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夏休みの始まり

最近転職を考えてます私です。

みなさん最近気温の変化が激しくなるでしょうから体調管理に気を付けてくださいね。

 1年前のある時ある場所で――。


「どう?すっごいでしょう!」

「うん、凄い……綺麗なのです」


 目の前が金色に染まる世界。

 天然の金色は無駄な装飾が施された豪華絢爛な装飾等とは比べ物にならない程に美しく、圧倒された。

 風が運んでくる自然の香り、人々の働く笑顔も輝いていた。

 白い少女はこの風景を来年も龍の少女と一緒に見ようと約束した。




 臨海学校が終わってから帰航して三日目の朝。

 入学式と同様に、いや生徒の規模は何倍も膨れ上がっている。


「皆さんおはようございます。えー月日が経つのは早く、もう1学期も終了となりまして――」


 長く退屈な校長先生の話が行われている。入学式と何処が違うとすれば生徒の規模だろう。

 1年の数だけでも多かったのにその9倍以上、約2万人がこの場にいるのだ。

 大聖堂の様な場所から一転、円形状に広がる4階建てのホールとなっている。

 ドーナツのように真ん中をくり抜いた中心に校長は立っている。

 

 校長という人種は、何故こうも退屈な時間を創り出す天才なのだろう。

 中には例外も存在しうるかもしれないが対面した事のある生徒は羨ましい限りだ。


「私の若い頃は――であって―――」


 教師達は生徒が耳を傾けずヒソヒソと内緒話をしたり堂々と眠っていても関与しない。

 校長が自分の話に夢中で聞いている側を意識すらしていないのだ。

 話をしている間は何をしていても問題ないので放置の方向で教師陣の中で決まっていた。


 かくして我らのシロエールはというとこの場におらず、案の定保健室にいた。

 彼女今じゃ立派な侯爵の跡継ぎであり特別席に連れていかれそうになったからだ。

 アカネやリーゼロッテ、エクレールも一緒に行くことが出来るがそれでも彼女の胃や心がそれを拒む。

 そして、シロエールは軽い貧血のような症状を引き起こした。


 第七魔法学部の学棟保健室、こことラミー先生のいる保健室が学園内の彼女の安息の地である。

 この1学期何かの呼び出しや大衆の前に出ることがあるとこうして体調不良を訴える。

 キュリディーテの事件のせいで本来の彼女の気質は知っているものは少ない。故に中には嫌いで仮病を使っているのだろうと思う人もいるだろう。

 だが、シロエールの立場は実力的にも交流的にも個人の身分的にも高い。

 口出ししようとする人間もいなければそもそも保健室どころか完全にサボりを決めている人間は一定数存在する。

 わざと終業式にギリギリ間に合わないように迷宮ダンジョンに潜るものもいれば参加する気がないと帰る準備に勤しむ貴族だっているのだ。


 不人気な終業式は生徒だけには留まらず教師陣は休んだりサボる事はさすがにないが殆ど聞いている素振りはあまりなかった。


「教師っていうのは学生と同じ休みがあっていいですねぇ~」

「いやいや、やる事あるでしょう!?」

「え?あるわけないじゃないですかー」

「彼女に何言っても無駄ですよ。去年から申請しつつ、既に夏休み分の仕事終わらてますから」

「夏休みの課題をすでに終わらせた学生みたいな人ですね……」

