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鍵魔法師のシロエールには秘密がある  作者: 木下皓
学園編【1年夏】私たちのサマーウォーズ
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世界樹の夏Ⅱ

お久しぶりです予定月をまたいでる気がするけどきのせいでありたい

「シロエールいらっしゃい。いいえ、お帰りなさい」


 扉が開かれると正面の階段の上から祖母達の声が聞こえた。

 見上げると美しいドレスを身に纏い二人の女性が此方へと降りてくる。

 シロエールが前に会ったときと何ら変わらず若々しい風貌だ。

 知らない人がみたら母の姉と言っても疑わないだろう。

 森守種族エルフは必ずしも歳をとらない種族というわけではない。

 他種族と比べると比較的長寿であり世界樹内ではそれが顕著だ。

 老化に関しても自分の意思で抑えていたり逆に若返っている事例もある。


 半森守種族ハーフエルフは前例が少ないため寿命や老化に関しての記述が少ない。

 その数少ない前例の私はというと、もう少し成長したいなと思う。

 

「ただいまです。お祖母様方」


 シロエールは丁寧に挨拶を交わす。後ろに控えてる皆も続いてお辞儀する。

 頭を下げたシロエールはダラダラと冷や汗を流している。

 慣れぬメイド達の視線は彼女の胃をキリキリと蝕む。

 別に否定的な視線ではなくむしろ好意的なのだがシロエールには関係ない。

 でも、それだけだったならまだ耐えられる。

 それ以上に、祖母達が必ず言うはずの内容が怖いのだ。

 

 かつてシロエールには選択権があった。


 ブランシュ家を継ぐか、継がないか。


 大国の一つであるアルテミスの伯爵という立場は大きい問題だ。

 期限は卒業までと長く、一生に関わる事だから安易に考えるべきではない。


 にも関わらず、1年生のしかも1学期でシロエールはそのカードを大衆の面前で使ってしまったのだ。

 まともに家の事を考えたうえで速断したのならまだ良い。


 理由が一人の少女を苛めてる貴族を物理的にも社会的にも潰すためという点が問題だ。

 夏休みに入って既に帰郷した者達によってあの話は広まっているだろう。

 それどころかあの学校に家の息がかかった生徒がいるかもしれない。


 冷や汗をダラダラ流しつつ何時、どのタイミングで、あの話を持ち出されるのか。

 一瞬一秒がシロエールにはとても長く感じていた。

 するとそんな中、リーゼロッテが前にでる。


「御機嫌よう、ブランシュ伯爵」

「これはこれは、ベルフラウ侯爵令嬢様ではないですか」


 リーゼロッテに乗じてヒュッケも軽く会釈してから祖母達の元に近づき何やら会話をしている。

 今のシロエールには何を話しているのか聞き取れておらずその様子をぼんやり眺めているだけだった。


 話が一区切りしたのかシロエールへとリーゼロッテが軽くアイコンタクトをする。

 そして間もなく、祖母達はリーゼロッテとヒュッケと一緒に書斎に向かっていった。

 取り残されたシロエール、エクレール、フレイヤに書斎から出てきたメイドに声を掛けられる。


「お嬢様とお連れのお方はお部屋の方にご案内いたします」

「あ、はいなのです」


 シロエールの荷物を受け取ろうとするメイドに対しエクレールは私の仕事だと言い張り荷物を運ぶ。

 フレイヤは屋敷をキョロキョロと見渡しながら特に芸術品に興味があるようだ。

 シロエールの部屋へと入るエクレールとシロエール。

 フレイヤはどうやら案内された部屋に荷物を置いたらメイドの人に屋敷を案内してもらっているようだ。

 エクレールに服を脱がしてもらったシロエールははしたなくそのままベッドに飛び込んだ。

 ぽふんっと軽快な音を立てて柔らかいベッドに彼女の軽い身体が沈んでいく。


「お嬢様はしたないですよ」

「エクレール。ここは私の部屋で、私は今、疲れた精神を癒しているのです」


 見慣れぬ、天蓋をシロエールは見ていた。

 前来たときは母と添い寝だったが今は自分専用の部屋がある。

 私に爵位を譲り、血筋を絶やさない為に嫌々受け入れたわけじゃない。

 だが、私が半森守種族ハーフエルフですらなかったらどうなっていただろう。

 母と祖母達は仲直りする事が出来ないままだったのだろうか?


