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鍵魔法師のシロエールには秘密がある  作者: 木下皓
学園編【1年夏】私たちのサマーウォーズ
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世界樹の夏Ⅰ

 ヴァルフリア大陸――。

 南方に位置するこの大陸は沢山の自然と精霊の加護を受けた大森林が生い茂っている。

 大森林の中心には世界樹が存在し自然の恵みが豊富な為、青果や材木の輸出率は世界最大だ。

 世界樹の恩恵により他の大陸と比べて陰気オドが薄く、魔物の発生率は可也低い。


 クロノス王立大図書館に現存する2等級一般閲覧可能書籍の資料から抜粋すると、世界樹は今まで一度たりとも如何なる軍勢をもその地に足を踏み入れさせたことはないらしい。 

 理由としては精霊の許可をなくしてこの森に入ることは下手をすると一生出られない場合もあり、下手にテリトリーを荒らすと森にすむ獣どころか森自体に襲われる事となるだろう。


 立ち入る際は必ず現地のガイドを務める森守種族エルフから許可証を貰い、彼女達から離れない事をお勧めする。

 ちゃんと定められたルールさえ守れば女性なら過ごしやすい。

 実際私も予定より一週間長く滞在した位だ。


 何故、女性に限るか?

 この大陸に住んでいるのは殆ど森守種族エルフだからだ。

 森守種族エルフは男を嫌う。と言うのは昔ながらの風習とも言えるだろう。


 しかし今の時代、文化交流が増える世の中だ。

 カールディア大陸、タカマガハラ大陸側に近い場所は森守種族エルフだけでなく他の種族も住んでおり、そこの森守種族エルフは大分男性慣れしている。

 港街は流通の拠点として築かれた為、長年様々な男女の種族と交流しているから自然と慣れていったという背景がある。


 そこまでだと男性も問題ないのでは?となるが大森林以降はそうはいかない。

 女性のみの暮らしで、下手をすれば一生男性と出会う事のない森守種族エルフが普通に存在する。

 彼女達の男性に対する嫌悪感は昔から変わらず邪険な態度をとる者のほうが多い。

 首都キュベレーに至っては上層の方は如何なる理由があっても男性を通すことは無い。


 ※女性に冷たい視線や待遇を受けて喜ぶ特殊性癖を持つ一部の男性には一生の内に一度は行きたい聖地などと呼ばれているらしい。


 世界樹――。

 その天辺は雲の上まで届くほどの巨大な樹木だ。

 その樹の中は通常の樹木とは違い迷宮と似たような造りになっている。

 一説によるとかつては迷宮だったのではないか?と言われている。

 世界樹の最上階層には聖獣クラスばかりが住み着いている場所らしく森守種族エルフの中でも極一部の人間しか立ち入れない。

 そして、そこには生きた伝説が住まうと言われている。

 『翠の王』、一般的に知られているのは『嵐極帝』という呼称であろう。

 森守種族エルフはこの国を世界樹とそれを総べる王とした嵐極帝から認められた国として大公国と名乗ったという歴史がある。


 以前、アマツガハラ大陸の話の際に極帝繋がりで『炎極帝』ヒノカグツチの伝承がある事を書いたが嵐極帝の名は今現在、秘匿されている。

 かつては世界樹に住む森守種族エルフ達はその名を知っていただろうが今では大公関係者のみがその名を知っているらしい。

 古い書物には嵐極帝の風は全てを飲みこみ、薙ぎ払い、消し去る。その涙は全てを癒す位しか記されていない。

 


 さて、話は逸れたが迷宮状態の世界樹を登るのは大変だと容易に想像がつくだろう。

 だが、世界樹の加護を受けた森守種族エルフがある詠唱を唱える事で迷宮を省いて直接キュベレーがある階層まで行くことができるのだ。

 補足するとその詠唱を唱えた森守種族エルフが認めれば周囲の人間も一緒に移動できるのでご安心を。


 首都キュベレー。

 世界樹の麓にある下層キュベレーと世界樹中層にある上層キュベレーの2つに細分化される。

 下層キュベレーは大森林の木々を用いた木造や石造りの建築物が多く他国の首都と比べて堅牢さという要素があまり見受けられない。

 下層に住んでいるのは全員、平民達であり時には何らかの理由で階級を剥奪された貴族もいる。

 騎士団の訓練場や宿舎も下層にあり、貴族のエリートも一時期は此方で過ごす事になる。

 


 上層キュベレーは遥か昔に世界樹と契約した古き森守種族エルフにより住まう事を許された秘境。

 数少ない他国からの来訪者がその光景を見て世界樹の不夜城と呼んだらしい。

 その名の由来は世界樹の中にある為、元から日差しが殆ど入らないのだが世界樹の中には森守種族エルフから『エーテルライト』と呼称されている光る苔が原生している。

 それを光源として用いる事で一昼夜問わず幻想的な灯りに包まれた国、だから不夜城なのだ。

 世界樹の中階層にある内の一階層に存在していたが、数千年を重ねて拡張を続け今現在三階層分まで達している。

 しかし、ここ数百年の間で階層が増えそうな状態となってきている。

 一部では拡張が行き過ぎではないのだろうか?と口に出すものもいるらしい。

 それに対し、世界樹がスペースを作っているのだから問題はないと貴族は主張しておりこの話は長い間平行線をたどっている模様だ。

 

