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鍵魔法師のシロエールには秘密がある  作者: 木下皓
学園編【1年夏】私たちのサマーウォーズ
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帰郷Ⅱ

お久しぶりです。世間じゃ夏休みですね。なるべく更新できたらと思います。

 僕は姉さんが苦手だ。


 姉さんは身近にある本にすら書かれていない事を僕たちに教えてくれる。

 初めて適性検査を行った時のことだ。結果、僕には雷鳴魔法(シヴァ)の素養があった。

 それが分かった瞬間、姉さんはとても嬉しそうだった。


「どうして雷鳴魔法シヴァだとお姉ちゃんは嬉しいの?」


理由を問いただすと姉さんはこう言った。


「だって、私が一番知っている魔法は雷鳴魔法(シヴァ)なのです」


 姉さんは母さんと同じ光霊魔法(ルミナス)属性だ。

 それなのに、姉さんは雷鳴魔法(シヴァ)が一番知っているという。

 毎日毎日毎日毎日、晴れの日も雨の日も僕は魔法を限界まで使わされ毎日泥の様に眠る日々を繰り返した。


 最初は遊び半分だった練習もいつの間にか日課となり


 いつの間にか倒れるまでの時間はどんどん遅くなり、夜に最後自分で魔法を消費して眠る位になった。

 姉さんの教えてくれる事は正しい事ばかり。

 何故、僕より少し上なだけの姉さんが大人ですら知らない事を知っているのだろう?


 姉さんは僕の、僕たちの憧れだけど……少しだけ怖い。




 僕は今、屋敷の屋根にいる。

 ここの景色はとても綺麗で日向ぼっこしながら昼寝するのが好きだ。

 だけど庭の訓練場から音が聞こえてくる。

 この音の主はシルヴィアだろう。僕の双子は魔法と武術両方やっている。

 シルヴィアの努力も含め、僕にはとても真似できない。

 何時もならこの音を昼寝の邪魔に思い、街の子達と遊んだりもするが今日は違う。


 あの姉さんが帰ってくる。


 また新しい事を教えてくれるだろうか?

 姉さんのいない間に少しでも成長した自分を見て何と言ってくれるのか……。

 ガッカリするだろうか?喜んでくれるだろうか?それとも、それすら予定通りなのだろうか?


 そんな事を考えていた僕は本に栞を挟む。

 丁度その時だった。庭の訓練場でシルヴィアの声が響く。

 落ちないように屋根の上から顔を出して声がした方を注視する。

丁度、姉さんがエクレールに抱えられて連れていかれる所を僕は目撃した。


 シルヴィアの奴、何をやった?


 屋根から降りて屋敷の中に入るとメイド達がお茶請けの準備をしていた。

 どうやら姉さんの友人が来ているらしい。


「姉さんが帰ってきただけじゃないみたいだね?」


「ゴルディ様、シロエール様ったらご学友を連れて帰られたのですよ」


 メイドの声も若干高なって興奮気味だ。それもそうだろう。

 僕ですら姉さんの友達はエクレールを除いてアカネ姫しか見たことがないのだ。

 子供の僕ですら姉さんには友達が少なすぎると思うほどだ。

 両親やメイドからしたら大進歩なのかもしれない。


 姉の友達という点は興味を引くが……話を聞く限り女性しかいない。

 思い返すあの日々……。姉さんの命令によってエクレールは躊躇なく訓練でボコボコにしてくるし、アカネ姫様は色んな衣装を持ってきては僕に着がえさせてまるで着せ替え人形の様に弄ってくるので年上の女の子に苦手意識が芽生えていた。

 

 エクレールが姉さんの部屋から出てくるのを確認してから姉さんの部屋に入る。

 姉さんの部屋は行商人から定期的に購入している新しい本と可愛い物で一杯だ。

 何時も使っているレイピアや武器は一切見当たらない。

 学校へ行く前と今、全然変化がないこの空間は少しだけ変な感じがする。

 天蓋付きのベッドの中で姉さんは少し魘されながら眠っている。


「姉さん。おかえり」


 勿論、返事はない。姉さんに何があったのだろう?