 そもそも半森守種族ハーフエルフ黒森守種族ダークエルフが何故存在するのだろう。

 半獣種族ワービーストのように科別で付けられることもなく、別の種族として扱われていた。

 森守種族エルフにはそれだけ排他的扱いをされてきていたが……。

 ここ近年でハーフ、ダーク、ノーブルと三種科にわけようという話も出ているらしい。

 しかし私以外の半森守種族ハーフエルフを未だに見たことがないだが本当に他にいるのだろうか?

 黒森守種族ダークエルフの少女はこの目で見たので0ではないのだろうが……。

 

「……そんなの考えたって分かるわけないのです」

「?」


 シロエールは何も考えないよう眼を閉じて意識を深く落としていった。

 眠りにつく彼女をエクレールはただ見つめる。




 とある一角の大きな貴族の屋敷。

 比較的新しい貴族区画にあり他の年季のある屋敷に比べてまだ歴史をそう感じさせない。

 家主の趣のせいかやけに派手である。

 目立ちたがり屋の新参者、そう陰で言われているこの貴族の名はクーデリアン。

 シロエールが叩きのめしたキュリディーテの実家である。

 屋敷内はピリピリと重苦しい空気を醸し出していた。

 この空気は少し前、炎極帝の出現より前に遡る。


 書斎で床に正座する2名。

 キュリディーテの下についていた彼女達は学園での出来事、そして彼女の失踪の件を伝えていた。

 一つ、また一つと説明するたびヒステリー気味にダンッと机を叩かれる。

 叩かれるごとにビクつきながら視線を向けると、書斎の主は特徴的な縦ロールが回転しているのではないかと錯覚するほどの怒りを露わにしている。

 彼女はキルヒ・グーデリアン伯爵、キュリディーテの母の一人にしてグーデリアンの直系である。


「で、娘は今も行方不明ということでよろしいのかしら?」

「は、はひ、地下の通路を使っているのは確かなのですが何分入り組んでいるようでして……」


 ダンッと再びキルヒが机を叩く。


「あの子には我が家をもっと発展させる為に惜しみなく教育したというのになんて無様なのかしら」

「お、お言葉ですがキルヒ様……正直シロエールという子は異常です」

「キュリディーテも十二分に持て囃されていたじゃない」


 若くして将来を期待されていたキュリディーテ。

 彼女なら新参者と嘲笑う老害共をひれ伏せさせこの名をもっと高みへと誘うと信じていた。

 それが入学したての、男との間に生まれた穢れた半人前の半森守種族ハーフエルフの小娘に負けたのだ。

 しかもブランシュ伯爵家の跡継ときたものだ。

 老害共は今頃、新参者が古き血筋によって粛清されただの、調子に乗るからこうなるだの私達を、私を見下しているだろう。

 キルヒはそう考えてしまうだけで怒りが嘆きが込み上げてくる。

 彼女にはもう一人、子供がおり次女の名をミルヒリーテ。

 ミルヒリーテは優秀な子であるが、あくまで凡人の枠から見た話だ。


 キュリディーテが帰ってこないようなら彼女に見切りをつけてミルヒリーテを跡継ぎに据えるしかない。

 もし、帰ってくればまだキュリディーテの実力なら汚名返上も可能かもしれない。


「……報告はもういい。彼方達は帰りなさい」

「は、はいキルヒ様」

「し、失礼しましたっ」


 二人は逃げるように部屋を後にする。

 彼女達の足音が遠ざかり間もなく静寂が訪れた。


 ガシャンっと花瓶の割れる音が執務室から聞こえる。

 その後キルヒのヒステリックな叫び声と物に当たり散らす音が屋敷に響いた。


「ふざっけんなっ!私が!!どれだけ!頑張ったと思ってるのよ!」


 祖母が偶然手に入れた爵位をここまで上げたのは私だ。

 戦争の無いこの大陸では武勲なんて早々あげられない。

