせて……
「ね、シロエールさん私とお話しよっ」
私が帰ろうとしたのに気付いたの?といわんばかりのタイミングでの声かけにびくっとする私。
何ですと?
お父様の方を振り向いたらうんうんと微笑ましいなーっていう感じの顔してた。
之が目的ですか。他人と会話しない私に同年代の女の子と宛がう魂胆ですね、お父様諮ったなです!
「ほらシロエ、アカネ王女もこういってらっしゃるからお話しておいで」
「わ、わかりましたの…です」
私達二人が出る時ローエンがすれ違いになった。
軽く私達に会釈をして部屋へと入るローエン、そういえばローエンもアーレス出身でしたね。
知り合いなのかな?話しをするなら私の部屋かなぁ…ちらっとアカネ姫様をみるとすっごいほっこりした笑顔でこっちを見てる。何でそんな眼で私を見てるですか
「あの、アカネ姫様どうかしたです?」
「んー、ねぇねぇ私シロエールさんの事シロってよぶからアカネって呼んでもいいよ」
姫様いきなりの無茶振りでした。いいのかなぁ…。尻尾ふりふりしてるしいいのかな?
部屋へ案内しようとしたら腕を組まれて外にひっぱられてくのです。
「天気もいーしお外にいこー!」
「え、ちょ、ちょっとまってくださいです」
ぐいぐいと引っ張られていく私。この人同じくらいの背丈なのに力の差が凄いのです。
何というかアカネは陽だまりのような人なのです。
庭園のテラスに腰掛ける、何故か対面じゃなくて横に座ってきました。ち、近い近いのです。
周辺に私達を配慮する程度の距離でうちの武芸メイドと第四騎士団の人達がこちらを見てる。
中にはメイドを口説いてる騎士も、仕事してくださいです。
「それでさー、海の上でね――――」
アカネは普段はどんな事をしているのかとか、街から出たことがない私にアーレスの文化や船旅の出来事を面白おかしく話してくれて、その一言一言を大げさにしたりオチを作ったりまるで御伽噺を即興で作ってるみたいでした。
彼女の話しは面白い。本のつまらない説明文とは違って活き活きとしててイメージがしやすいのだ。
私の反応を見るたび嬉しそうに尻尾を振って笑顔で語ってくれる。後何故か肩がくっつくくらい寄り添ってるです。悪い気はしないので特に気になるわけじゃないのですが…。
パチッ
不意に後ろから電気が弾けるような音が聞こえたのです。
アカネがふらっと前のめりになりそうなので支えようと手を伸ばすと目の前の騎士とメイドが此方を向かってくる凄い形相なのです。そんなにアカネの容態が悪そうなのかな?
違った。少し考えれば気付いたのに私は気付かなかった。そう、後ろに誰かいるんだ。
振り返ろうとする間に多分矢か銃を使ったんだと思う。無音なのに風を切る感触だけが伝わり騎士とメイド達が血を流して倒れていく。
一体何が起きたのかここだけ私は直ぐに分かったのです。
賊達は風乱魔法の『無風無音』と『疾風加速』の重ね掛けを使ったんだと。
これは上級魔法ですよ?唯の賊が使えるような魔法じゃないのです。
短いこの間で私が悟っても意味は無かった。だって私も直ぐに雷鳴魔法で意識を落とされたんだから。
気だるさと意識がチカチカと点滅するように目覚める。首の裏がちりちり痺れてる。
視線にノイズが走り頭が重い。呼吸は大丈夫、ゆっくりすってゆっくりはいて段々クリアになってく。
個々は何処?だろう周囲をきょろきょろ見渡す。少し潮の匂いと薄暗くてそんなに広い部屋。
すぐ近くにアカネの姿があった。自分自身と交互に見渡し二人とも目立った外傷はない。
「大丈夫です?」
「っ~~~シロこそ大丈夫?ここどこかしら?」
頭をぶんぶんと振りながらアカネも眼を覚ます。
ゆらっと地面が揺れてる感じがするどころかむしろ全体的に揺れてる気がする。
がくんっと分かるくらい傾いた周囲からぎぎぎっと音が響く。
何かを悟ったのかアカネの顔はみるみる険しくなる。
全体を見渡してからドアとは逆の壁の前に立ち 膝を少し曲げて腰を落とし片足を軸に回転し上半身を倒すように捻り反動で勢いの付いた蹴りは綺麗にインパクトしたけど木造の壁は予想と反して強固で金属に近い反応を示し彼女の蹴りを跳ね返す。
「ダメだね、完全に閉じ込められてる」
「後ろから雷鳴魔法で気絶させられたのは覚えてます」
どうしよう、誘拐とかされるの初めてです。経験あるほうがむしろおかしいですが。
シロエールは隅っこに体育座りしながら今後の事を考える。
