帰郷Ⅰ
可愛い妹が欲しい。妹視点です。
決して大きくはないけどこの港街が私のお父様の領地。
実は大きな船も数隻止まれるほどの港街らしいのです。
何時もは中、小の船ばかりなのに最近は結構多いの。
街の人たちからも好かれているし治安も良いみたい。
でもお姉様がいなくなっても街は特に変化はない。
だってお姉様は何時も屋敷で窓から遠くを眺め、本を読んでいた。
でも、毎日お庭で稽古も欠かさず何でも出来る人だった。
何故お姉様はお外に出ないのだろう。以前お母様に聞いてみたことがある。
何故、お姉様はお外に出ないの?
心地よいベッドの温もりから抜け出せない。
そんな私にカーテンの隙間から朝日が差し込み朝を告げる。
重い足取りでベッドから抜け出しカーテンを開く。
全身に浴びる眩い光に眼を一瞬閉じる。
窓を広げるように開くと心地よい風が私の部屋へと流れ込んでいく。
小鳥さんの声、微かに鼻孔を擽る海風。
強い日差しがまだまだ夏が続くと告げている。ああ、今日も暑くて綺麗な風景。
何時もと同じ風景だけど今日は一段と輝いて見えた。
だって今日は待ちに待った日。
お姉様が帰ってくる――!
コンコンと軽いノックが部屋に響き、私は返事をする。
「おはようございますお嬢様」
「おはよう、今日もいい天気ね」
「そうですね。まるで、シルヴィアお嬢様の心を映し出しているかのようで御座います」
朝の支度の為にやってきたメイドが私の髪の毛を整え、着付けをしてくれる。
お嬢様っぽい服装ではなく動きやすい恰好をする。
着替えが済むと私は階段を駆け降りる。
夏休みに入ったのに他の所を転々として中々お家に帰ってきてくれなかった。
まだお姉様が学校に通って数ヶ月だけど私が成長している所をお姉様に見てもらいたい。
帰ってくるのが待ち遠しい。
ゴルディったら態度が悪いのよ。
お姉さまが帰ってくるのに僕は興味ありません。みたいな態度とって。
双子の弟のゴルディはお姉様の事なんて嫌いって愚痴るけど私は知っている。
姉さんに認めてもらいたいって内緒で努力しているって。
先に手洗い、うがい、歯ブラシを済ませて鏡に顔を寄せる。
メイドがしてくれているから身だしなみに問題ない。
以前、ゴルディがお洒落に気を配らせていたら鼻で笑ったけどその時はゴードンにならった関節技を決めてやったわ。
ダイニングの前に到着してドアを開ける。
ふわっと、パンのいい香りが広がってお腹が早く食べたいって声をあげちゃうの。
先にテーブルについていたお父様とお母様がお食事をとられていました。
「おはようございます!お父様、お母様」
「あら、おはようシルヴィア。今日は早いね」
「ふふ、だって今日ですもの」
私が元気よく挨拶すると二人はすぐにお姉様の事で早起きだって気づかれてちょっと恥ずかしい。
でもお母様は少々心配そうにしている。
「でも、アルテミスから帰ってくるとなるとあの子相当参っているかもしれないわ」
「うーん……シロエールが無事だといいけど」
お母様の実家に行っただけなのにお姉様に何か深刻な事が起きるの?
私は不思議そうに二人の会話に耳を傾けていました。
でも、二人はこれ以上の事は言わず何時もの世間話に戻ったの。
私がごちそうさまを言う頃にゴルディが髪の毛ボサボサのまま入ってきた。
「ゴルディおっそーい」
「別に普段通りの時間だろー……」
私を見るなり不機嫌そうにしながら両親におはようございますと挨拶する。
一体誰に似たのだろうだか。
朝食を済ませた私は日課の訓練を開始します。
お姉様は小さいうちが肝心だって言っていたから私は決してサボらない。
今日もお姉様著書の『体幹バランスを鍛えよう』の通りに柔軟などをこなしていく。
そしてパルクールと呼ばれる移動技術。塀や壁を手際よく飛び跳ねる。
アカネ姫姉様曰く、忍者っぽいと言っていた。忍者って何だろう……。
内緒で街の子供たちの所へ遊びに行く際によく使っていました。
最初は擦り傷とか作っては怒られましたけど。
今日は魔法の特訓。
お姉様のカリキュラムに則り無詠唱で使えるようにしている。
私の属性は風乱魔法。
お姉様は風乱魔法に関しては然程詳しく無い。
そんなことは全くなかった。
全然そんなことはない。
それに私が読める範囲で書いてあるから分かりやすいし他の本に載ってない魔法がいっぱいだ。
私は詠唱をせずに魔法を唱える。
お姉様が教えてくれた無詠唱はレイピアを振いながら戦える優れものだ。
更に数ある中でもレイピアと組み合わせた魔法を私は集中的に練習している。
庭の訓練場に新しい的を設置して私は15m程離れる。
エクレールや速度に自慢のある人ならこの距離すら、間合いの中にあるけど普通はアウトレンジの範囲。
私は軽く素振りを入れてレイピアを離れた的に刺すように突き出した。
独特な風切り音――。
一瞬の吹き荒れた風が静まる頃に、的の中心が綺麗にえぐれている。
これが私の、最速開幕の一撃。
でも、これは不完全。相手が身に着けていた物が上質な鎧だったらまず、貫通すらできない。
魔法も初級の域を出ておらず一撃必殺にはまだ遠い。
真っ直ぐだから一度見られたら対処されやすい。
