乙女達のバカンス~3日目~Zwei
お久しぶりです。やっと落ち着いてきたので執筆再開できました。
「ねぇ、シロ、ホテルの露天風呂貸切できたから入らない?」
お昼過ぎホテル内のプールでの事。
アカネが不意にシロエールに聞いてくる。
当人等はリーゼロッテの水氷魔法で操作された水に浮かんでいる。
今日は皆で選んだ水色のワンピース水着を着ている。
ボディラインの色気は流石にないが水に濡れるシロエールの髪や白肌には魅力があった。
尚、ヒュッケは泳げないのと、ある理由で疲れ果てていた為棺桶で熟睡している。
「露天風呂この間行ってきたけどいい感じだったよー」
「ですです」
ミルクとフレイヤは貸切り風呂なんて贅沢だけど体験してみたい派である。
庶民的な二人は温泉を機に仲良くなっていた。
そんな二人の反応を見てシロエールは少し露天風呂に興味を示した。
「そうですね……アカネが折角貸切りにしたのですし良いかもしれないです」
「あら、じゃあ皆でいきましょうか~」
魔法の操作を止めてリーゼロッテも輪に入る。
和気藹々の中、プールは貸切ではない。
如何にしてシロエール達に取り繕うとチラチラを見ている者もいれば彼女達を邪険に思う者もいる。
彼女達が何のアクションを仕掛けないのはプール脇で監視をしているメーレ達の存在がある。
「あ、大人数でいいなら誘いたい子達居るんだけど……」
「私もフレイヤ先輩と同じくです」
フレイヤが大丈夫かな?といった感じでアカネに聞いてくる。
アカネは二つ返事といいたい所だがシロエールを見る。
シロエールはぷかぷか浮きながら考え込んでいる。
「べ、別にそんなに悩まなくていいよ?」
「……二人が誘いたいのであれば私は構わないのです」
ぶくぶくと顔半分水中に入れ泡をたてながら沈んでいく。
シロエールは息を抜き、身体を沈めながら水面をを見つめる。
温泉に一緒に入ると考えると余り気乗りしない。
だけど、二人が誘いたいって言える相手が少し気になった。
夕方――。
ロビーで待ち合わせとなった一行はソファに座りながらフレイヤ達を待つ。
相変わらず自分達の周辺をメーレ達が目を配らせている。
自分にとっては有難い事なので感謝の意をこめる。
まだ来ないのでエクレールの尻尾を撫でる。
急に撫でられ、びくっとするエクレールを尻目に撫で続ける。
段々と悦した表情となる頃に手を離す。
すると物寂しげに此方を見てくるけどこれでおしまい。
「連れてきたよ~」
フレイヤとミルクが手を振りながら此方にやってくる。
シロエールは二人の後ろに居る人物に目を向ける。
黒森守種族と兎耳尻尾科だった。
黒森守種族の方は見覚えがある。
入学式の挨拶の際、ダイキ・トゥーサカに声援を浴びせていた子だ。
「……貴方は武芸科の代表さん人のお知り合いですよね?」
「あ、は、はい、私はダイキの幼馴染でルーチェ・エミーニャと申します」
ルーチェが目上を相手にするようにぎこちなく挨拶する。
シロエール自分が半森守種族であるが故に黒森守種族であるルーチェに興味を示した。
「お久しぶり……魔法科代表さ……いえ、シロエール・ブランシュ・ヴァイスカルト伯爵令嬢様」
もう片方、兎耳尻尾科の少女をルーチェが小突いて呼び方を訂正させる。
シロエールはじーっとそんなクノンを見つめる。
そして数秒の沈黙の後、首をかしげた。
ピシっとクノンの眼鏡にヒビが入るような音がした。
成績通知にも名前は載っているし何度かすれ違ったこともある。
しかし、シロエールは全くと言っていいほど意識していなかった。
(あちゃ~)
アカネは入学式を思い出す。
シロエールはわざとテストで加減したのに1位になったのだ。
手抜きした自分より更に下だし性格上、他人をライバル視する欠片もない。
シロエールはワナワナしているクノンを見てアカネの後ろに隠れた。
「ご、ごめんねシロって人見知りな方だから……」
「あれだけの騒ぎ起こしておきながら人見知りですか」
眼鏡をカチャリと掛けなおすクノン。
大衆の面前に立つ際、シロエールは鍵魔法を使っている。
そうしないと人前にとてもじゃないけど出られない事を言う訳にもいかず苦笑するアカネ。
じーっとアカネの後ろから顔を覗かせつつシロエールは様子を見ている。
「貴方のお名前は?」
「……クノン・アインツェルンですよ」
これで分かったでしょ?という顔でクノンはシロエールを見る。
シロエールは少し上を向いて考え込む。
少し悩んだ後やっぱり分からないという顔で初耳ですとシロエールが言ってしまった。
「私は1年第七魔法学科の2位で貴女の次に名前が載ってるのに気にもしてないって事かしら!」
シロエールに向かって歩み寄るクノン。
だが、その歩みは直ぐに止まる。
クノンの喉仏に細い指先の爪が当たっている。
その爪は動けば引き裂さすと言わんばかりの殺気を纏っている。
「お嬢様にそれ以上近づくと……」
エクレールのその眼は完全にクノンを敵と判断している。
息を呑むクノン。
アカネはため息をつきながらエクレールの頭を軽く叩く。
「はいはい、これ位の事で脅したりしないの」
「び、びっくりした」
「だ、大丈夫クノン?」