「まぁ今年は彼女学園に残ってやる作業も会議もないですしね」


 アメリア・モードレッドは水筒に入れてあるお茶を飲みながら校長の話を聞いている。

 彼女の仕事の量は決して少なくはないのだがそれでも夏休み前に終わらせてあるという。

 若き教師である彼女に深く物言いできないのは魔法科第五種魔法学部総担任という立場にあるからだ。

 魔法科の教師陣のトップ7の一人。歴代最年少の総担任という立場だけでも普通の人間からすれば圧倒的な勝ち組といわれ彼女は同年代では出世頭としても過言ではない。


 無論、そのせいで彼女を疎ましく思っている人間も少なくはない。

 アメリアを横目で睨み付けているラウラという女性教諭が一人。

 背丈は少し高い位で如何にもザマス口調で甲高い声でキーキー言いそうな容姿や眼鏡をかけている。

 彼女に何か言いたげだが考えては言いよどみを繰り返す。 


 更にその光景をやや小太りの人のよさそうな中年と少し厳つい顔のガタイの確りした普通人種ヒューマンだ。

 厳つい顔の男の方はいかにも戦士風だがこれでも高等部の第七種魔法学部の担任の一人である。


「あーあ、ライラ先生わかりやすいっすね」

「彼女の苛立ちも分からなくはないが見苦しいな」

「『交響楽団』の才能は元より、あの戦い方を育てたのは彼女でしたらねぇ」

「おかげで彼女だけじゃなく第七の講師陣かかる視線も鋭いものだ」


 シロエールの所為で各科の教師陣の間で微妙な亀裂がうまれている事は本人は知らぬだろう。

 第二種魔法学部が誇る対大多数戦闘、戦略魔法とすら言われていた彼女を失墜させたのだ。

 生徒の活躍は教師にとって多大なプラスとなる。実績を称えて宮廷お抱えの魔法師にとなった者もいる。

 キュリディーテの担任であるライラ・レウィリアもそういった思惑のある教師だった。


「そういえば、彼女は先生の教え子でしたっけ?」

「あぁ、優秀……と、言えば優秀だったな」


 中年の教師は苦々しい表情で自分の記憶の中の彼女の周囲の評価と自己評価を思い出す。

 彼女は特殊な存在だったと。


「しかし、校長先生の話長すぎやしませんかねぇ」


 校長の話が実に2時間を超え、そろそろ生徒達の退屈もピークに達した頃、教師陣からスケジュールを伝え強制的に撤収させられていく校長。

 その姿は例えるならそう、駄々をこねる子供のような中年のおっさんであり見慣れぬ新入生たちどころか在校生たちすら本当に大丈夫なのだろうかと不安にさせた。


 やっと長話から解放された生徒達は一息つき、後は流れ作業のように話が進行していった。

 そして連絡事項の通達の際、背がすらっと高く身長はおよせ2m近くある男が姿を現した。

 ゴツく、硬く、幾千幾万の航海を支えた竜骨のような傷だらけの体躯は歴戦の戦士の風貌を醸し出していた。

 

「さて、貴様らに連絡事項を通達する。新入生は入学時の案内を確認しているのを前提にするが、日没までに学園都市は封鎖を行う」


 結界や建築物の補修作業やその他諸々のため、夏休み期間中の学園は教師と一部の生徒以外は立ち入り禁止となり学園都市に静寂な日々が始まる。


「学園の鍵魔法師による各地の転送の申請書は先日までとなっている。これは覆らない、ゆえに遠国の生徒で提出を忘れたものは自力で帰郷手段を探すしかない。最も鍵魔法無しでは往復だけで休みが消えるのもいるだろうからその場合は自力で何とかしたまえ」


