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鍵魔法師のシロエールには秘密がある  作者: 木下皓
学園編【1年夏】私たちのサマーウォーズ
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世界樹の夏Ⅳ

もうすぐ2016年ですね

 エルダー特区の隣にある宮殿。

 このアルテミス公国の政治の中心ともいえるこの場所が舞台だ。

 普段は偉い貴族達がや公爵が政治の話や食事会、はたまた互いのけん制を日々しあっている。

 今宵もまた同じようなもので、社交場という探り合い自己顕示の示しあいが始まるのだった。


 聖白百合騎士団リーリエブルグの騎士達が門の前で招待状を確認している。

 どれもこれも女爵(アルテミスでは男性がいないため男爵をそう呼んでいる)より上の階級。

 子爵以上のものばかりである。

 城門の警備を担当している騎士は女爵や准女爵の娘が殆どだ。

 下手な事をしたら家の存続すら危なくなるので恐ろしく真面目である。

 特にピリピリしていたグーデリアン家の相手をしていた時は内心ビクついていたものだ。

 担当していた緑髪の長い髪を三つ編みにしていた騎士はグーデリアン家の事は嫌いではなかった。

 むしろ懐古的で歴史を重んじるせいで新参者に厳しい中、新しい事に手を出し続け成り上がる。そんな家に対し一種の憧れを抱いていた。


 我先にと2時間以上も前から笑顔という仮面を被り、言葉を着飾り相手の出方を伺う会話という地獄は始まっている。一度会話のグループに置いて行かれたり好ましくない相手の出方次第では孤立は必至である。

 そのせいか開始前になる頃には門前は落ち着いているのであった。


「あー緊張したぁ、ねぇこれでリストに載ってる参加者全員だっけ?」

「んー……おや、まだ一組残ってるっぽい」

「開始ギリギリなんかにきたら小姑な人達に何言われるか……何処の誰よそれ」

「えっと……え、ちょ」


 一番最後というのは目立つ。それだけで目を付けられるし中にはここぞとばかりに嫌味や蹴落としにかかる者も少なくない。

 そもそも開始10分前にも拘らずまだ来ないというのもアレなのだが……。

 リストから最後の組を確認していた一人の騎士がその存在に頭を抱えていると馬車が近づいてくる。

 それに気づいた騎士達は急いで門の前に綺麗に立ち出迎える準備をする。


 門の前に止まる馬車。メイドの一人が急いで扉のドアを開く。

 まず最初に降りてきたのはこの国では珍しい半獣種族ワービーストのメイドだった。

 アルテミスから出たことがない彼女達は初めて見る者もいる。彼女等がそうだ。

 メイドがエスコートするように手を差し伸べ、降りてきたのは白。


 まるで雪のように自然な美しい白であった。

 白い肌、白と淡い緑のドレス、銀色の髪を靡かせ降りる少女。

 ふわりと降り立つ少女の可憐さ、自分たちの騎士団名である白百合リーリエそのものに見えた。


「ごきげんよう」

「は、はいっ」 


 微笑みながら白い少女はスカートの裾を掴み愛嬌のある挨拶をする。

 騎士達はピシッと背筋を伸ばし彼女に敬礼を返す。

 犬のような耳を生やしたメイドが招待状を差し出してきたのでそれを受け取る。

 封の中身を確認し、照合する――。

 紙の質や筆跡だけでなく魔力も含めて問題なく本物だ。


 あと一組だったため照らし合わせする必要が無かったためスムーズに終わった。

 次に出てきたのは騎士達は何度か顔を見たことがある存在であった……。

 ブランシュ伯爵だ。

 確認していなかった騎士達は一斉に確認していた騎士に対して

 『何でもっと早くに言わなかった』という視線を投げていた。


 ブランシュ伯爵家は次女を次期後継者として選んでいた。

 その次女が事故でお亡くなりになって以来、殆ど社交の場に出なくなったのだ。

 一部では事故ではなく『暗殺』だのと噂が後を絶たなかったが。


 ふと、一人が白い少女の耳の半端な長さに気が付く。

 同時につい最近、学校から帰ってきた生徒達から流れてきた噂を耳にした内容を思い出す。


 ブランシュ家の新しい跡取り娘。

 