 こんな姉さんを見たのは初めての事だった。

 でも……そんな姉さんが少しだけ普通の女の子っぽくて安心した。


 僕が姉さんの部屋から出るとエクレールがそこにいた。

 その手には水の入った桶にタオルがある。どうやらこれを取りに行っていただけらしい。


「ゴルディ様。お嬢様の部屋で何を?」


「別に、姉さんのお見舞いみたいなものだよ」


「そうでございましたか」


「ところで姉さんは何であんな風になってしまったんだ?」


「……少々心労がたたったと言えばよろしいのでしょうか」


 僕の質問に言葉を探しながら最低限の事だけ伝えてくる。

 一体何が起きたのかエクレールは答えようとしない。

 彼女は我が家のメイドだが、姉さん専属だ。誰よりも姉さんの意思を優先する。

 そんなエクレールが容体を答えないのは、姉さんが言いたくないと言っているようなものだった。

 この状態のエクレールに何を言っても結果は同じなので僕は自分の部屋に戻ってベッドに飛び込む。

 僕の部屋にはあまり物がない。あるとしたら読み書きの本やまだ読めない魔法の本。

 それと外で遊ぶ玩具くらいだろうか。

 こんな事なら外で皆と遊べばよかっただろうか?

 今からでも遅くは無いかもしれないけどそんな気にもならなかった。

 どうでも良くなってきて僕はそのまま眼を瞑る。


「……ディ……ルディ……ッ」


「ゴルディ!あんた折角お姉様の友人がいらっしゃっているのに何で挨拶しにこないのよ!」


「……」


 耳がキンキンする位間近で大声が聞こえてくる。

 目を開くと膨れっ面のシルヴィアが此方を覗き込んでいた。

 彼女の姿が赤と黒のコントラストに映し出されているのを見て夕暮れ時だというのを教えてくれる。

 僕はシルヴィアを雑に押しのけて上半身を起こし、身体をほぐす。

 

「年上の女の子は色々と面倒なんだよ」


 これは本心だ。外で遊ぶときも友達のお姉さんにもよく弄られるし……。

 シルヴィアは納得いかないようで膨れっ面のまま僕を見ている。


「それでも、挨拶位はした方がいいと思うわ。アカネ姫姉様並の雲の上の人もいたし」


「流石姉さんだね」


「そうよ、お姉様は凄いんだから」


「……僕たちも姉さんみたいになれるかな」


「何を言っているの?なれる訳ないでしょ」


「お姉様はお姉様であって私やゴルディじゃないし私やゴルディには姉様にないものだってあるわ」


 ふんすと偉そうにする僕の双子は僕とは違って強い奴だ。

 僕はシルヴィアの事が姉さんよりも苦手かもしれない。

 こいつを見ていると自分の悪い所がよく見えてしまう。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 一方。リビングでは――。


「うちの子たちって妙に子供っぽくない所があるのよねー」


「ああ、わかります。ゴルディもシルヴィアも妙に達観している部分があるというか」


「そんな子達ばかりだから他の家庭より手がかからないのを良い事とすべきか何というか……ね?」


「あの子達はまだ子供だから、もっと甘えて怒って我儘いって困らせてくれてもいいんだけどねぇ」


 ゴルディとシルヴィア。

 二人も現年齢にそぐわぬ聞き分けの良さがありそれぞれ自分の方向性すら考えている節がある。

 これもシロエールの影響なのかどうかは分からない。


「シロは結構、我儘で甘えん坊な気もするけどねー?」


「シロエールはね、何というか俺たちに対して時と場合を弁えている気がするんだよ」


 忙しい時は本を読んだりして手が空いてから甘えに来てくれる。

 本来、子供とはこんなものだったろうか?