この魔法のイメージは弾丸。
お姉様の銃と呼ばれる武器から発射される回転しながら飛び出るアレの事。
頭の中じゃなく物でイメージを固める。この方法はアカネ姫姉様が私に教えてくれた。
精気の量は上がっているのは分かるのに魔法の上達は芳しくない。
他の人からすれば私の年齢で魔法をここまで使えるのも珍しいらしい。
でも、私には姉と弟という身近で比べる存在がいる。
その二人とは歴然とした差があるのだ。
少しでも二人に追いつくために私はレイピアを振るう。
普段から武芸はローエンとメリーの二人に教えてもらっています。
二人からは私達、姉妹の中じゃ一番筋があると言ってくれる。
私がお姉様を超えるなら、これしかないって思ったから。
練習を続け、太陽が真上に来る頃。
自重を支え切れなくなった私はその場に仰向けに寝転がった。
身体の疲れが全身から大地へと流れていくのを感じながら大きく息を吸う。
風が海の匂いを、身近な草木の匂いを運んできてくれる。
何時もなら丁度このくらいのタイミングでメイドが飲み物を持ってきてくれるのだけど。
今日はいつもと違った。
「大分、上手になったのです」
「!?」
私は先程の疲れが嘘のように吹き飛んで上半身を起こした。
声の主の方へと頭を向ける。
真っ白な肌、太陽の光で美しく光る銀色の髪。
麦わら帽子で陰になっている顔から見える、青空や海のような綺麗な青い瞳
ああ、間違いない。帰ってきてくれた。
「お帰りなさい!お姉様!」
私はそのままお姉様に飛びついて抱き着きました。
そんなに勢いをつけたつもりはないけど姉様はそのまま、私を上にして地面に倒れこんだ。
お姉様の顔を覗き込むと、真っ青で重病人の様にすら見えた。
「お、お姉様?」
「シルヴィアお嬢様。まずはどいて差し上げてください」
「あ、エクレール!そ、そうですね」
「私はお嬢様をお部屋にお運びいたしますのでシルヴィアお嬢様は先にシャワーを浴びる事を推奨します」
「あ、う……うん。分かった」
普段と変わらない口調でエクレールはお姉様を抱きかかえた。所謂お姫様抱っこというやつだ。
エクレールが取り乱してないから大丈夫って事なのだろう。
私は困惑しつつも彼女の言葉に従うことにした。
シャワーを浴び、汗を洗い流した私は社交用でもお気に入りの服に着替えてリビングへと足を運ぶ。
ドアの前に立つと聞きなれた声と聞いたことのない声が耳に入ってきた。
私はコンコンとノックをし中へと足を踏み入れる。
「あ、シルヴィアだ。お久しぶり~」
「ほほぅ、これが妹君か」
「妹ちゃんも可愛い……」
「あらあら、まぁまぁ」
見知らぬ人達。全員美少女といっても差し支えない容姿ばかりだ。
友達がアカネ姫姉様だけだったお姉様が友達をさらに連れてくるとは思わなかった。
……学校行っててまさか3人しか増えなかったとかないですよね?
何故かお昼過ぎなのにカーテンが閉め切られている。
私は気になって一直線にカーテンを開けてしまった。
「あっ」
「ぬわぁぁぁぁぁ」
「えっ!?」
急に1人が灰なった。私は茫然とその光景を見てる。
取り返しのつかないことをしてしまったのではと血の気が引く。
「あー。ごめんね、妹ちゃん。この子は吸血種族だから日光に弱いの」
ツインテールのお姉さんが立ち上がり私の替わりにカーテンを閉める。
その後何事もないかのようにソファに座った。
私はキョロキョロと皆の様子を伺うけど誰一人心配してない。
むしろ私の反応を楽しんでるような感じだった。
すると、灰が集まりだして元の姿に戻った。
これが吸血種族なのかと私はマジマジと彼女を見つめる。
「妾の顔に何かついておるかのう?」
「そうじゃないですけど……本当に大丈夫なのですか?」
「うむ、よくあることじゃから気にしなくてよいのじゃよ。あ、後少し血吸っていいかハブッ」
「シルヴィア様にまで毒牙を立てようとしないでください。ギルティです」
「え、エクレール。お姉様のお友達に乱暴は」
「いいのいいの。エクレールもヒュッケと友達みたいなものなんだから」
1人会話の中にいるというより皆の様子を見て楽しんでいるようにしている人がいる。
お母様やお姉様と同じ尖った耳。森守種族だ。彼女だけ少し年上に見える。
「シルヴィア。皆様にご挨拶がまだですよ」
「あ、そうだった!こほんっ、シルヴィア・ヴァイスカルトです。皆様よろしくお願いいたします」
私は精一杯上品に挨拶をする。今更な感じもするけどお姉様の妹として恥じないようにしないと。
「ヒュッケ・ノクターン・シュバルツじゃよろしくのぅ」
「フレイヤ・ブラウニーだよ。よろしくね、シルヴィアちゃん」
「私はリーゼロッテ・アクア・ヘルブラウと申します。此方こそよろしくお願いしますね」
「あ、私の事はリーゼロッテ義姉ちゃんっていっても言いんですよ~」
「え、え?」
「いやー、リーゼロッテ先輩。シロは私の嫁ですからね」
「むしろ、我々全員がシロエールの嫁ではないのかのう」
「わ、悪くないかも……。い、いや良くない良くない」
この人達、本当にお友達でいいのかな?
やったねシルヴィアちゃん家族が増えるよ