 恐ろしく強く、希少な半森守種族ハーフエルフかつ鍵魔法師キーウィザードだと。

 立ち振る舞いは様になっているが強そうには見えない。

 どちらかというと付き添っているメイドの方が強い雰囲気を醸し出していた。

 どことなく高圧的で今にも噛みつきそうな気がしたのは気のせいだろうか……。


 門を抜け、近くに人がいないのを見計らったようにシロエールが喋りだす。


「ねぇ、エクレール」

「何でしょうかお嬢様」

「貴女緊張しすぎなのです。先ほどから顔険しいのですよ」


 お前がそれを言うのかという突っ込みは今この場には届かない。

 シロエールはエクレールの頬を軽くつまむ。

 いひゃひゃいと頬を伸ばされエクレールは年相応の顔をする。

 エクレールにとっても一種のデビューである。

 アーレスでは姫のご友人という立場から然程緊張するような場面に出くわさなかった。

 しかし、今回は主人であるシロエールの正式な社交デビュー。

 将来の筆頭メイドとしてしっかりしないといけないという気持ちが表情からも出ている。


「私はともかく、お嬢様はこんなに早く鍵魔法アレを使って大丈夫なのですか?」

「さぁ……どうでしょう。あの時点でもう私の胃は危険だったのです」


 あー……と悟ったような表情になるエクレール。

 パーティが終わったらすぐに介護の準備をしないといけないなと思うのであった。

 人数を数えると、この場には昨日いなかったヒュッケを除いても一人足りない。


「フレイヤちゃんは本当に来なくてよかったのかしら?」

「彼女にも彼女也の考えと事情があるのですよ」


 そう、フレイヤがいないのだ。

 分かりやすく、いない理由を語るならば彼女の家庭の事情。

 それがシロエールに対し相手に付け入る隙にならないように配慮した結果だ。

 ヘスティアの国家反逆の罪の姉をもつ妹は静に与えられた部屋にて……。


 貸し出してもらった書物を嬉々として読み耽っていた。

 むしろそちらが本命なのではと疑う程度に。



 かくしてシロエール達が通り過ぎ、リーリエのみとなった城門は落ち着きを――取り戻さない。

 それどころか皆、話に花を咲かせ盛り上がっている。

 お喋りな女性が多い職場では新たな話題に花が咲くものだ。


「ねぇ、あれが噂の?」

「間違いないね。既にベルフラウ侯爵家と繋がりがあるって聞いたよ」

「それ、どれの?」

「確かアクアの方」

「うわぁ、これは勢力図が大分変りそう……」

「だからうちのトップも来てるってわけね」


 喋りながら後片付けに入る騎士達から斜め上辺りにある塔。

 門前での一部始終を塔の窓から2人の騎士が眺めていた。

 そしてその部屋には更に3人の騎士。

 一人は眠り、一人は書物を読み、一人は時計を眺めていた。

 彼女達の鎧はそれぞれここの特徴を活かしているのか基本は一緒でも多少の差異が見られる。

 そして、他のリーリエより華やかな白百合の紋章が刻まれていた。


「あーらら、来ちゃったかー。まぁーそうだよねぇ」


 窓際に座って門での一部始終を眺めていた一人の騎士が呟く。

 少し間の伸びた声と気怠そうな態度が特徴的で蒼い髪に青い瞳の騎士が最初に言葉を発した。

 年齢は20になったばかりに見える位で長いロングヘア―を毛先で黒いリボンで結ってある。 

 そして彼女の最大の特徴は強いてあげるならばそれは胸部であろう。

 その胸は豊満でありこの中では最も大きく他の騎士の鎧に比べて谷間が強調されている。

 

「ねぇねぇ、メルクーリェ。あの白い子、まるで団長に雰囲気似てるけど、本当に強いの?ねぇねぇ!」


 子供っぽい無邪気な声を響かせながら鮮やかな緑色の髪のポニーテールを揺らす少女。

 ピョンピョンと軽快にジャンプをしているせいかスカートが際どいラインを晒している。

 年齢はそう、シロエール達より少し年上にみえるくらいだろうか?

 この中では最も背が低く体躯も子供そのものである。


「ジュディさん、いい歳なんですからもっと落ち着いてください」

「マーティスちゃん。この淑女レディな私にそれはないでしょ?」


 その言葉にぷーっと口を膨らませる緑髪のジュディ。

 どうやら彼女は外見や態度、言動とは裏腹に年長者のようだ。

 そして、そのジュディを咎めたのは赤に近いピンク色の髪の毛の女の子。

 年齢はそう十歳半ばといった所で縁無しの眼鏡が性格と相まって所謂委員長らしさを醸し出していた。

 背もスタイルもこのメンバーの中では真ん中といった所だろう。

 眼鏡越しのジュディへの目線はナニを言ってるんだお前はと語っている。


「はいはい、皆さん。そろそろ私たちも向かわないと駄目ですよー」


 手をパンパンと叩く金色のシフォンミディアムヘアーの髪を揺らす少女騎士。

 彼女の言葉に皆適当な相槌を打ちつつも大人しく従っている。

 ちなみに背はこの中では2番目に小さく、胸は2番目に大きい。

 年齢もマーティスと然程変わらないと思われ、他の騎士よりも手や脚の一部が重装甲になっている。


 そして何よりも己の背丈に近い巨大な盾を軽々と背負っていた。

 素材は恐らくオリハルコン、ヒヒイロカネと『何か』を使った聖盾、魔盾の類だろう。


 むーっとした表情の金髪の騎士をみて視線を眠っている騎士に視線を向けるジュディ。

 

「ほーら、サトゥルニ!起きないとヴェネリスちゃんが怒っちゃうよ☆」


 ジュディがソファでうたた寝をしていた女性に飛びつく。

 ボフンッという軽快な音と、ぐもったうめき声があがる。

 いくら小さい身体とはいえ勢いをつけて飛びつけば痛いのは当たり前だ。

 恨めしそうにジュディを睨み付ける黒っぽい焦げ茶色の髪を結ってアップヘアにしている女性。

 年齢は20代後半だろうか、喋ろうとする気配はなくジュディの頭を手甲をつけたままグリグリした。


「ギャーー!イデデデデ!手甲は無し!冗談抜きで痛い!」

「バカな事してないで早く行きますよ!?」


 彼女らは聖白百合騎士団リーリエブルグ七曜の騎士。

 リーリエのトップに立つ者たちである。

 


 リストがすべて埋まり後片付けも済んだリーリエの騎士達は門を閉じる。

 普通なら豪華で優雅で庶民の憧れの場所と称されるであろう場所。

 だが、内面を知り、見方を変えると……そこは檻の蠱毒。


 男が消えた後に生れた欲望と陰湿。過去の大戦が生み出した女の国。

 悪徳と野心、傲慢と混沌を煮えたぎる魔女の釜でかき混ぜてブチまけた、

 ここは不夜の城。

まだアルテミス編続投

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