「彼女はシロをライバルとして見てたから見て貰えてなくてちょっと拗ねたのよ」
「そ、そういうわけでは」
エクレールは不服そうな顔をしつつも渋々手を下げる。
フレイヤはエクレールの手の速度に追いつけず吃驚した。
アカネは御免ねーとクノンに謝る。
当のクノンは大丈夫だと平然を装いつつも内心物凄く震えていた。
エクレールの殺気が冗談抜きだった事とアカネの拗ねているという言葉の両方に対してである。
「アカネ」
「どうしたのシロ」
シロエールがアカネの裾を引っ張る。
彼女はクノンを奇怪そうに見つめながらアカネに囁く。
「……興味ない時はどうしたらよいのです?」
「あー、……もってあげて興味」
自分に対して対抗心を燃やしてどうするのだろうとシロエールは思う。
『知識』という存在によりスタート位置から違う自分と比べてもどうしようもないと。
尤も『知識』の事を知っているのはアカネだけである。
再びシロエールはクノンを見る。
自分に敵意を向けてくる相手にどう向き合えばいいのか皆目見当が付かない。
黒い髪に大きい兎耳赤縁の眼鏡から見える紫の瞳から自分に敵意を向けていて正直怖い。
しかし、今まで戦った相手のようなものではなく、殺気は無い。
ふと、それはゴルディが時折自分に向けてくる視線に近いものを感じた。
シルヴィアはゴルディのソレをお姉様が強くて嫉妬してるのと言っていた。
そして、その分尊敬もしていると。
ならゴルディと同じように扱えばいいのだろうか?
「……クノン……覚えましたのです」
アカネの後ろから顔を出し彼女の目を見ながらシロエールはおずおずと声を出す。
自分の想像、噂や大衆の前でみせた態度や言動とギャップの違いにクノンはため息をつく。
ふと、ダイキが最初に言っていた病弱で大人しそうなイメージという言葉を思い浮かべる。
確かに今自分と対面している彼女を好意的にみたらそう思うかもしれないと。
「え、ええ……よろしくお願いします」
こくこくと頷くシロエールをよくできましたーと頬ずりするアカネや、ほっとするエクレール達。
その光景をみたクノンとルーチェは駄々甘やかしだと内心思った。
そしてシロエールという人物を把握したのであった。
温泉への通路を歩くと、すれ違いに前に入っていた生徒が道を開く。
ぞろぞろと歩くシロエール御一行。
エクレールやアカネ達に囲まれる形でシロエールは歩いている。
他者から見たらまるで従える王、もしくは警護される重要人物だろうか?
実際の所は大衆の視線が苦手なシロエールへの配慮である。
温泉の入り口付近になるとすれ違う人がいなくなりシロエールは少し気が楽になった。
周囲を見る余裕が生まれ、卓球台に目が行った。
『知識』がいうには卓球台といって本格的なのから温泉地の定番といった情報が出てくる。
そして、これも別の世界から持ち込まれたモノだという事も。
この世界の娯楽や技術には、可也の割合でアカネと同質の人間が関与している。
本当にこれは偶然なのか、何かの作為すらシロエールには感じた。
「シロ、卓球に興味あるの?」
「そうではないです。ただ、エクレールとかがやると凄いことになりそうだなと思いまして」
「お風呂上りにやってみますか?」
脱衣所に入ると各々が籠を選び服を脱いでいく。
先輩達を除くとスタイルはエクレールの圧勝、次にリーゼロッテと並ぶ。
後はそう大差ないがフレイヤだけ異様に成長の限界を感じてしまうのは気のせいだろうか?
浴場のドアを開けると広く大きな露天風呂が広がる。
一部には屋根があり雨の日も普通に利用できそうだった。
「おー、広い広い」
「泳げそうな位ですね」
「いや、泳ぐのはダメよ」
いざお風呂に入ろうとシャワー側に足を進めた。
すると、エクレールが何かを感じたのか温泉の方を見つめ何か呟く。
じーっと自分もその方向を向いてみると不意に後ろから声をかけられる。
どうやら温泉の清掃員の方らしく、前のお客さんが落し物をしたらしい。
すぐ終わるらしいので私たちは一旦脱衣所へ戻る。
「落し物って何だろうねー」
「興味ないですわ」
「ところでさ、ダイキ・トゥーサカ君だっけ彼は何処出身なの?」
「ダイキですか?ダイキは私と同じクロノス王国の田舎のクレタ出身ですけど……」
「ふぅん」
アカネはダイキの存在は自分と同類だと考えている。
ルーチェの話を聞いていくとダイキという少年はクロノス王国から出たことがないらしい。
アカネが考えているとシロエールが手を引っ張る。
「どうしたのシロ?」
「アカネは彼に興味があるのです?」
シロエールの声のトーンが若干何時もと違った。
少しだけムッとしているようなやや冷ややかな感じがする。
アカネはシロエールの焼餅を多分、初めてみた。
初めて見せる態度や仕草にムズムズっと歓喜に近い何かが沸いて出る。
「ねぇ、シローもしかして妬いてるの?」
「知らないのです」
「妬いてるんでしょー?」
「存じないのですよぉー」
「愛い奴め~」
この二人の背中がかゆくなるような光景を見せられ数人程、ムムムといった表情となるのであった。
新年明けましておめでとうございます。
これからも宜しくお願いいたします。




