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鍵魔法師のシロエールには秘密がある  作者: 木下皓
学園編【1年夏】私たちのサマーウォーズ
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世界樹の夏Ⅴ

まだまだ続くのです。みなさんどんな年末をお過ごしですか?

 会場には複数の貴族が既にグループを作っており、無数のコロニーのようだ。

 閉鎖された空間に何かが入れば自然と周囲は此方に視線を向ける。

 多彩な感情の視線という鋭い矢を一身に受けつつ、平然とした表情でゆっくりと優雅に進む少女。

 彼女本来の内心はその視線の矢だけで数日寝込みそうなのはおそらく身内しか知らないであろう。


「皆さまご機嫌ようなのです」


 軽く一礼し、シロエールは蠱毒へ足を踏み入れる。

 表面上どんな達人でも彼女が凛とし何の躊躇も迷いもなく歩みだしたように見えるだろう。

 百合の花は蠱毒の穢れに染まる気配はない。

 それに続きブランシュ伯爵も歩みをすすめる。

 エクレールは入ってすぐに他家のメイド達と同様に後方に待機。

 周囲の視線は値踏みするようにシロエールを頭から足の先まで見つめる。


「まぁ、新参者のくせに最後に来るなんて図々しい」

「でも顔だちがシルヴィア様の面影があって私は嫌いじゃないけど」

「目立ちたがりなのかしら?」

「シロエール……あの子が……」

「全く……男との間にうまれた下賤な小娘はこれだから」


 辛辣で否定的なのが大半と肯定的な意見が少数。これは想定内だ。

 伯爵家同士からすれば不貞の娘はさぞ格好の餌に見えるだろう。

 相手がどう思うかはこの際どうでもいい、私という存在をアピールする。

 ソレさえできれば後はリーゼロッテにお任せしちゃおうと丸投げを決行したのだ。

 それに、この中には『既に息のかかった人間』がいるのは確実だから。

 向こうも勝手にフォローしてくれるだろう。


 これは演劇だ。

 会場という舞台で如何にもな演技をするだけの役者。

 思ってもいないこと考えてもない事でも台本を読むだけでいい。


「皆様にお会いするに辺り、最初に入場して皆様をお待ちするという事も考えました」

「ですが、パーティで何時も最初にご来場していらっしゃるロッケンベル伯爵をさしおいて最初に入場するのは申し訳なく、ならば皆様が揃ってからだと思いましてギリギリの時間に入場した事をご容赦くださいなのです」



 ロッケンベル伯爵家はリーゼロッテお墨付きのベルフラウ侯爵家派閥の人間だ。

 建前だろうと『配慮をした』という事実に十二分に効果がある。

 噂で既にリーゼロッテと懇意にしているのは知れ渡っているだろう。

 でも、その噂は派閥としてではなく唯親しいだけの話だ。

 間接的にそうなのかもしれないという流れにはなるが確証ではない。

 大勢の前でそうする事で噂を濃く、確証へともっていくためだ。


 最も、一々後から来た人に挨拶しに行くのはシロエール的に面倒かつ心労の元でもあった。

 いっそ全員まとめてのほうが負担が少ないと考えた結果でもある。

 他にやり方はあったが彼女がこの空間に一秒でも居たくないから駄々をこねたのは言うまでもない。


 孫娘の立ち振る舞いに笑顔を見せるベルフラウ伯爵を見て中立だった何人かは下手に出始める。

 新たな跡継ぎを連れて出てきた久しぶりのベルフラウ伯爵。

 ガーランド学園から帰ってきた我が子や優秀なメイドを託っている人達は何組かいる。

 お蔭で伯爵家の中でも実物と現状の態度をみて更に陰湿な気配を内側に隠していった。

 どうやらこのままごり押しできそうだとシロエールは考えてしまう。考えてしまった。


「どうじゃ、楽しんでるー?」

 

 不意に一人、軽い口調の声が奥から聞こえてきた。

 一番奥の通路からズカズカと現れては堂々と席に座る一人の少女。

 煌びやかな宝石がはめ込まれた王冠を頭に被り淡い緑と白のドレスを纏っている。

 その少女は水色の髪の毛に深く蒼い瞳。見た目はシロエール位の幼子である。

 見た目に騙されてはいけない。彼女はああ見えて可也年配なのだ。

 そして、その存在感は異常だ。

 瞳からは絶対的自身と己が最高の存在だと揺らぎすらなかった。

 それはそうだ。彼女こそ、この国の頂点に君臨しているのだから……。


 アリス・ヒュドール・ベルフラウ大公。


 リーゼロッテの親族に当たる存在であり、この空間において最もヤバい人物ともいえる。

 彼女の機嫌を損ねればどうなることになるか……。

 

 彼女の左右には真っ白な髪とピンクブロンドの二名の騎士が佇んでいる。

 1人は厳格な雰囲気で如何にもベテランの騎士といった気を放っていた。


 もう一人は、そう、白く、白く、シロエールを雪というなら彼女は無地。

 白紙、空白、生命感を感じさせない虚無の白。

 無機質に無表情にただそこに立っている。

 感情どころか気配すらろくに感じさせないのが不気味である。

 シロエールも彼女も互いを一切意識しなかった。

 ある意味親子よりシンパシーを感じそうなほど互いに白なのにも関わらず。

 

 