「ごめんねシロ、多分目的は私だから巻き込んじゃったね」
体育座りしてる私を申し訳なさそうにぎゅっと抱き締めるアカネ、落ち込んでるとか心細そうにしてるように見えたんだと思います。
アカネって同い年ですよね?やけに大人っぽいのですよね…お姉さんって感じがします。
がこっと扉の閂が外された音が鳴りぞろぞろと半獣種族豚頭人科と狼頭人科が入ってくる。所謂下種顔丸出しで私達を見てニヤニヤしてるのですが私この二人見覚えあります。
少し前に両親にフルボッコされた連中です。
「ガキのお守り何て糞ナ仕事ダケド脱獄シテカラ良い金ニナルゼ」
狼頭人科はナイフを舌で舐めてながら見下して、豚頭人科の方は何だろう私を見ながら舌なめずりしながらグフッグフッと気持ちの悪い笑い声をあげてる。
豚頭人科(オークの視線に何かを感じたのかアカネが私を隠すように前にでる。
「あなた達、何のつもりで私達をこんな所に連れ込んだのよ」
アカネは二人を睨みつける。豚の方はムシロ喜んでたけどお父様が同類と思うと嫌なので考え無い事にしました。
「知らねぇなぁ、俺らは旅費と小遣いを貰ってるだけだからなぁ」
ペラペラと子供だからと舐めきってるのか色々な事をべらべらと喋ってくる。
どうやら個々は船の中らしく行き先と依頼主に関してはは流石に応えませんでした。
狼頭人科の方はベラベラと喋ってくれるのですが豚頭人科の方はブヒブヒ言いながら私達を見てるだけでこっちの方が気味が悪いのです。
「ブヒヒイッソロソロイイカ?」
一通り狼頭人科が喋り終えたら豚頭人科の方が急に声をあげるそろそろいいかって何?
「テメェの趣味にゃ何もケチツケネーケド程ほどにしとけよ大事な荷物ナンダカラヨ」
狼頭人科が軽く舌打ちしながら部屋から出て行った。
豚頭人科と私達だけになった。オークが私達に近づきながらズボンを脱いでいく。
知識が私に警告を出すように流れ込んでくる。アレは私達に対して劣情してるのだ。
「ブヒヒッドッチモ上玉ナンダナ」
残りの一枚を脱ぎ降ろそうとした瞬間アカネが小声で呟いた
「我が盟約に従い、炎よ我が足に集え、全てを焼き尽くして、灼熱よ喰らいつくせ」
無防備の急所を晒した瞬間、足の曲げ伸ばしの反動に体重を乗せるだけの簡単な蹴り技を繰り出す
「業炎脚!」
足の裏に炎を纏わせ急所を踏み潰し燃やしていく、後ぐりっと回転も加えてた。
「ブギイイイ※イイイイ◆イイイ◆●▲!?」
豚頭人科が悲痛というかこの世と思えない悲鳴をあげ床に転がり悶える。
よほど効果があったんだろう何度も悶え大人しくなったかと思ったら豹変した。
眼が赤く明確な殺意を覗かせていた。私でも分かる殺されちゃうって
アカネの髪を掴みひっぱり寄せたかとおもったらアカネの顔めがけて膝を叩きつけたのだ。
「コノクソガキガアア!」
「―――ッ―ハッ―」
地面に転がるアカネさんのお腹を蹴りあげようとする豚頭人科。
その巨体の足は振り下ろされる前に叫び声に気付いた狼頭人科と他にもいたらしい仲間が必死で豚頭人科を取り押さえ部屋から引きずり出していく。閂を掛ける音がしてから遠くまで離れたのか静かになった。
私はすぐアカネの元にかけよると
アカネは鼻血と口から血がでていて、呼吸が整わないのか必死に息継ぎをしてる。
私はヒールに使うマナ消費量を倍にして効果を引き上げる。痛みも消すようにしっかり回復させていく
あの時他の人がとめなかったらアカネはどうなったんだろうとあの眼をみたらゾッとする。
絶対殺すつもりだったアカネが死ぬなんて想像したら私は怖くて怖くて仕方が無かった。
私を心を見透かしたのかぽんぽんと頭を撫でてくるアカネの表情は痛かったり辛そうだったりしてる顔じゃなくて微笑ましいものをみてるような眼でした
「へ、へーきへーき…シロって回復魔法使えたんだね助かったわもう痛みもないわ」
「でも、ほんの少し違ったら死んでたんですよ?」
「何もしなかったら死ぬより酷い眼にあってたと思うからまだマシよ」
ヒールでまだ少し痛む程度までに回復したアカネはこれからどうしようと思考を切り替えていた。
アカネは明るくて酷いめにあったのにめげないのです。
彼女を助けてあげたいならどうするべきか私分かってるよね?こんな状況だしいいよね?
「大丈夫ですよ」
ここから始まる大冒険かと思いきやあっけなく終了する事となった。
ヒロインの一人アカネの登場です。
豚は最低でした
ヒロイン格の名前には一定の法則をつけております。