 自分が子供の頃は良く親を困らせた記憶がある。

 何か大事な過程を飛ばしているような感覚に、クロノワールは少しばかり不安を感じてしまうのであった。


「クロノワールおじ様は単純にその方が快感だからってわけじゃないですよね?」


「ははは、まさかぁ……」


 周囲がクロノワールの視線や表情で少しはそう思っていたのかと察した。

 シロエール御一考から彼女の父親は残念な人だと認識されるのであった。


 姉さんが帰ってきてから3日目。

 僕が庭に出るとずっと今迄寝室で眠りこんでいた姉さんがいた。

 ガーデンパラソルの影の中でエクレールの膝枕でごろりと横になっている。

 エクレールが尻尾を揺らしながら姉さんにヨーグルトを与えている。

 何というか介護されているような……そんな感じだ。


「ゴルディ」


「あ、姉さん。どうしたの?」


 急に声を掛けられてびっくりした。

 姉さんの視線がこちらに向いていて、気怠そうなその表情は少しだけ大人っぽくみえて僕の心臓は少しだけ高鳴った。


「午後から魔法を見てあげるのです」


「え、あ、うん。ありがとう」


 其れだけ伝えると姉さんはエクレールから今度はバナナをペーストしたものを食べさせてもらっている。

 一方的に始まり一方的に終わった久しぶりの姉弟の会話。

 僕からも何か喋ろうと唇を動かし、姉さんへ声をかけようと思ったがエクレールが静かに首を横に振った。

 僕は渋々その場を立ち去ることしかできなかった。



「ゴルディ」


 僕が思いふけって空を見上げていたら声を掛けられた。

 声の主はシルヴィアだ。少し不思議そうな顔をしながら僕を見ている。


「折角お姉様に見てもらえるのに何か不満そうね」


 こんなに眉間に皺寄っていると指でジェスチャーをする。

 僕はそんな顔をしていたのか?


「シルヴィアも見ただろう?あんな状態の姉さんで本当に大丈夫なのかなって」


「あんたバカ?お姉様が言っているんだから、見れるんでしょ?」


「いや、だから」


「お姉様は嫌な時とか、無理な時とか、何時も間髪入れずに答えていたわ。そんなお姉様は体調優れなくても見るくらい出来ると判断したうえでゴルディの魔法見てあげるって言っているんじゃないの?」


 若干ドヤ顔で少しイラッとしたけどシルヴィアの言うことは確かだ。

 そんなシルヴィアの頭を少し強引に撫でまわすとシルヴィアは不機嫌そうな声で唸りつつも抵抗はしなかった。


 僕は自室へ駆け込むとクローゼットを開ける。

 着替えやら遊び道具やらが仕舞い込まれたそこに一つだけ場違いに近い箱を引きずり出した。

 古い金属製の宝箱。こうみえて可也強度がありハンマーで叩いても凹みすらしない代物だ。

 さらに机の2番目の引き出しを引くと小物が適当に入っている。

 目的はそこではなく裏を覗き込むと、小さく彫りこまれた溝に鍵が入っている。

 これがこの宝箱の鍵だ。鍵穴に差し込んで回すとガチャリと鈍い音を立てて鍵が開いた。

 少し力を入れて宝箱の蓋を持ち上げる。

 

 中に入っているのは全部で3つ。

 スタッフ――。長さは凡そ40cm。金属製で先端の核となる部分に宝石らしきものと不思議な素材が使われている。

 触れるだけでこれを使うと凄い事になるという事だけはゴルディにすら理解できた。

 マント――。白地で金属繊維と何かの糸出来ている

 まだ一度も羽織ったことが無いのでゴルディには之がどんな代物なのか理解できていない。

 ショートソード――。柄の部分は何かの生物から作り出したものなのは分かる。刃はミスリルとはまた別の金属であり、思ったよりも軽いのだ。

 どれもこれもシロエールがゴルディの誕生日に渡した代物である。


『貴方が一人前だと自覚したときに使いなさい――』


 この杖を使ったらどうなるか僕にもわからない。

 でも、姉さんに認めてもらえたら1人前だと僕は思う。

 今の自分なら、姉さんに認めてもらえるかどうか?

 僕は部屋で瞑想し考え続ける。

 午後――。僕は姉さんの前に立った。

 姉さんは車椅子に座っており、後ろにエクレールが押している形だ。


「ゴルディ、その格好」


「僕は姉さんに一人前になったって証明してみせる!」


 ゴルディはマントとスタッフを装備しこの場にやってきたのだ。自分が一人前の力を持っているという意思表示として。


 そのゴルディの様を見たシロエールは深いため息をついた。

 その溜息には呆れや落胆の色濃く出ている。

 シロエールはゆっくりと車椅子から立ち上がる。


「お嬢様」


「大丈夫、いや、大丈夫とはちょっと言い難いのです」


「姉さん?」


「……ゴルディ。お姉ちゃん、ちょっとだけ本気だしてあげるのです」


 この時、僕は姉さんがもっと怖い事を知った。

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