 そして更にリーゼロッテやヒュッケ達も現れた。

 リーゼロッテの到着はシロエールにとっては救いに船である。

 そしてヒュッケが一体何をしていたのかシロエールは知る由も考えもしなかった。

 アリスとリーゼロッテが視線でのやり取りをする。


「ふふーん?ほほぉ?ほぅほぅ」


 二人がシロエールを見つめている。

 彼女の眼に止まりシロエールは心臓を鷲掴みにされたかのような気分を普通ならしているだろう。

 今は悠然とその視線を受け止めた。


「なぁ、貴女がアイナ・ブランシュの孫で相違ねーですか?」

「はい、シロエール・ブランシュ……なのです」


 あえて、ヴァイスカルトの名を語らない。

 シロエールはゆっくり頭を下げ、アリスの出方を伺う。

 品定めをするように、でも悪意の類は一切ない。

 まるで子供が新しい玩具に興味を示しているような感覚だった。

 

「ハハッ。良いな、良いではねーですか」


 高笑いし、従者が差し出したクッキーをがぶりとかみ砕く。

 行儀とは程遠いが誰もそれを咎める様子はない。

 彼女は女帝。この国の頂点なのだから。


「貴女、リーゼロッテと婚姻して私の後でも継いだりしねーですか?」


 ケラケラ笑いながら無邪気な笑みでシロエールに語りかけるアリス。

 しかし言っている事は可也穏やかじゃあない。

 シロエールの内心、シロエールが鍵魔法を使って封じ込められた本心は悲惨な状態にあった。

 今すぐにでもトイレに駆け込んで胃の中にある全てを戻しても戻したりない。

 残りの夏休みどころか絶対安静の療養を余儀なくされかねない。

 周囲の視線はそれ程痛かった。


 初対面相手にこの発言は火に油どころじゃない。

 火薬庫に大量の火炎蜥蜴サラマンダーの油をぶちまけて、最後は炎獄魔法イグニスの上級魔法を叩きこむ位の爆発発言だ。

 今すぐにでも冗談だと言って欲しい。

 あの笑みは冗談っぽく見えても内心そうじゃないとか思わせぶりすぎて逆に周囲を煽っている。

 それ以上にリーゼロッテが満更じゃないどころかその気満々な態度をとっている。


「な、ななな何をおっしゃりますか!」


 救済の如く、極々当たり前な反論してくれる人がいたと視線を向けてみた。

 が、シロエールはすぐにこれが救いの船ではなく藪蛇だと悟った。

 あの頭、どうみてもアレでしかない。

 多分、誰がどう見ても分かるだろう。お名前は?と聞く必要性を感じさせない。

 あの今にも回転しそうな縦ロールが全てを物語る。


 あれ、絶対キュリディーテの関係者なのです。


 この国で最も自分の事が憎いだろうその人物。

 今日のパーティにはキュリディーテの件もあって避けてくれないかと思ってはいた。

 その願いは虚しく普通にいらっしゃったようだ。


「なにさキルヒ。リーゼちゃんは聡い子だし。この子も優秀だって聞くし何か不都合がー?」

「この不純物の小娘をベルフラウの一族に入れること自体可笑しいのです!」


 不純物という単語にシロエールの笑顔のままイラッと擬音が浮かぶ。

 エクレールは今にも飛びかかりそうな程殺気立っている。

 ヒュッケはそんなキルヒをこやつの髪の毛どうなっておるのだと不思議そうな顔をしている。

 祖母であるアイナは無言の威圧でキルヒを見つめている。


 それでもシロエールは顔色、眉一つ動かさない。

 そんなシロエールの態度にキルヒはイラついたようだ。


「貴女が本当にあの娘を決闘で倒したのかしら?」

「……そうですが」

「一体どんな手を使ったのかしら?是非ご拝謁したいものね」

「別に、普通に戦っただけなのです」

「はぁ?あの子に普通に戦って勝てるって何かしら嫌味かしら?」

「ぉーぃ、キルヒ、勝手に白熱するんじゃねーです」


 アリスがカンカンと椅子の肘置きを叩き呼びかける。

 その表情は少し不機嫌そうで、キルヒも言葉を濁しながら失礼しましたと身を引く。


「だからさぁ、別にハーフもダークも森守種族エルフだし平等だって決めたじゃねーですか?決めた事なのに伯爵が何を言ってやがるですか」


 キルヒとアリスのやり取りを後目にリーゼロッテは笑ってる。

 シロエールは一目みて直観した。ああ、いい笑顔だ。絶対何か企んでる笑顔だと。

 普段から見ているあの目が笑ってないから。

 二人のやり取りが落ち着いたのを見計らいリーゼロッテが喋った。



「そうそう、キルヒ伯爵。貴女に横領の疑惑がかかっていますよ」



「な、何を言うのですか!ふざけないでください!?」

「んー?何?リーゼちゃん私初耳なんですが?」


 一瞬の静寂と共に周囲のざわめきと彼女の叫び声で話は一変する。

 グーデリアンのドリルがまるで回転してるかのように錯覚させるほど怒りを露わにする。

 キュリディーテといい、本当にこの一族の縦ロールはおかしい。


 シロエールはこの話は一切聞いていない。

 この展開を知っていればまだあのキルヒと呼ばれる相手に怖い思いしなくて済んだのに。

 と、少しばかりリーゼロッテに解せぬ思いを込めて視線を向けることにした。


 バンッと突然ドアが勢いよく開かれたと思いきやぞろぞろと何人かの騎士達が出てくる。

 まるでこの展開を事前に知っていて見計らったようだ。

 各々、武器はバルディッシュやクレイモア、短剣からモーニングスターと統一感は一切ない。


 鎧に関しても総て形状が異なっている。

 ただ、唯一共通点があるとしたら各々の装備の何処かに赤い一輪の薔薇の模様が描かれている事だろう。

 彼女達をみて貴族の一人が呟いた。



「まぁ、ローゼンがこんな所にまで」


私は年末年始仕事です(にっこり

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