 学校の対応としては無責任ともとれるが提出しなかった生徒が悪いの一言ですまされる。

 別大陸の一般生徒はこの申請を逃せばおそらく一ヶ月間は首都でアルバイトで食いつないだり近隣諸国の生徒の家に厄介になるしかないだろう。

 貴族の中には近隣に別荘を拵え、そこに滞在することも多い。

 だが、一部の王侯貴族の生徒達になると話は異なる。数少ない鍵魔法師の中でも実用性のある者を抱え込む事は一種のステータスともいえるだろう。


「それでは各自、有意義な休みを過ごしたまえ」


 最後にその言葉を付けたし男は会場を後にした。彼の名はラインハルト・ジークフリード。

 この学園の卒業生であり数年前の戦いにて引退した元クロノス王国の将軍である。

 引退理由は詳しく伝わっていないが深々と残る彼の背中の傷を見たものはそれが原因だろうと語る。

 生徒達の声が活発になり各自教室ではなく帰郷するために移動を始める。




 保健室のベッドで眠るシロエール横で椅子に座り読書をするエクレール。

 本の内容はよくある昔話で、面白可笑しく有象無象を織り交ぜてお伽噺にしたてあげたものだ。

 制服でも何時ものメイド服でもなくアカネが制作させた丈が短くなったソレは、秋葉原でよく見かけるような萌えに重点をおいたデザインのものを着用している。

 中にはこれは実話だという説もあるが読んでいるエクレールはそういった面は考えずにいる。

 保健室のドアがコンコンッと軽快な音を響かせエクレールは読んでいた本を閉して立ち上がった。

 ノックをした人物に予想がついている。扉が開くとその通りの人物が入ってきた。


「シロ、終業式終わったよ。起きてー」

「少し予定より時間が長引いてしまったのですか?」

「校長先生話長かったからねぇ」


 アカネはシロエールの上にまたがり揺さぶり起こす。

 保健室の白雪姫と化しているシロエールは薄らと瞳を開いて一言、重いと呟く。

 おそらく誰でもそうしたらシロエールは答えるだろうがアカネは少しショックを受けたのだった。




 そろそろ日が沈みかける夕暮れ時、同郷の鍵魔法師は既に到着してい生徒と一緒に扉を潜っていった。

 アルテミス大公国お抱えの鍵魔法師は苛立ちを隠し切れずにいる。

 紫色のセミロングで眼光は鋭く外見は10代半ばにみえる森守種族エルフだが実際の所、つい最近三十路になったらしく今だ浮いた話もない。

 彼女は元々リーゼロッテ達の迎えに来る予定だった。しかし、当人が急遽今回は必要はないと手紙をよこしたのだ。その手紙はシロエールが彼女の屋敷に忍び込んだ翌日に送られたものである。

 他の仕事をいれてなかったのでやる事がなくなった彼女は折角だからと他の仕事を探していた所グーデリアン家からの要請が来たのだ。


 キュリディーテ・グーデリアンを連れ帰る事。

 卒業後が有望されていた少女だがリーゼロッテの手紙を届いた同時期に同じアルテミス出身の1年生に負けたとの話が舞い込んできた。

 女の噂好きは異世界でも変わらず、瞬く間にその話題は広まっていった。


 その後、彼女と連絡がとれない実家が痺れを切らし無理やり連れて帰ってきてほしいとお願いされた鍵魔法師は二つ返事でそれを受けた。

 やはり帰りたくないのだろう。彼女は教師に彼女が住んでいる場所を聞き出し屋敷へと向かう。

 そこには二人の付き人だけが残っていた。

 メイドや他の付き人なる生徒は学校側の鍵魔法師に送らせたらしく広い屋敷は怖いくらい静かであった。

 彼女達は何度もドア越しに呼びかけているが返事がないのだという。

 話を聞くとあの一件以来、屋敷を抜け出しては数日帰ってこないことはザラではなかったらしい。

 だが、昨日部屋に戻っていたのを見た者がいたのだ。

 部屋に灯りもついていたし彼女が再び抜け出さぬよう部屋一帯を監視していたが出た形跡もない。

 今日から夏休みだとキュリディーテは知っているはず。彼女も何年もこの都市に住んでいるのだから都市内にいる事は出来ないと知っているはずなのに一向に出る気配がない。


 仕方ないと鍵魔法師は詠唱を唱える。彼女の元来の属性は大地魔法オシリスだ。

 大理石の一部をまるでスピアの様に尖らせ扉を破壊する。可也強引ではあったがそのまま部屋へ入る。

 中は家具はそのままなのに生活臭はあるようで無い異質で淀んだ空気だ。

 キュリディーテの姿はなく、部屋を歩くたび気が重くなっていく。

 一歩、また一歩と進み、一角の壁に妙な違和感を感じた鍵魔法師は魔法で作った壁だと気づく。


「離れてなさい」


 彼女はその壁を壊す――。

 壊れた先を見た付き人の生徒は顔を真っ青にさせた。

 中から出てきたのは何度も、何度も、何度も何度も爪がはがれ血が飛び散ったのだろう所々赤黒く染まり引っ掻き傷だらけの壁だ。

 更にちょうど人1人分が通れるくらいの大きさで真下へと続いている。

 おそらく学園都市の地下水道へ続いてると思うがどうであれ彼女がここにはいないと3人は悟る。


 この日を境に学園に彼女の失踪届が提出される事となった。




 一方、その頃シロエール達は東にあるタカマガハラ大陸、アーレス帝国首都にいた。

 彼女達の夏休みは今始まろうとしていた。

夏休み編始まります。


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