 キュベレーといえば世界樹産の香水や薬草風呂が私のお気に入りだ。

 食事の方は大森林で獲った肉や魚を香草に包んで蒸したもの、世界樹のチップで燻製にする等、世界樹の恩恵を使った料理が特徴的だ。

 野菜や果物中心の食生活だと思われがちだが基本的にバランス的な料理かつ見た目を重視しており他にも美容に良いとエステやマッサージのお店も幾つもある。

 女性だけで旅行に行きたい、男性との恋で傷心の女性は一度ご検討しては如何だろう。


『世界渡航のススメ第十七版』 著者、ルミア・クロウフォード。




「凄く綺麗……何だけど派手というか何というか」

「見栄っ張りが多いのですよこの国は」

「あらあら、確かにこの街は他と比べたらそうかもしれないですねぇ」


 馬車を引いているのはユニコーンと呼ばれる聖獣の一種であり一角の白馬だ。

 一同はガラス越しに上層キュベレーの貴族特区を眺めている。

 煌びやかで大きな館が近くの相手より豪華に相手より高く、相手より美しく、隣の芝が青くみえなくしようと言わんばかりに互いに増築、新築を繰り返した結果である。

 特に貴族になってから新しい家名に多くみられ、歴史ある高い階級の家は古くから続く屋敷を風情あるものとして外装はそのままに大事にしていたりする。


「ほう、樹の中に川が流れておるのう」

「底の方にもエーテルライトだっけ?それが生えているから光って見えるのね」

「川魚も住んでいますからそれが動く模様になってさらにきれいに見えますよ~」


 世界樹の精気マナを潤沢に取り込んだ水は世界樹の雫と呼ばれ様々な効果があると囁かれる。

 外界では高値で取引される水だが源泉に対する貴族達の利権や輸出量の制限で更に価値が上がっている。


 フレイヤとヒュッケが景色を眺めて賑わっている中、シロエールの表情は硬く物憂げだった。

 シロエールは凄く気が進まない。

 頭の中でヤダ、面倒、辛いが入り混じって溶け合い、ゲシュタルト崩壊を起こしそうになっている。

 彼女はブランシュ伯爵家が余り好きではない。

 別に祖母達が嫌いなわけではない。伯爵という口にするだけで重くのしかかる爵位が嫌いなのだ。




 最初に祖母等に会いにキュベレーに来たのは何時ごろだったろうか?

 そう、確か……空が、地面が、風景が白く、真っ白でそれは純白のキャンパスのよう。自分の写し鏡のような深々と降り積もる雪の季節。

 シロエールの7歳の誕生日を迎える頃だった。

 

 当時の彼女はエクレールや幼い妹のシルヴィアを含め、連れて行こうと提案したのだ。

 初めての国外旅行であり、クロノスが男性であったが故にヴァルフリアの事は『知識』でも世間一般程度の情報しかなく殆ど役に立たなかったのだ。


 完全な未知なる世界に対し、シロエールは興味があった。

 しかし出発する原因となったこの間届いた手紙の内容に問d題があったのだ。私の叔母にあたる母の妹が死んだという悲報。

 あの時の母の悲しい顔は忘れられない。自分もシルヴィアが亡くなったらきっとああなるのだろうか?


 両親から「シルヴィアは船旅させるにはまだ幼すぎる」という事とメリーから祖母等に謁見させるにはまだまだ未熟と判断されエクレールを置いていく羽目になり、母と武に長けたメイド達数名となったのだ。

鍵魔法でパッと移動出来れば良かったのだが世界樹の内部を一切イメージ出来ないため流石に出来なかった。


 いざキュベレーの貴族特区に入ると私は沢山の視線を向けられた。

 単純な好奇心もいれば蔑んだ視線、警戒するもの、取り繕うと伺う者等、多種多様、千差万別、シロエールの嫌いな混沌とした視線の波が彼女を恐怖させ気分を悪くさせる。

 必死で柔らかい表情を取り繕いながら内心ビクつき母の袖をずっと掴んでいた。

 そしてグレーシアはシロエールの変化に気づき優しく撫でる。


 彼女の目の前には今住んでいる屋敷よりも倍以上に広く歴史を感じさせる外装だった。

 ある一定の奥まで入ると落ち着いた雰囲気の屋敷が増えたのに気付いた。

 グレーシア曰く「この辺りは歴史のある貴族の家がおおいからこの辺りは昔通りの風景で安心したわ」だそうだ。

 門がゆっくりと金属音を響かせながら開かれると入口までズラリと並ぶメイド達。


「「お帰りなさいませ、グレーシアお嬢様」」


 一糸乱れぬ動きと声が彼女たちの練度の高さを分からせる。

 グレーシアは「ただいま」と声をかけシロエールはおずおずと挨拶する。

 中へ案内されるとグレーシアが使っていた部屋へと連れて行かれる。

 メイドに衣装部屋から昔グレーシアが着ていたドレスを何着か持ってこさせそれを身に纏うシロエール。

 母はその娘の姿に大喜びで抱き着き、母を子供の頃から知っているメイドも感慨深いものであったろう。




「ねぇ、シロエールってばっ」

「え?あ、どうなさったのです?」

「馬車止まったからここじゃないの?」


 窓を見るとそこには子供の頃にきたあの屋敷があった。

 とうとう着いてしまったと軽く一息をつき、シロエールは馬車から降りる。

 エクレールはメイドとして恥じぬよう完全に仕事モードに入っていた。

 リーゼロッテはブランシュ家と交流はあっても屋敷に来たことは初めてだそうだ。


 門が開くとあの時と変わらず一糸乱れぬ動きでお辞儀をするメイド達。


「「お帰りなさいませシロエールお嬢様」」

8月に長期休みに入る予定で夏休みが被るほどになってしまいました。

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