 難易度の高いダンジョンを攻略して普通では手に入らない品物を献上して爵位を得るものもいる。

 私は考えうる範囲で色々やったのだ。

 金を得る為に余所の国の女性が好みそうな特産品を手に入れそれを国内に流通させたりもした。

 その時偶然闇ルートで発見した過去の戦争時代から行方不明になっていた公爵家縁の品の数々。

 それを献上する事で地位を上げ更にビジネスの幅を広げていった。

 下級貴族という名の蠱毒の中で必死で足掻いてやっと手に入れたのだ。

 そして才能に溢れた跡継ぎも出来たというのにこのような事態になってしまった。


 ああ、キュリディーテ。貴女は今何をしているというの。

 早く帰ってきなさい。国の為に、グーデリアン家の為に……私の為に。

 キュ大事リデ道具ィーテ





 母親が子供を道具と呼ぶような時にガーランド学園の方では不穏な事態がゆっくりと進んでいた。


「こっちはどうだ?」

「ダメだ、一体どうなってやがる」

「風の音が入り乱れていてかなり複雑になっていますね……」


 元々新旧入り乱れた地下水路は複雑だったが地下水路らしく稼働はしていた。

 だが、今では設計図ですら役に立たない悲惨な状態になっている。

 彼らはキュリディーテの捜索と結界に綻びがないか学園から派遣されたOBである。

 当時の学年上位陣で構成された彼らは可也名が知られており色々な調査を生業としている。


 ひとりの女性が探索していくうちに違和感を覚える。

 恐らくキュリディーテが造りかえたと予想されるこの水路は好き勝手にやった結果だろうと思う。

 でも瘴気や陰気オドは無いもののこれはまるで迷宮ではないか?

 通路は造りかえられ歪な蜘蛛の巣の如く変化しており無駄が多い。

 これをたった数日でやれるものなのか?


「ねぇ、これを作った彼女って本当に学生なのかしらね」

「まぁ今期の第二種魔法学部の総合3位の『交響楽団オーケストラ』様ってのは確かにすげえな」

「2位と1位はどんだけだってんだよ……」


 第二魔法学部の2位と1位は確かに存在する。

 単純に戦った上でキュリディーテより強いのかどうかは分からないが……。


「でもよ、そいつをコテンパンにしたのって新入生なんだろ?」

「確かシロエールって名前らしいわね」


 彼女の話になると必ず付き待ってくる新入生の話。

 キュリディーテがどれだけ評価されても彼女の評価を上げてしまう材料となってしまう道化だ。

 その話題を出した事が彼らの最大の過ちだったろう。


 最初は風の音だと思った。

 でも直ぐにその考えは訂正する事になる。

 尋常じゃなく背中に何万もの針が突き刺さるような殺気が全方向から来たからだ。

 徐々に深く、鈍く、恨みがましく、一言一言が怨念にすら聞こえる。

 聞いた人間がまるで地獄の底から聞こえてくるような気持ちにされる。


「……私の……私の中で、あの小娘の話をするな!」


 次々と通路が変形しゴーレムへと変貌していく。

 その形状は人型もいるがもはや形状しがたい異形の物体もいる。


「ッ逃げるぞ!」

「無理ね、ここは地下通路なんてものじゃないわ」


「一つの化物の腹の中よ」


 一瞬で悟った女性は調査という仕事柄、時には危険な隠密業もしてきた。

 故に、即死性のある毒薬を奥歯に仕込んでおりそれを使った。

 圧殺か轢殺か撲殺か分からないが即死できなかった者達は断末魔をあげながら死んでいった。

 水の流れる音だけになる頃には死体どころか誰かが通った痕跡すらない。


「ケヒ、ヒアハハ、新しい玩具が手に入っちゃったぁ」


 

タイトル修正しないまま投稿してたなんてことは気のせいです(土下座

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